悪いうさぎ/若竹七海著(文春文庫)
女探偵は家出中の女子高生を連れ戻す際に負傷する。何とか退院するが、その後またその友人の行方不明の女の捜査を頼まれる。他にも行方が分からない友人もいるらしい。何か妙なつながりがありながら、金持ちの家同士の確執も絡み、物語の行方はどんどん妙な展開を見せていく。そういう中に親友に彼氏ができるが、どうもこの男も結婚詐欺師らしい。友情も捜査も、なんとなく気になる人も、そうして怪しい大人たちも、どんどんと黒い闇の世界に引きずり込まれていくのだった。
著者も女性のようだし、主人公も女性で、なるほどなんとなくいつも読んでいるような推理の仕方が、男性目線とは違う気がする。主人公の葉村晶という人は、女としては少し男っぽいところはあるようだけれど(こじゃれてないし、そういう意識も希薄、とういか、特に気にしても仕方ないという考えかもしれない)、いつも限界のように疲れているし(それは仕方ない状況だけれど)、運も悪く、確かに腕力もあまりなさそうだ。移動もタクシーをはじめ、他の探偵社の人間に便乗したりだし、ちょっと不便さを感じる。捜査をするうえでなんとなく危なっかしい印象を受けるのも、やはり女性としての非力さがあるせいだろうと思う。何しろ現場はかなり危険なにおいがしている。仕事としての矜持も、さらに自分自身の好奇心や探求心もあるのだろうけれど、やはりちょっと無理な感じもしないではない。実際に大変に厳しい状況にも見舞われるわけだが、このスリルは独特のものがある。何しろ腕力で乗り切らない(最初はちょっと蹴りを入れたりしているが)し、乗り切れる感じもしない。普通なら、二三回は確実に死んでいるだろう。いや、だから、サバイバルとしてはたくましいのだが、戦って勝利するというような感じではなく、運もよかったのだろう(頭もいいが)。
文章はおそらくユーモアなのだが、この独自の厳しい状況に奮闘して踏ん張っている痛々しさが、面白い皮肉になっているようだ。僕にはちょっとわからない感覚ではあるが(ちゃんと休めばいいし、金も受け取ったほうがいい)、そういうところに女としてのまっすぐさと、強さがあるということなのだろうか。友人を通しての恋愛劇もあるが、女同士の分かり合えなさと意地のようなものが、面白いがまったく分からない。本当にそんな感じなんだろうね。いや、嫉妬や羞恥心というものは男同士にもあるが、このようなケンカになるんだろうか(でも理解しあっている様子だし)。
展開も十分意外だし、構築された世界観は、さすがの筆力という感じだ。後半の命を懸けたスリルも楽しめた。これだけの事件はなかなか無いようにも思うが、面白いのでいいのである。