「もしドラ」ってのがはやってるんですかね。逆にいえば、経営学の理論を導入しないと甲子園には行けないというのは何とも窮屈な、ビジネスライクな話だなという気がする。いわゆる甲子園での名将と呼ばれた人たちにはそこまでの考えがあったのかなと思うが、今や組織というのはワンマンの社長(名監督)が勘と経験に頼って運営していくのでは限界があるというのかもしれないな。
さて、「もしプロ」である。ゲームの世界では選手育成のシュミレーションゲームとか、サッカーならJリーグのチームを作るというのがあるが、これは実際に日本で「プロ野球」を創れと言われ、事実それをやった男たちの「夢」のプロローグである。
『もしあなたがプロ野球を創れと言われたら~「昇進」より「夢」を選んだサラリーマン』(村山哲二著 ベースボール・マガジン社)
この「サラリーマン」こと著者の村山哲二氏は、プロ野球独立リーグ「BCリーグ」の代表。今年はまだ観戦の機会がないが、上信越、北陸6県で展開するこのリーグは「地域と、地域の子どもたちのために」ということを前面に押し出している。これまで各県の開催試合を観戦したことがあるが、決して観客は多くないもののその地域の雰囲気が出ており、観光地めぐりとはまた違ったその土地の楽しみ方を味わわせてくれる。
本書では、自動車ディーラーを経て広告代理店に勤務していた著者が「新潟を野球で元気にしてほしい」という依頼から独立リーグ設立の構想にたどり着き、これまでの順調なサラリーマン生活を捨ててその「夢」を追いかけるところから始まる。そしてさまざまな紆余曲折を経て開幕を迎え、現在は独立リーグながら半数の球団が「黒字」を出すまでにこぎつけることができるまでの様子が読みやすくまとめられている。野球の専門的な知識のない人でもわかりやすいのではないだろうか。
一口に「夢」というが、それを実現するには何をすればいいだろうか。やみくもに、がむしゃらに頑張る・・・では精神論的なもので、そこにはきちんとした理念というものが必要。BCリーグの場合は「何のために」ということがはっきりしており、常にその原点を見つめながら運営する姿勢が明確であることが成功の要因といえるだろう。
それがBCリーグの原点といえる「BCL憲章」。ここで明確なのが「地域貢献」である。よく「地域活性化」ということが叫ばれるが、野球というものを通してどのように実現しているか。そのエピソードもちりばめられている。
ここで思い出すのが、関西にあった独立リーグのこと。どうやら今年も5球団で活動しているようだし、一時独立リーグを立ち上げた三重球団もあっちへフラフラこっちへフラフラする形で四国に「寄生」している。ただ三重はともかく、関西5球団は決して地元が支援しているとは言い難い。本書を読めば「なぜ関西系のリーグは失敗したのか」の答えも導き出されるのではないか。数々のトラブルの渦中、「彼らはBCリーグの運営ノウハウを研究したのか」と疑問に思ったものだ。
私はビジネス書の類はあまり読まないのだが、難しい経営学の本を読まなくても本書には経営に関するさまざまな実践的なヒントが詰まっていると思う。またこれをカバンに詰め込んで、北陸・上信越を訪れてみたいものだ(できれば一度、新潟の新球場に行ってみたいなあ)。