先週、「分配金問題」でにわかに注目を集めた関西独立リーグ。結果、運営会社「ステラ」が撤退し、参加球団が自前で運営事務局を設立していくことになった。本当にこれからどうやって運営していくのか改めて注目されるところである。
新型インフルエンザの影響で、24日までの試合は中止が決定している。今日は午前中にブログの記事を書き、後は家でのんびりと大相撲の中継でも見ようかと思っていた。
ところが、ふとネットの記事を読むと「24日、大阪と神戸が住之江でオープン戦」とあった。これは両球団からのメッセージのようなもので、何とか試合を観てもらいたいということなのだろう。本来は今日は同じ住之江で大阪対紀州の試合が行われる予定だったのだが、対戦カードが大阪対神戸になったのは、吉田えり投手を擁した人気球団だからということだろう。ちなみに入場料は無料で、選手たちによる募金活動を行うという。それならば、どのような試合をやるのかこれは行かなければならないだろう。
・・・というわけで、夕方17時に住之江球場に現れる。入口にはやたらとテレビ局のカメラが多く見える。例の騒動後、初めての「試合」だからだろう。うーん、毎試合とは言わなくても、あんたたちがもっといろんな面で注目してこのくらい取材に来てやれば、注目度も上がっていてこんなゴタゴタにはなってなかったのでは???と言いたくなる。
本日試合をやることを知らなかったのは私だけだったようで、スタンドにはこのリーグにしては大勢の観客が詰め掛けている。いつしか一塁側の応援団席は人が増えており、本当にみんな野球が好きなんだなと思う。
この日は三塁寄りのネット裏に陣取ったのだが、後ろでは「紀州魂」のハッピ姿の人が。本来なら今日の予定の紀州戦だったのだが、やってきたのは神戸9クルーズ。肝心の神戸応援団らしき姿が見られないのは???だったが、それでも彼らが「代理」で応援するという。おまけに、「かつて浪速の華であったあの緑色のチーム」の旗がゆらめいて・・・・。何やら不思議な空間に身を置いた心地である。
試合前に大阪の浦野球団代表からの挨拶があり、これから新たな体制で臨むことの決意と、今の力では足りないのでファンからのさらなる応援をいただきたいというお願いがあった。とりあえずこんな日に野球場に足を運ぼうという連中である、メッセージはしっかりと伝わったようだ。
始球式は地元の少年野球の女子選手に対し、打者として「指名」されたのは吉田えり。おそらく公式戦で打席に立つことはないだろうから、これもファンサービス。ただ近くの人などは「女の子の投手」とか「りえちゃん、りえちゃん」などと言っていたから、本当に名前を覚えてもらうのは登板をこなしてからになるだろう。
さて試合は、大阪が韓国プロ野球出身の崔、神戸が元千葉ロッテマリーンズの末永。1回、二死三塁から神戸の四番・若林がきれいにレフトへはじき返し、1点先制。おたまじゃくしでフライパンを叩いて音頭を取る「紀州魂」の応援団と南海ホークスの旗が(神戸のチームカラーのブルーは全く入っておらず)ひるがえる。
一方の大阪は、今度は「関西独立リーグ応援歌」というものをこしらえてきた「ピアニカ吹き」の応援団長がリードを取る。吉田えりの次に有名な関係者かもしれないな。こちらは小さな太鼓や鍋も鳴り物で活躍する。
これらの鳴り物応援に、両軍応援団からの「関西の野球独特の温かい声援」(つまり野次)の応酬が飛んでスタンドから笑いが起こる。まあ、今日は一種の「お祭り」である。「オモロいなあ」「昔の大阪球場もこんな感じやったんやで」という観客の会話も聞こえる。そう、関西の野球といってもパ・リーグ3球団のそれで、甲子園球場しか知らないファンにはわからないだろうな・・・(若い選手にとっても一種の「プロの洗礼」かもしれない)。
さて試合は、3回裏に大阪がエラーと四球、ダブルスチールでチャンスをつくり、2番・永峰の内野ゴロの間に1点取って同点、さらに3番・山門の大きな犠牲フライで2対1と逆転に成功。このリーグ、本塁打はなかなか出ないのだがその分足を絡めた攻撃が目立ち(牽制でのアウトもよく見るが)、こうした走塁も見せ場の一つである。
今日はエキシビションということもあってか、お祭り男の大阪・村上監督の采配で大阪の投手は1イニングごとに交代という見せどころ。一方の神戸も、結局登板はなかったものの吉田がブルペンで投球練習も披露。ファンやマスコミが移動したのと、一塁側から「おーい三塁側!野球を観んかい!」と野次が飛んだのでそれとわかる。
4回の表に神戸が金谷のタイムリー、その裏に大阪が林の三塁打と1点ずつを取り合って迎えた5回の裏。審判がバックネットの放送席に向かって「ピッチャー・中田、バッター・村上!」と告げる。すると、「ただいまから、大阪・村上監督対、神戸・中田監督の1打席のガチンコ対決をお送りします」とのアナウンス。これにはスタンドも拍手。
神戸の中田監督とは、阪神で先発・中継ぎに活躍した中田良弘。打席にはユニフォームの色こそ違うが「背番号5」の村上監督が登場。一塁側から近鉄時代の「飛~ば~す~パワーは誰にも負けない・・・」という応援歌が唄われる。
その対決、ファールで粘ったものの最後は空振り三振で中田「投手」の勝ち。三塁側からは「やった~やった~またやった、村上やった~またやった、近鉄電車で早よ帰れ!!」の「お約束の応援」。この勝負は試合進行とは別で、また仕切りなおしである。
5回裏にはグラウンド整備に向かう選手とは別に、両チームの監督以下、それぞれ募金箱を持った選手たちがスタンドに上がる。半数以上の観客がそれに向かって選手への声援と小銭を送る。中には1万円を入れるという方もいてその男気に拍手が起こる。私ももちろん募金箱に入れたが小銭ではなあ・・・。
一方で「スポンサー募集」という切実な問題もある。チーム個別のスポンサーもそうだが、リーグ全体のオフィシャルスポンサーが絶対必要。ただ地盤沈下の進む関西経済とこの不景気である。よほど「スポンサーとしてのメリット」がないとなかなか難しいだろうな。個人の募金も、気持ちはありがたいがそれだけでは球団経営の改善にはつながらないだろうし・・・。
もう一つの見せ場は7回表。この回、神戸の三番・武田のタイムリーで3対3と同点となる。ランナーを一人残して、ここで投手交代。マウンドに向かったのは背番号48、石毛コーチ。そう、四球連発で記憶に残る元巨人・近鉄のストッパー、石毛である。今度はエキシビションではなく、試合中の登板である。そりゃ、両チームのファンから笑いが起こる。佐々木や高津といった、出てきただけで相手チームが萎える守護神とは対照的に、出てきただけで今でも笑いが起こる抑え投手というのも、そうはおらんぞ。
打者は先制打を放った四番・若林。その初球、若林が振りぬいた打球はレフト場外へ(この球場には外野スタンドがないので、ホームランはすべて場外になる)。これで5対3と神戸勝ち越し。公式戦で本チャンの選手なら「何やっとんねん」だが、お祭りで石毛となればこれはもう笑うしかない。石毛は次の打者にも四球を与え、現役時代の「雄姿」をファンにさらしたが、さすがに元NPB、続く2人の打者を三振とピッチャーゴロに打ち取り「やっぱり独立リーグの選手とは違う」ところを見せてくれた。
続く8回表には神戸のコーチ、元阪急・オリックスの村上眞一が代打で登場。三塁側からは「阪急、阪急、ブレーブス、お~お~われらのブレーブス」というコール。一塁側からは「阪急のメイン応援歌」が起こる。もう、在阪パ・リーグ球団の野球の虫たちがお盆で帰ってきたかのようである(村上は併殺打。今度は一塁側から「阪急電車で早よ帰れ!」の野次に送られる)。この後9回には、同じ神戸のコーチで元近鉄・ヤクルトの衣川幸夫が代打で登場し、タイムリーを放つ。
8回の交代時に、「本日の試合は、8時45分をもって試合終了といたします」とのアナウンスが入る。まるでテレビの野球中継のようだがもちろん生中継などあるわけなく、おそらく球場の使用時間との兼ね合いなのだろう。それが、投手交代が多かったり(特に大阪はファンサービスで、石毛コーチを含め10人が登板)、監督対決などがあったから伸びたのかな。
9回に衣川コーチがタイムリーを放ち7対3となり、続く今井がヒットで出塁したところで20時45分。この時間を超えて新たなイニングに入らないというのではなく、時間きっかりで審判がコールドによるゲームセットを宣告。9回裏までは行かなかったが、健闘した両チームの監督、選手たちにスタンドからは惜しみない拍手と声援が送られた。私も大阪、神戸関係なしに今日は大拍手である。
試合終了後、両チームのファンが球場の出口での募金活動。今度は私も英世1枚をビンに入れる。本当、選手は必死そうな表情である。「とにかく野球をやりたいんです。よろしくお願いします」と。
今日は昔のパ・リーグの雰囲気を楽しんだ面もあるが、選手による募金ということを目の当たりにして、球団ができた時の広島カープというのも「たる募金」というのがあったが、こんな感じだったのかと思う。昔NHKの「プロジェクトX」で、カープの創成期に「たる募金」をやったカープの初代監督・石本秀一さんのことをやっていたのを思い出した。あの時は「わしらが何とか支えてやらにゃあいけん」というのが、広島市民の多くにあった。たる募金の金額よりも、その思いが球団存続の力になったという。
この日こうしてファンの熱心な応援や、募金にも協力する姿を見たが、残念だが関西全体の声としては少数派だろう。リーグ運営にはまだまだ多くの問題があるが、今日のような面白い趣向が何かのきっかけになってくれればと思う。それにはそう、試合途中で帰ったマスコミも、単に「吉田えりのいる神戸の試合がありました」とだけ伝えるのではなく、球団経営や地域活性化と独立リーグのあり方について何か掘り下げるものをやってほしい。あとは、在阪パ・リーグの雰囲気を知らない世代の客も新たに開拓しなければ。地元少年野球チームとの交流ももっと必要だろう。ファンとしては、なるべく多くの試合を観ることかな。
こうした、球団が手作りで出来上がっていく過程を見るのも面白いと思うのだが。
そろそろ関西のインフルエンザ騒動も一段落して、また公式戦も復活する。初代優勝を目指して、4チームのがんばりに期待したいものである。