ミッドナイト・スワン/内田英治監督
新宿のニューハーフショーパブで働く凪沙だったが、育児放棄されている親戚の子供である一果を預かることになってしまう。おじさんに預けられると思っていた一果の方も、ニューハーフでいやいやの様子の凪沙の態度に大いに戸惑うのだったが、致し方無い。学校でもおとなしく友達も少なかったが、ふとしたきっかけでバレエの才能があることが認められ、ぐんぐん実力を伸ばしていく。しかしながらバレエを続けるにはお金もかかることもあり、怪しいバイトにも手を染めていくのだったが……。
トランスジェンダーの元男性と、親からの虐待で自己表現が上手く行かない少女との不思議な交流と愛を描いた作品、と言えるかもしれない。境遇は非常に困難の多い不幸なものかもしれないが、一果にはバレエという大きな才能を発揮できる分野が見つかる。間違いなく抜きん出た実力があるのだが、環境の方がそれを許さない。それではどうするのか? ということで、トランスジェンダーの男は、髪を切って定職に就くようになるのだった。
さらに先には様々なトラブルが待ち受けていて、非業の死を遂げるものもいる。不幸の連鎖は続いていくように見えるが……。
確かにいろいろと難しいのだが、そのような境遇にならざるを得ない事情が複雑に絡んでいて、個人の力ではなかなか抜け出せないものがあるようだ。しかしこの映画の希望であるバレエの能力があって、そのような境遇でありながら美しい踊りが生まれる、ということが言えるのかもしれない。
なんとなく偏見めいたものが渦巻く残酷な社会を描いていて、本当にみんながみんな、そんな人たちしかいないのか、という思いにもかられる。実際のところ世の中の偏見が根強いということを表現しているものと思われるが、これでは人間はとても生きていくことができない、ということなんだろうか。もしもバレエの才能が無かったとしたら、などとも考えてしまった。もちろんそういう美しい踊りの才能のある若き女優さんがいたからこそ、成り立つ物語なのかもしれない。
世間的には俳優の草彅の演技ということなのかもしれないが、実際はあまり上手い訳ではないし、形骸化しすぎのようにも感じたわけで、元アイドルが演じる、あえて汚れ役のような意外性ということを、人々は評価しやすいのかもしれない。そういうものかもしれないが、そういうものではダメなのではないだろうか。