殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

視察

2010年03月17日 20時04分51秒 | みりこんぐらし
「あ、その日は無理…視察が入ってるから」

ルリコである。

夫の姉カンジワ・ルイーゼが副会長を務める「女性経営者の会」の一員となった…

先月、変な店に一緒に食事に行った…

あの同級生のルリコ様である。(3月3日「相互協力・1」)


ルリコはこの間、うちらのライフワークである同級生バンドにも入ったのだ。

「やりたい」と言う者を「ダメ」とは言えない。

冒頭の言葉は、練習日程を決める時に発せられた。

「女性経営者の会で、工場視察なのよ」

我が町にある重工業系の工場に行くと言う。


物心ついてから今まで、こういうのって「見学」というんだと認識していた。

「視察」は、官僚や政治家のする

なにげに上から目線の出張みたいなもん…と思っていた。

鼻持ちならないオバサンが、ヒマつぶしに群れて見に行くのも視察って言うのね。

知らなかったわ~…あ~ら、びっくり。


会を主宰する団体も、うまいことを考えたものだ。

こうして無意味なイベントを次々と企画しては

さりげなく持ち上げ、プライドをくすぐって会費をせしめるのね。


10年ほど前まで、町の人はこぞって、その工場に入社したがった。

給料が、本社のある関東ランクで、福利厚生も充実しており

たとえヒラの工員といえど、そこに入りさえすれば家が建ち

子供を大学にやれた。

言うなれば、一発逆転ができたのだ。


飲食店を始め、町の経済はその工場に左右されている部分があり

「うちは○○社のお客さんが多いから…」

というのは、そのまま安定を指していた。

数百名の社員も、自信と誇りに満ち溢れていた…

悪く言えば、そこの社員や家族というだけで

威張り散らす者も少なくなかった。

不況の今はその名残りもないが

言うなれば、女性経営者の会が視察するにふさわしい勘違い工場なのだ。


先週、工場内で火事があった。

ISOだ安全ナントカだと騒ぐわりには

何年かおきに爆発やら火事やら起きる。


去年だったか一昨年だったか、工場にある高い煙突を利用した社員の自殺が

一ヶ月のうちに3件続いた。

仕事中に煙突の下を通りかかるなり、すすす…と登って

あれよあれよと言う間に飛び降りたという。

配置転換とリストラが原因とささやかれた。

まったく、私好みのすばらしい工場である。


ルリコは言う。

「女性経営者の会に入ってから、自分が変ったような気がするの。

 もっといろんなことに積極的に参加して、社会貢献するべきだと思ったのよ。

 すごく勉強になる」

変ったよ…確かに…真逆だよ。


今まで隠れていたはずの女性特有の虚栄や優越感が

何らかの刺激でいったん引き出されると

潜伏期間が長かった分、限界知らずの数値を示す。

朱に交われば赤くなると言うけど、後から来て染まったほうが

元の朱よりさらに赤くなるのは、世の常である。


「視察が済めば、私もちょっと体があくから」

ルリコは眉間にシワを寄せて、スケジュール帳と我々を交互に見ながら言う。

いっそすがすがしい気取りっぷりに、他の者は顔を見合わせた。

その様子をながめ、ひそかにほくそ笑む私。


ルリコはますます調子に乗る。

「来月の予定もびっしりだから、合間でお願いね」

別にあんたが練習に来んでもかまわんし…。

商売のために女性経営者の会に入会したんだろうに

こう忙しくては、いつ商売するのであろう。

「都合のいい日はね…○日と、○日と…あ、この日はまた視察だわ…」


そんなに視察ばかりして、何の役に立つのか聞いてみた。

「まず実態を見るのよ。

 見なきゃ何も始まらないでしょ。

 それが視察じゃないの」

見て歩いてるうちに、人生終わってしまうような気がするけど…

そうよね…私のようなシモジモには理解できないわね。


いいぞ…ルリコ…どんどん登ってくれぃ…。

サスペンス・ドラマに出てくる女社長みたいで、かっこいいぞ。

ドラマでは、高飛車な女社長はたいてい早めに殺される。

その死因は刺殺でどうだろう。
コメント (22)
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