こじんまりした店に到着。
中に入ると、真っ赤っかの打ち掛けがお出迎え。
スソに傷み除けの白いガーゼが巻いてある。
会友である貸衣装店から拝借した、流行遅れの貸衣装であることは一目瞭然。
これも相互協力というやつだ。
小柄で金髪ショートが印象的な初老の女性…
昭和のトンでる美容師みたいな女将が、ノロノロと出てくる。
「いらっしゃい…」
ニコリともせずに言うが、それはルリコだけに向けられたものだ。
この人見知り加減…さすがはあの会のメンバーである。
さらに私をチラリと見て「うわっ」と小さくつぶやく。
ハイヒールを履いた私の身長に対するものであろう。
世の中がオマエみたいなのばっかりじゃないわい…チビッコめが。
「友達?」
ぬらぬらとした唇をとがらせて、女将はルリコに尋ねる。
「うん…」
ルリコはあくまでこの方針を貫く所存らしい。
ルイーゼがなぜ食事券をくれたか、この時理解した。
女性経営者の会は、勘違いしたお山の大将で構成されている。
この女将はそれに加えて、ルイーゼと同じ雰囲気…
自分流のオシャレへのこだわりと強い先入観
さらに無愛想、つっけんどん、冷ややかさが備わる。
性格があんまり共通していると、お互い安全のために避けたくなるのであろう。
他の客は、身内らしきおじさんがカウンターで一人飲んでいるだけ。
何が「今日なら多少はゆっくりしてもらえるかも…」じゃ。
もったいぶりやがって。
コンクリ打ちっ放しの壁と、黒を基調にした内装は
よくある和モダンもどきというところか。
背伸びして気取った雰囲気を演じているものの、割り箸が粗末なのに驚く。
きれいに割れず、ホカ弁のほうがよっぽど上等だ。
料理の趣味が高じて店を出した…という触れ込みであったが
お刺身、卵とじ、天ぷら…
とりわけおいしくも、珍しくも、食器に凝っているわけでもなく
この分だと早晩閉店であろう…とほくそ笑む。
感動したのは、女将は料理をテーブルに運ぶだけで
一人一人の面前に置く手間は省くところ。
4人分の料理が載ったお盆をドンと置いて、あとは客のセルフだ。
小上がり座敷の下座に座った私が回すことになるが
よくある総柄プラスチックの椀ものを配ろうとして、逆鱗に触れる。
「向きが違うっ!」
「フタで見えないけど、中の料理に前と後ろがあるのよっ」
「おやおや…そうですか…すみませんねぇ」
だったらてめぇが配れ…と言いたいが、おとなげないので我慢する。
そもそも商売に向いてないのだ。
だからこそ、器じゃない女が器じゃないことをしたがるあの会にいられる。
マトモだったら無駄や矛盾に気づいてしまい、とても会員ではいられない。
さすが…こうでなくっちゃ。
怒られてまで手にした椀は
しんじょと手毬麩が汁の中に沈むありきたりなものであった。
あえて前後を問うとすれば、2枚の木の芽であろうか。
わたしゃ木の芽のために怒られたのね…。
さらに「食べるのが早いから忙しい」とボソッと文句を言われる。
少ないんだよ…量が。
食事が終わり、私は食事券とお金をルリコに渡して
とりあえずの支払いを頼んだ。
「ルリちゃんちの店の名前で領収もらえば」
優しい!私は、ルリコに相互でなく一方協力してやる。
ルリコ様にお引き回しいただいてる3人組を
エピローグまでしっかり演じきるのよっ。
支払いするのを見ていると、案の定しかめっ面でブツブツ言われてる。
「うちの食事券?あの時、誰に当たったっけ?あの人?この人?」
いまさら出所を確かめたって、どうにもなるまいに。
「食事券があるんなら、予約の時に言ってくれなきゃ…」
現金じゃないので、機嫌が悪い…フフフ…。
ここらへんが、私の底意地の悪さだと思う。
ルリコは文句を言われながらも、食事券の出所は明かさず
最後まで客を連れて来た会友を立派に演じた。
相互協力のためには、義理もスジも無いのだ。
このまま相互協力しながら堕ちて行け…。
夫は聞こえよがしに「ガスト行こうぜ、ガスト」などと言う。
夫なりの復讐だ。
「ちょっと~、よしなさいよ~」などとたしなめるフリをしながら
笑みは隠せない。
私は少々のことでは、その場で顔や言葉には出さない。
今後も表向きは、そのまま変わりなく付き合っていく。
そして本人の自業自得で没落の道を辿るさまを眺め
ひそかに喜ぶのはとても楽しい。
この後、ルリコを送ってから、3人で本当にファミレスに行った。
やっぱりこのトリオが落ち着く。
「あの会はやっぱりバカの集まりだ」と夫。
「びっくり…」初めて会の実情を目の当たりにしたマリ。
「同級生ってだけだからね!友達じゃないんだからね!」内心恥ずかしい私。
この日、マリを迎えに行ったら
春らしいスカーフをプレゼントしてくれた。
たまたま私の着ていたピンクのジャケットにぴったりだったので
そのまま首にかけていた。
帰ってから、夫はそれを指して言う。
「見ろ!マリとあの女の差!オマエの同級生はロクなのがいないな!」
オマエの女もな…と言いたいが、ここは我慢する。
「ほんとだねぇ…」
「やれやれ!小汚い婆ァどもに振り回された!」
「ごもっとも…」
その小汚い婆ァの中に、私も入っているかどうかを確認したかったが
聞くのは、はばかられた。
ましてや、何ヶ月かしたらまたあの店を訪れ
どうなっているか見てみたいなんて、とても言えやしない。
完
中に入ると、真っ赤っかの打ち掛けがお出迎え。
スソに傷み除けの白いガーゼが巻いてある。
会友である貸衣装店から拝借した、流行遅れの貸衣装であることは一目瞭然。
これも相互協力というやつだ。
小柄で金髪ショートが印象的な初老の女性…
昭和のトンでる美容師みたいな女将が、ノロノロと出てくる。
「いらっしゃい…」
ニコリともせずに言うが、それはルリコだけに向けられたものだ。
この人見知り加減…さすがはあの会のメンバーである。
さらに私をチラリと見て「うわっ」と小さくつぶやく。
ハイヒールを履いた私の身長に対するものであろう。
世の中がオマエみたいなのばっかりじゃないわい…チビッコめが。
「友達?」
ぬらぬらとした唇をとがらせて、女将はルリコに尋ねる。
「うん…」
ルリコはあくまでこの方針を貫く所存らしい。
ルイーゼがなぜ食事券をくれたか、この時理解した。
女性経営者の会は、勘違いしたお山の大将で構成されている。
この女将はそれに加えて、ルイーゼと同じ雰囲気…
自分流のオシャレへのこだわりと強い先入観
さらに無愛想、つっけんどん、冷ややかさが備わる。
性格があんまり共通していると、お互い安全のために避けたくなるのであろう。
他の客は、身内らしきおじさんがカウンターで一人飲んでいるだけ。
何が「今日なら多少はゆっくりしてもらえるかも…」じゃ。
もったいぶりやがって。
コンクリ打ちっ放しの壁と、黒を基調にした内装は
よくある和モダンもどきというところか。
背伸びして気取った雰囲気を演じているものの、割り箸が粗末なのに驚く。
きれいに割れず、ホカ弁のほうがよっぽど上等だ。
料理の趣味が高じて店を出した…という触れ込みであったが
お刺身、卵とじ、天ぷら…
とりわけおいしくも、珍しくも、食器に凝っているわけでもなく
この分だと早晩閉店であろう…とほくそ笑む。
感動したのは、女将は料理をテーブルに運ぶだけで
一人一人の面前に置く手間は省くところ。
4人分の料理が載ったお盆をドンと置いて、あとは客のセルフだ。
小上がり座敷の下座に座った私が回すことになるが
よくある総柄プラスチックの椀ものを配ろうとして、逆鱗に触れる。
「向きが違うっ!」
「フタで見えないけど、中の料理に前と後ろがあるのよっ」
「おやおや…そうですか…すみませんねぇ」
だったらてめぇが配れ…と言いたいが、おとなげないので我慢する。
そもそも商売に向いてないのだ。
だからこそ、器じゃない女が器じゃないことをしたがるあの会にいられる。
マトモだったら無駄や矛盾に気づいてしまい、とても会員ではいられない。
さすが…こうでなくっちゃ。
怒られてまで手にした椀は
しんじょと手毬麩が汁の中に沈むありきたりなものであった。
あえて前後を問うとすれば、2枚の木の芽であろうか。
わたしゃ木の芽のために怒られたのね…。
さらに「食べるのが早いから忙しい」とボソッと文句を言われる。
少ないんだよ…量が。
食事が終わり、私は食事券とお金をルリコに渡して
とりあえずの支払いを頼んだ。
「ルリちゃんちの店の名前で領収もらえば」
優しい!私は、ルリコに相互でなく一方協力してやる。
ルリコ様にお引き回しいただいてる3人組を
エピローグまでしっかり演じきるのよっ。
支払いするのを見ていると、案の定しかめっ面でブツブツ言われてる。
「うちの食事券?あの時、誰に当たったっけ?あの人?この人?」
いまさら出所を確かめたって、どうにもなるまいに。
「食事券があるんなら、予約の時に言ってくれなきゃ…」
現金じゃないので、機嫌が悪い…フフフ…。
ここらへんが、私の底意地の悪さだと思う。
ルリコは文句を言われながらも、食事券の出所は明かさず
最後まで客を連れて来た会友を立派に演じた。
相互協力のためには、義理もスジも無いのだ。
このまま相互協力しながら堕ちて行け…。
夫は聞こえよがしに「ガスト行こうぜ、ガスト」などと言う。
夫なりの復讐だ。
「ちょっと~、よしなさいよ~」などとたしなめるフリをしながら
笑みは隠せない。
私は少々のことでは、その場で顔や言葉には出さない。
今後も表向きは、そのまま変わりなく付き合っていく。
そして本人の自業自得で没落の道を辿るさまを眺め
ひそかに喜ぶのはとても楽しい。
この後、ルリコを送ってから、3人で本当にファミレスに行った。
やっぱりこのトリオが落ち着く。
「あの会はやっぱりバカの集まりだ」と夫。
「びっくり…」初めて会の実情を目の当たりにしたマリ。
「同級生ってだけだからね!友達じゃないんだからね!」内心恥ずかしい私。
この日、マリを迎えに行ったら
春らしいスカーフをプレゼントしてくれた。
たまたま私の着ていたピンクのジャケットにぴったりだったので
そのまま首にかけていた。
帰ってから、夫はそれを指して言う。
「見ろ!マリとあの女の差!オマエの同級生はロクなのがいないな!」
オマエの女もな…と言いたいが、ここは我慢する。
「ほんとだねぇ…」
「やれやれ!小汚い婆ァどもに振り回された!」
「ごもっとも…」
その小汚い婆ァの中に、私も入っているかどうかを確認したかったが
聞くのは、はばかられた。
ましてや、何ヶ月かしたらまたあの店を訪れ
どうなっているか見てみたいなんて、とても言えやしない。
完