自分をコントロールする力/森口佑介著(講談社現代新書)
副題に「非認知スキルの心理学」とある。有名なマシュマロ・テストというのがあるが、ご存じだろうか。お皿の上に一個のマシュマロを置いた状態で、子供に今マシュマロを食べるなら1個だけだが、10分程度我慢して待つことができたら2個食べてもいい、と告げて部屋を出ていく。子供はそれを待つことができるか、ということと、失敗する子と成功する子を追跡調査し、将来的に年収の違いなどが出るのか? ということで統計をとったものがあるという。一般的には待つことができて2個のマシュマロを食べることに成功するような子供は、将来的にも学習の成績が良く、したがってよい就職も得るようになり、年収にも差が出るというものである(実はそのようなことが書いてある本は以前に読んだことがある。そこでは優位な差が出たというデータも含めて、このような非認知スキルの重要性が説かれてあった。調査の結論は違うものであっても、基本的には本書の主張とはかみ合うものなのだが)。いかにもアメリカ的というか、いかにも現代的な思想をもとに人間の成功能力を測るという試みなのだが、本書では、必ずしもそのようなことにはならないと紹介してある。幼年期のそのような傾向は、青年期や大人になっても必ずしも傾向として続くものではないということらしい。実際に我慢強い子もいるのかもしれないが、こういう実験結果は、偶然が左右する確率とそう変わらないのだそうだ。だいたい幼年期ってものすごく気まぐれだし、そういう三つ子の魂100まで、というようなものは、大人の幻想に過ぎないのかもしれない。だいたい子供の頃の自分と現在の自分は、ほとんど別人といっていいくらい違う人間のはずである。そうであるのに、子供のころのほんの一回やらかしてしまった性質の一部を覚えていて、たまたま同じようなことを大人になってやったとしても、それは単なる偶然のたまものであって、変わらないその人の一貫性のある性質とはいいがたいものなのではないだろうか。
もちろん、IQなどのいわゆる能力の高い人間よりも、実際はコツコツ勉強するような習慣を会得するような人の方が、結果的に成績は上になるなどの傾向があるようで、目的意識をもって、さらにそれを実行できる能力を伸ばすというのは、当たり前だができれば持っていたい能力だ。そうしてそういうものを、子供につけさせることができるのなら、何とかそうできないものかと考えるのが人情である。まあ、そういうもろもろは一応書いてあるが、学者の常として、そういうことはなんだかわかりにくいものの、まあ、多少は身には付くようにはなるようだ。もちろんそれは大人になってからでもそうであって、努力次第なのかもしれない。
また、いわゆる褒めて伸ばすというような教育方針のようなものであっても、褒美が目的化して頑張るというのは、結局長い目で見ると、その子のためにはならないなどの研究も紹介されている。叱って罰を与えるよりはいくぶんマシ、という程度なのだという。つまるところいかにかかわりをもって接するかということの方が重要で、ネグレクトなど虐待が一番子供には悪影響で、体罰などで厳しくしかりすぎるのは問題だとは言え、しかしそれでも無視するより少しくらいはマシであるらしい。どうあっても子供に関心をもって関わることの方が、重要なのだという。これには多少誤解も生まれそうにも思えるが、当たり前だが親をはじめとする大人と子供の関係こそが、子供の成長には重要なのである。もちろんその質も上げられるということなんだろう。
一番為になったことは、大人になってからでも、そのような性質は身につくということだった。しかしそれよりももっと重要なのは、目の前の欲望から目をそらすことであるらしく、子供であってもマシュマロから目をそらすことができる子が我慢できるように、そもそもの誘惑要素を排除して考えないことで、今やるべき目の前の一点に集中することが可能になるようだ。要するにシングルタスクとマインドフルネスだ。今ここだけのために、他の余分なものは見ないようにしましょう。