殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

魔物退治

2010年03月25日 08時17分03秒 | みりこんぐらし
「オレはもうダメかもしれん…」

先日、夫が沈痛な面持ちで言った。

あ~ら、元々ダメオじゃ~ん…と思うが、優しい!私はそんなことは言わない。


このところ彼は、毎晩ひどくうなされている。

いつも決まって、どう猛なケモノに襲われる恐ろしい夢を見るという。

得体の知れないケモノは、決まって首に噛みつき、離れないという。

要するに首が痛いのだそうだ。


寝不足で憔悴しきっている夫。

夫も寝不足かもしれないけど、私達も寝不足だ。

行いが行いなので、昔からよくうなされる男だったが

今回はさらに尋常でない騒ぎよう。

断末魔の叫びは、男性でもソプラノになると知ったほどである。

毎日通っているお気に入りの整体院で

どうにかしてもらえばよかろうに、ちっとも改善されないそうだ。


子供達は言う。

「魔物だ…たたられているんだ…今までのツケがきたんだ…」

夫が恐怖に怯えた表情をすると、ますます言う。

「取り憑かれて、もう連れて行かれるんだ…僕にはわかる…」

「僕もそう思う…人間は、いつまでも絶好調じゃないんだ…」


まっもっのっ!まっもっのっ!…二人は声を揃えてはやし立てる。

私も加わり、エムエー!エムオー!エヌオー!チャチャッ!

夫を取り囲んで、かけ声に手拍子で魔物音頭(急遽命名)を踊る。


まあ、いつまでも踊っていてもしょうがないので、私が魔物退治をすることに。

なんてことはない…マッサージだ。

五十肩で苦しむ私は、ここにコメントしてくださる皆様にずいぶん助けてもらったが

夫にも世話になった。

あれが良いと聞けば手に入れてくれ、これが効くと言われれば試してくれた。

まるで夫婦のようだった…当たり前か。

そこで、せっかく伸ばした爪を切り、ひとまずここで恩返しだ。


触ってみると、確かに首の左側が硬い。

しかし「頸椎を傷めているかも…」という夫の主張には賛同しかねる感触。

首から肩、腕と下がって、左ヒジの関節の内側をギュッとつまんだら

「ギャッ!」と叫んだ。

お腹を押さえたら鳴く人形みたいで、ものすごく楽しい。


力を入れてつまむのを繰り返して楽しみ

飽きたら今度は、左手の親指の根元にある

ふくらんだ所をギュッと押さえる。

「ギャ~!痛いっ!」

夫を苦しめる魔物は、どうやら親指に潜(ひそ)んでいるらしい。


夫は痛みに関しては、かなり我慢強いほうである。

片足を引きずって歩いているので、どうしたのかと聞くと

「おととい縫った」と言ったこともあった。

朝食を食べないので、どうしたのか聞くと

「今日は胃カメラ」「大腸検査」ということもよくある。

普段、腰が痛むとは言うけど、現在起きている現象に対して

「痛い」と反応するのは、もしかしたら結婚以来、初めてかもしれない。


クリームをつけて、夫の親指の付け根をガンガンもみ

もだえ苦しむ珍しい反応をしばらく楽しむ。

腱鞘炎の一歩手前というところか。

もんだら悪化するかもしれないけど、かまうものか。

もう私には、魔物の正体がわかっていた。


マッサージを終えたら、夫は

「すごく楽になった!」と嬉しそう。

首のコリも柔らかくなっている。

その夜からうなされることはなくなり、静かになった。

やれやれだ。


この次、また首が痛いと言い出したら、言ってやろうと思う。

「愛人とメールするのを減らしなさい」

ラブラブメールで傷めた指や首をもまされるのは

なんだか馬鹿馬鹿しい気がする。


夫は左手でメールを打つ。

でっかい手で、小さい携帯に向かって頻繁にするから無理がくる。

一度好きになったら、それこそ魔物かナンカに追い立てられるようにメールに励む。


ここにきて、長年の無理が表面化したのだと思う。

向こうも返してくるから、延々と続くんだろうけど

愛人ちゃんの親指は、大丈夫だろうか。
コメント (20)
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