秋も深まってきた。
冬が近い。
フグの季節がやってくる。
大好物のフグ…。
その中で最も愛する白子…。
この味を九州の仲居時代に覚えてしまった。
私の居た地域は価格も手ごろで、扱う店も多かった。
皆さん焼き肉と同じノリで、わりと気軽にフグを食す。
一介の仲居とて「勉強」と称してフグを食べに行った。
勤めていた店でも出していた。
フグのさばかれるありさまは痛々しい。
イケスから連行され、まな板の上に寝かされた彼(彼女?)…。
これから訪れるであろう運命を甘受するかのような
そりゃもういさぎよい横たわりっぷり。
まず何をされるかというと
突き出たお口をバッサリ切り落とされる。
歯が鋭いので、まず板前の安全を確保するらしい。
イテテテ…思わず自分の口に手を当て、つぶやいてしまう。
絶対フグに生まれたくない…強く願う。
すまんのぅ…フグ。
それから各部位に分けられ
ガーゼに包まれて、冷蔵庫へ安置。
困った部分は鍵のついたステンレスのケースへ。
ヒレは大きな板に標本のように貼り付けられる。
乾燥させてヒレ酒になるのだ。
おっと!ヒレ酒もこたえられん!
陶器のコップの底にヒレを数枚…
そこへ熱燗をなみなみと注ぎ、塩をひとつまみ。
対のフタをして、飲む前に開け
すかさずマッチで火をつける。
ポッ…と一瞬酒が燃える。
適度にアルコールが抜け、口いっぱいにひろがる香ばしさとうまみ。
カ~ッ!日本に生まれてよかったばい!
白子に戻ろう…
白い明太子みたいな形状をまるごと火葬…
いや、塩焼きにしてもらう。
そっけないほどクセの無い、とろりとした食感、滋味、甘み。
本来の役割りをかんがみれば
これほど期待を裏切ったまろやかな美味があろうか。
フグ刺しから少し遅れてご登場まします
荘厳かつシンプルなお姿に、思わずコウベを垂れるワタクシ。
主役を引き立てながらも、しっかり個性を光らせて引き締める…
そうね…まるでアイドル主演ドラマの脇を固める市原悦子。
こちらは白子どころか、フグそのものがあまり出回らない。
いくら好きだと言っても
スーパーのパック入り刺身や鍋セットは買わない。
もどきはいやじゃ。
気休めはいやじゃ。
目指すは天然トラフグじゃ~!
よって、免許のある料理屋に頼んで取り寄せてもらい
食べに行く。
家で通販という手もあるが、せっかくのフグ…
プロの手でふるまわれたい。
日頃つつましく暮らしているのだ…それくらいは許されるはずだ。
もちろん現地へ赴くに越したことはない。
だがセコい私は、旅費でもう1~2回食べられると考える。
今年も無事に生き延びて、フグと再会するんじゃ。
惜しむらくは、同行者。
家族はフグに興味を示さないので、相手は友人となる。
できればあんたじゃなくて、ステキな男性と座敷でしっぽり…
なんてことになりたいものだ…
いつもそう言い合う。
しかもそのおかたのオゴリであれば、言うこと無し。
フグの時だけは、なぜかそう思う。
フグの身の清廉な白さが
生々しさを昇華してくれるような気がする。
しかし貞淑な私は心配でもある。
フグの精巣(せいそう)という一種ハシタナげな食品に
目の色を変えて飛びつくワタクシをごらんになって
そのおかたは何とお思いになるであろうか。
スッポンを食べるのと、どっちがモンダイであろうか…。
“妄想に 胸を痛める 秋の空
そんな心配 デキてからしろ”
あ、仲居の時、お座敷で作っていましたけれど
フグちりの後の雑炊は
少なめのごはんをサッと水洗いするのがコツです。