日本語学校からこんにちは ~水野外語学院~

千葉県市川市行徳にある日本語学校のブログです。日々の出来事、行事、感じたことなどを紹介しています。

「草花に『思い』を託す」。「(初級)女子学生が『川村学園女子大学』へ去った後の、男子学生」。

2009-07-08 08:13:36 | 日本語の授業
 今朝も曇り。けれども、今日のお空は「梅雨時の空」と言うよりも、「お盆明けの秋空に近い」と言った方がいいのかもしれません。その上、台風でも来たのかと思われるほどの大風が吹いています。ただ、湿度は、同じです。ムシムシしています。まるで一雨来そうな、そんな感じなのです。

 今日は、いつも通っている道の反対側を走ってきました。見る角度が変わると見える風景も違ってきます。今まで気がつきませんでしたが、あるお宅は、オレンジ色の「カンナ」が垣根のように並べられ、内の風景を遮っていました。道よりも三段ほど高いお宅なのですが、道路と敷地の境目に丈高い「カンナ」を並べて植えていたのです。確かに、「カンナ」は葉も大振りだし、丈も高いから一㍍ほどは見えません。でも、何となく変ですね、これは。「カンナ」の色が、夕陽の色、落日の色なのです。そんなわけでもないでしょうが、家の境に置くべきものではないような気がするのです…。

ききょう

 「落日」と言えば、そろそろ「キキョウ(桔梗)」の花が盛りを過ぎようとしています。近所の「キキョウ」も、花数は多いのですが、すっかり色褪せてきました。あの深い湖の濃紺色が失せているのです。こうなりますと、「秘めた思い」というよりは、「秋の扇としての思い」になってしまいます。興ざめになると、花は、辛いものですね。

 人はその時々も「自分の思い」を草花や木々、或いは人間以外の動物にたとえてきました。人の心が、頼りないものだからなのかもしれません。瞬時にして変わってしまう「思い」というものもあります。口があるから「そら言」も言うし、「花心(浮気心)」もある。それに比べ、動植物、或いは海や山にはある一筋の思いしかないように、感じられるのです。それ故、「今」を、それに仮託するのでしょう。

 ただ、移ろいやすい「人の心」や「人生」に比べ、、「海」や「山」は、あまりにも強靱です。引き合いに出せたとしても、それは「誓い」の時くらいなもので、やはり、その時々の思いにはふさわしくありません。

 それに、人は「滅びゆく美」が好きですもの。花々の「盛り」だけでなく、花々の「末」をも愛すのです。「落日の美」は、「これきり」と思い定めて見るから、よりいっそう美しく感じられるのでしょうし。しかしながら、また、明日もあろうものを、どうして人はそういう気持ちになるのでしょうか。同じ「陽」にしても、「朝日」には、今日一日とか、また明日もと言う気持ちになれるものを、「夕陽」に限ってはだめなのです。
 例えば「落城」、例えば「別れ」、例えば「末期」、そんな言葉が自然につらつらと出てきます。最後の燦めき程美しいものはないと、いつから人は思うようになったのでしょう。

 さて、学校です。
 昨日は、「初級クラス(「C、D、Eクラス)」の女子学生達が、「川村学園女子大学」へ、学生さん達の「模擬授業」を受けに行きましたので、午後のクラスは、わずかな男子学生だけとなりました。

 いつもは、元気のいい女の子達に押されっぱなしで、あまり発言することも出来ない男子学生達と、まあ、「作文」の授業を兼ねて、いろいろなおしゃべりをしました。置いてかれた男子学生の国籍は、中国、インド、スリランカ、ネパールです。

 初めは、「(将来、或いはこれから)何をしたいか」という「問い」だったのですが、話はどんどん脱線していきます。彼らは、この「問い」に対する「答え」というよりも、この「問い」をきっかけにして、現在の自分の情況から、導き出される「思い」の方に、引きずられていったようです。「まあ、それはそれでいい」と、私もそれに引きずられながら、一方で、彼らの心を探っていきました。

 なにせ、いつもは、威勢のいい女子学生達が、ピーチクパーチクと囀り、男子学生の声など押しつぶされてしまっているのです。しかも、抵抗しようものなら、一斉に反撃を食らいます。大人しくしているのが、何よりの「生き残りの道」とばかりに、息を潜めていたというのが実情でしょう。

 問いかけてみると、四月に来たばかりの学生達には、皆、曰く言い難い思いがあったようです。私のそれに対する答えも、一つ一つの回答にはなっていなかったかもしれませんが、一人への「答え」が、またあらたな「問い」を生み出していくようで、この連鎖の受け答えは、しばらく続いていきました。

 これも互いを理解していく上で、決して無意味なことではないのですが、他者に対する関心をほとんど持っていない、一人の中国人学生は、最後までその輪の中に入ることが出来ませんでした。「他者の思い」を我が事として考える。また、他者の胸中を窺うことが、己の「魂」の理解にもつながる可能性があるなどということは、彼には全く関心のないことだったのです。きっと「無駄な時間だ」と、心の中で舌打ちをしていたことでしょう。

 これは、人それぞれ(何に価値を置くか。或いは何に好奇心があるかということで、人の「生き様」にも関係してくるのですが)ですから、そういう、彼の態度について非難する気持ちは、私にはありません。既に二十数年をそのような価値観の中で生きてきたのですから。それに、周りもきっとそうだったでしょうし。

 おそらく、こういうタイプの人にとっては、他者は常に、枠外の存在なのです。好き嫌いがないというよりも、どうでもいい存在なのでしょう。関心を持ってしまうから、好きにもなり、嫌いにもなるのです。

 多分、これは、彼が自分以外のだれかに関心を持ち、(自分を)理解されたいという思いよりも、その人を理解したいと思う気持ちになれるまでは、理解できないことでしょう。ただ、彼以外の学生達は、その渦の中にすっぽりと巻き込まれ、それなりに、他者の「問いかけ」に答えていました。こうなると、私は「添え木」と化し、時々、軌道修正(あまりに大きい脱線は見逃せません)するか、日本語の補助をするくらいの存在になってしまいました。本当は、一番いいのは、自分で自分自身に問いかけ、それに自分で答えていくという形なのですが、昨日の様子では、まだまだ無理のようです。問題の「在所」さえ、判りかねているという学生が何人かいましたから。

 過激な発言をしがちな学生や、他者の気持ちを踏みにじり、勝手なことを言ってしまうといった学生が休んでいましたので、それでも、話は和やかに進んでいきました。「初級Ⅰ」が終わる(「Dクラス」は「初級Ⅰ」が終わったばかり、「Cクラス」は、「初級Ⅱ」が終わったばかり)と、もう自分の気持ちを、ある程度は言い表せるようになるものなのですね。一人が言いよどむと、私ではなく、だれかがその人の気持ちを忖度して、ふさわしいであろう言葉を探してやっていました。

 実は、授業前は、うるさくて、怖い女子学生達がいなくて、「萎んだ風船」のようになっているかなと想像して、「活を入れる」ための準備をしていたのですが、杞憂にすぎました。次の時間(「自然(黒部)」のDVDを見せながら、それに関する単語を入れたり、説明を加えたり)も、学生達は、積極的に楽しみ、感想を述べていたようです。

 「語学学校」というのは、女性が多く、しかも、積極的で、まじめな人が大半を占めていると相場が決まっているようですから、男性陣は、ややもすると、隅っこに追いやられてしまいます。「Cクラス」では、一人インド人男性のRさんが、気を吐いていますが、最近はオーナーに信頼され、仕事が増え、夜12時から2時までしか、勉強できなくなったと嘆いていましたから、直に、彼も暗闇に沈み込んでしまうかもしれません。

 不思議なもので、クラスでそれなりの存在感を示せるかどうかは、(ここ日本語学校においては)日本語のレベル如何で決まってしまいます。レベルが高ければ高いほど、クラスの中で存在感が増していくのです。Rは、頑張り屋さんで常識もある、しかも四年生の大学を出ている、その上、素直なのです。ここで言う「素直」というのは、教師が「これをした方がいい」ということを、無心に聞いてその通りにするという意味です。インドでの勉強のやり方は、日本語を習得する上では、多分ほとんど役に立たないと言ってもいいでしょう。彼の前に来たインド人はそれで失敗しましたから。いくら言っても、自分のやり方を変えることができなかったのです。そして、完全に沈没し、下のクラスへ、と沈み込んでいくほかないのです。

 このRさんは、私たちが「今はこれをしなさい」と言ったことを地道にし、「もうそれはいいから、これからはこれにしなさい」と言ったら、また直ぐその通りにするのです。ただ、昨日も、こんなことをこぼしていましたが。
「先生、Dさんは、仕事がなくて困っています。でも、私は仕事はありますけれど、勉強する時間はなくなったので困っています」

 彼の仕事は友人が紹介してくれたもの。その友人への義理や恩義からも、簡単にやめたり、逃げたりすることはできないのでしょう。
 大変ですが、続けていくしかありません。けれども、この行動は「捨て石」ではないのです。それが、きっと人々の信頼にもつながり、次のステップを切り開いていく上での土台ともなるでしょうから。

 おやおや、そんなことを書いているうちに、お空が涙目になってきました。それどころか、パラパラと降ってきたような…。傘をさして自転車に乗る技術のない、あの二人は、今日は「歩き」ですね。

日々是好日
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「七夕」。「新クラス『開講... | トップ | 「忙しい、忙しい。学生がい... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

日本語の授業」カテゴリの最新記事