ローズ秘密の頁/ジム・シェリダン監督
ホテルに改装されることになった古い精神病院の患者に、引っ越しを認めない老婆が居た。過去に息子殺しをしたとされ、錯乱も多く手を焼かれている。ある医師がこの患者の担当になり、彼女が40年余りも精神病院で暮らしているもとになった物語を徐々に明かしていくことになる。
当時のアイルランドは、英国との複雑な関係により、ナチス・ドイツの脅威がありながら、英国に協力できないという世論のようなものが醸成されていた。英国に協力するものは敵なのである。またこの映画を見る限り、禁酒もカトリック系で奨励されている風であり、酒屋を営むマイケルは、商売がやりにくくなり、英国空軍に志願して街を出ていく。
主人公の女性は、大変に魅惑的で自由な性格の若い女性で、戦争の渦中にあって、街に残った多くの男たちを自然に惑わすような存在になっている。当然のようにその魅力のせいで、恋愛をめぐってのトラブルが絶えず、あろうことか、街の風紀を取り締まる立場の若い神父の心をとらえて離さなくなる。普段はおばの経営する街のホテルで働いていたが、おばは神父とのうわさを重く見て、人里離れた一軒家に隔離するように、いわば町から追放するように住まわせるのであった。
そういう時、負傷した英国の戦闘機が、この森のどこかに墜落する。女は木に引っかかったパラシュートの兵隊を発見する。それは酒屋のマイケルだった。街の反政府男たちから匿い、森の中で暮らすようになる。しかし、反政府の男たちはたむろしているし、どうしてもこの女性を諦めきれない神父まで、この森を訪ねてくるようになるのだが…。
精神病院のベットサイドで、老婆の回想を聞きながら、フラッシュバックでドラマが再現される。赤ん坊殺しの肝心な場面は、それぞれの目撃者の見方で大きく結果が違うようだ。いったい何が真実なのかを追っているうちに、何か時代のいたずらが大きく動き出していくのである。
病院の方針のようなものが何か妙な権威主義的で、さらに時代もあろうけれど、病院内での患者に対する虐待が、一人の若い女の精神を蝕んでいくようにも感じられる。欲望や嫉妬の結果、虚偽の判定で隔離されているようでもあり、さらに夫殺しは計略でもありそうである。本来は大きな罪を伴う事件が偶発しているように見えながら、それらは不問とされている様子である。現在は精神的にそれなりに安定しているようには見えるし、この状態での入所が必要だとは考えにくい。何十年という歳月もあるが、どこかの行政サービスで、改めるべき対象であろう。
それにしてもまったく悲しい話を見てしまった。僕のものではないが、青春を返して欲しい。さらにカトリックでなくプロテスタントの教会では、婚姻の記録が簡単に見つかるはずである。そういうことをちゃんと捜査すべきだったのだ。映画に文句言っても仕方ないが、本当に残念で悲しかったのでありました。