殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

おバカの時代

2010年11月02日 11時49分20秒 | 前向き論
気がつけば、何年も前から「おバカタレント」がテレビを席巻していた。

クイズ番組で珍妙な答えを言ったりするのが、いいらしい。

「物知りでない」…これは非常に魅力的なことだと

島田神助氏がまず気づき、遅れて世間が気づいた。


それまでのテレビは、見目形や頭脳が一般人より優れた者を中心に映し出していた。

そして視聴する庶民は、溜息をついて憧れるのが常識であった。

だが、彼らは違う。

答えを間違って喜ばれ、知らないことを知らないと言えば仕事になる。

昔は恥としてひた隠していたもの…バカが売り物になる時代が来たのだ。


ただし、見た目も頭も両方まずいのは、やはり無理。

じっとして黙っていたら、ちゃんと芸能人…という条件は必須のようである。

美しいのに頭がちょっと…

かっこいいのに常識が…

視聴者は、ただ憧れるのに飽き足らなくなり

隠された真実の姿があばかれる経過を、ショーとして楽しんだ。


不況は無関係ではないと思う。

給料は下がり、仕事は増え、先の見通しは暗い。

節約、縮小…会社でも家でも、首に「我慢」という

重いクサリをつけられたような気持ち。

そんな時に、バカを見ると気持ちがいい。


「こんな問題もわからないのか…オレにはわかるぞ」

そう思えば、胸がすく。

「こんなにバカなのに、芸能界で生きて行けるんだろうか…」

心配までしてあげる。

あわれでかわいい、ボンヤリした弟や妹を見る気分。

見下げる喜びというやつである。


しかし、ご心配にはおよばない。

なかなかどうして、彼らはしたたかであった。

まずバカを売り物に知名度を得、芸歴が長くなれば

やがて好きなことができるのだ。

ちょっとの間、バカと言われるくらい、何であろう。


しかも、たまにマシなことを言うと

「案外賢いじゃないか!」なんて感心されたりする。

インテリの場合、好き嫌いがはっきり分かれるが、バカを嫌う者は少ない。

敵を作らない商法は、市場を広範囲に保つ目的において、不況に効果的である。


バカは、知らないことを知らないと言える。

相手が喜んで心の扉を開く「教えてください」という

魔法の呪文を臆面もなく言える。

こんなことも知らないのか…と笑われても「はい!」と元気だ。

教えてもらうと「すごい!」と目を輝かせて喜ぶ。


小利口な人間…つまり人から賢いと思われたい

せめてバカと思われたくない人間は

行動する量よりも、考える量と口数のほうが圧倒的に多い。

人口の割合において、一番多いこのタイプが

自分は動かずに、口で周りを動かそうとするから摩擦が起きる。

同じような者同士、どちらがより優秀かを背伸びして競い合うので

お互いにしんどい。


ずば抜けて利口じゃないなら

早めにバカのガワへ回ったほうが安全である。

そのあきらめが自身の身を守り、人の心をなごませ、周囲を明るくする。

「おバカ」の「お」は、そのような人物を指す敬称と言えるかもしれない。


人は、人にものを教えるのが大好きだ。

勉強でも仕事でも道案内でも噂でも、みんな本当は教えるほうになりたいんだけど

教えてほしがる人がいなければ、教えられない。

教えるガワ、優位なガワになりたい者が多いから

無駄な比較や嫉妬で傷つき、消耗するのだ。

そんな競争率が高くて大変そうな「教えるガワ」よりも

ライバルの少ない「教わるガワ」に行ったほうが、断然有利である。


学力、能力に関係無く、教わることをいとわず、自分の評価を気にせず

頭であれこれ考えるよりも、実際に行動する人…

口数少なく、たまに面白いことをヒョロッと言い

いつもニコニコへらへら、おっとりしていて

知っていることをひけらかさず、知らないことには謙虚になれる人…

最終的には、それが自然にできる人が幸せをつかんでいる。

50年生きてきて、いろんな人との出会いや別れがあったけど

また会いたいな…と顔を思い浮かべる人というのは、皆そんな人だ。


「あれもできます、これも知ってます、ああ、それも前からわかってます」

と先回りして斜に構え、ウンチクと反論と分析の得意な

自称物知り、自称苦労人のことは、あんまり思い出さない。

何でもご存知なのに、幸せだけは手に入れられなかったのね…

などと意地悪く思ったことぐらいだ。


人に優秀と思われ、一目置かれる特別な存在を目指すよりも

また会いたいと思わせる人物を目指すことが、人生を楽しくするコツだと思う。

利口はおろか小利口の部類にも入れず、ただ口数だけが多い私は

自分で話しながら、おお…耳が痛い。
コメント (60)
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