「オレはもうダメかもしれん…」
先日、夫が沈痛な面持ちで言った。
あ~ら、元々ダメオじゃ~ん…と思うが、優しい!私はそんなことは言わない。
このところ彼は、毎晩ひどくうなされている。
いつも決まって、どう猛なケモノに襲われる恐ろしい夢を見るという。
得体の知れないケモノは、決まって首に噛みつき、離れないという。
要するに首が痛いのだそうだ。
寝不足で憔悴しきっている夫。
夫も寝不足かもしれないけど、私達も寝不足だ。
行いが行いなので、昔からよくうなされる男だったが
今回はさらに尋常でない騒ぎよう。
断末魔の叫びは、男性でもソプラノになると知ったほどである。
毎日通っているお気に入りの整体院で
どうにかしてもらえばよかろうに、ちっとも改善されないそうだ。
子供達は言う。
「魔物だ…たたられているんだ…今までのツケがきたんだ…」
夫が恐怖に怯えた表情をすると、ますます言う。
「取り憑かれて、もう連れて行かれるんだ…僕にはわかる…」
「僕もそう思う…人間は、いつまでも絶好調じゃないんだ…」
まっもっのっ!まっもっのっ!…二人は声を揃えてはやし立てる。
私も加わり、エムエー!エムオー!エヌオー!チャチャッ!
夫を取り囲んで、かけ声に手拍子で魔物音頭(急遽命名)を踊る。
まあ、いつまでも踊っていてもしょうがないので、私が魔物退治をすることに。
なんてことはない…マッサージだ。
五十肩で苦しむ私は、ここにコメントしてくださる皆様にずいぶん助けてもらったが
夫にも世話になった。
あれが良いと聞けば手に入れてくれ、これが効くと言われれば試してくれた。
まるで夫婦のようだった…当たり前か。
そこで、せっかく伸ばした爪を切り、ひとまずここで恩返しだ。
触ってみると、確かに首の左側が硬い。
しかし「頸椎を傷めているかも…」という夫の主張には賛同しかねる感触。
首から肩、腕と下がって、左ヒジの関節の内側をギュッとつまんだら
「ギャッ!」と叫んだ。
お腹を押さえたら鳴く人形みたいで、ものすごく楽しい。
力を入れてつまむのを繰り返して楽しみ
飽きたら今度は、左手の親指の根元にある
ふくらんだ所をギュッと押さえる。
「ギャ~!痛いっ!」
夫を苦しめる魔物は、どうやら親指に潜(ひそ)んでいるらしい。
夫は痛みに関しては、かなり我慢強いほうである。
片足を引きずって歩いているので、どうしたのかと聞くと
「おととい縫った」と言ったこともあった。
朝食を食べないので、どうしたのか聞くと
「今日は胃カメラ」「大腸検査」ということもよくある。
普段、腰が痛むとは言うけど、現在起きている現象に対して
「痛い」と反応するのは、もしかしたら結婚以来、初めてかもしれない。
クリームをつけて、夫の親指の付け根をガンガンもみ
もだえ苦しむ珍しい反応をしばらく楽しむ。
腱鞘炎の一歩手前というところか。
もんだら悪化するかもしれないけど、かまうものか。
もう私には、魔物の正体がわかっていた。
マッサージを終えたら、夫は
「すごく楽になった!」と嬉しそう。
首のコリも柔らかくなっている。
その夜からうなされることはなくなり、静かになった。
やれやれだ。
この次、また首が痛いと言い出したら、言ってやろうと思う。
「愛人とメールするのを減らしなさい」
ラブラブメールで傷めた指や首をもまされるのは
なんだか馬鹿馬鹿しい気がする。
夫は左手でメールを打つ。
でっかい手で、小さい携帯に向かって頻繁にするから無理がくる。
一度好きになったら、それこそ魔物かナンカに追い立てられるようにメールに励む。
ここにきて、長年の無理が表面化したのだと思う。
向こうも返してくるから、延々と続くんだろうけど
愛人ちゃんの親指は、大丈夫だろうか。
先日、夫が沈痛な面持ちで言った。
あ~ら、元々ダメオじゃ~ん…と思うが、優しい!私はそんなことは言わない。
このところ彼は、毎晩ひどくうなされている。
いつも決まって、どう猛なケモノに襲われる恐ろしい夢を見るという。
得体の知れないケモノは、決まって首に噛みつき、離れないという。
要するに首が痛いのだそうだ。
寝不足で憔悴しきっている夫。
夫も寝不足かもしれないけど、私達も寝不足だ。
行いが行いなので、昔からよくうなされる男だったが
今回はさらに尋常でない騒ぎよう。
断末魔の叫びは、男性でもソプラノになると知ったほどである。
毎日通っているお気に入りの整体院で
どうにかしてもらえばよかろうに、ちっとも改善されないそうだ。
子供達は言う。
「魔物だ…たたられているんだ…今までのツケがきたんだ…」
夫が恐怖に怯えた表情をすると、ますます言う。
「取り憑かれて、もう連れて行かれるんだ…僕にはわかる…」
「僕もそう思う…人間は、いつまでも絶好調じゃないんだ…」
まっもっのっ!まっもっのっ!…二人は声を揃えてはやし立てる。
私も加わり、エムエー!エムオー!エヌオー!チャチャッ!
夫を取り囲んで、かけ声に手拍子で魔物音頭(急遽命名)を踊る。
まあ、いつまでも踊っていてもしょうがないので、私が魔物退治をすることに。
なんてことはない…マッサージだ。
五十肩で苦しむ私は、ここにコメントしてくださる皆様にずいぶん助けてもらったが
夫にも世話になった。
あれが良いと聞けば手に入れてくれ、これが効くと言われれば試してくれた。
まるで夫婦のようだった…当たり前か。
そこで、せっかく伸ばした爪を切り、ひとまずここで恩返しだ。
触ってみると、確かに首の左側が硬い。
しかし「頸椎を傷めているかも…」という夫の主張には賛同しかねる感触。
首から肩、腕と下がって、左ヒジの関節の内側をギュッとつまんだら
「ギャッ!」と叫んだ。
お腹を押さえたら鳴く人形みたいで、ものすごく楽しい。
力を入れてつまむのを繰り返して楽しみ
飽きたら今度は、左手の親指の根元にある
ふくらんだ所をギュッと押さえる。
「ギャ~!痛いっ!」
夫を苦しめる魔物は、どうやら親指に潜(ひそ)んでいるらしい。
夫は痛みに関しては、かなり我慢強いほうである。
片足を引きずって歩いているので、どうしたのかと聞くと
「おととい縫った」と言ったこともあった。
朝食を食べないので、どうしたのか聞くと
「今日は胃カメラ」「大腸検査」ということもよくある。
普段、腰が痛むとは言うけど、現在起きている現象に対して
「痛い」と反応するのは、もしかしたら結婚以来、初めてかもしれない。
クリームをつけて、夫の親指の付け根をガンガンもみ
もだえ苦しむ珍しい反応をしばらく楽しむ。
腱鞘炎の一歩手前というところか。
もんだら悪化するかもしれないけど、かまうものか。
もう私には、魔物の正体がわかっていた。
マッサージを終えたら、夫は
「すごく楽になった!」と嬉しそう。
首のコリも柔らかくなっている。
その夜からうなされることはなくなり、静かになった。
やれやれだ。
この次、また首が痛いと言い出したら、言ってやろうと思う。
「愛人とメールするのを減らしなさい」
ラブラブメールで傷めた指や首をもまされるのは
なんだか馬鹿馬鹿しい気がする。
夫は左手でメールを打つ。
でっかい手で、小さい携帯に向かって頻繁にするから無理がくる。
一度好きになったら、それこそ魔物かナンカに追い立てられるようにメールに励む。
ここにきて、長年の無理が表面化したのだと思う。
向こうも返してくるから、延々と続くんだろうけど
愛人ちゃんの親指は、大丈夫だろうか。