刑事コロンボ・5時30分の目撃者/ハーヴェイ・ハート監督
結果的には印象に残るお話ではあったのだけど、最初の殺人が計画的でないことが、何より残念だった。機転の利く人物ということはいえても、事実上無理やりに自分の患者兼愛人を共犯者にして、その証言のみで逃げ切ろうというのは、素人目にも、コロンボファン的にも、かなり無理がある。結果的にコロンボに否応なしに追い詰められて、しかしお話上は物的証拠がないということになんとなく済まされている。証言に矛盾があってアリバイも怪しく、事実指紋だらけで行動も怪しそうというのであれば、もう少し患者兼愛人兼被害者の奥さんを徹底的につついて、さらにそういう愛人関係にあることも立証できれば、第二の殺人も起こらなかったのではなかろうか。
トリックとして、第二の殺人こそ面白い仕掛けなのだが、しかし劇中の証言にもあるとおり、いくらプールに飛び込む暗示というか催眠術とはいえ、かなり難しいだろうというのが実のところのようだ。つまりドラマ以外なら限りなく成功が難しい。さらにコロンボの前で間違い電話をかけており、通話記録を調べることを思いつかないのも腑に落ちない感じだった。変わった自殺の仕方だったとは誰にも明らかで、催眠術の得意なかかりつけの精神科医にさらに事情を聞かなければならなくなるのは、ほとんど必然という感じではなかったろうか。
ところがところが、解決への道は実は鮮やかなのである。これに引っかかるだろうことは、コロンボも視聴者も期待を寄せている。犯人が見事そのクモの網に引っかかる様を、じっくりと楽しめばいいのである。僕なんか記憶力が悪いので、なんか引っ掛けていることは分かるけど、なんとなく不自然だな、位にしか思っておらず、犯人と一緒に素直に驚いてしまった。まったく馬鹿だから楽しめるというのは情けないが、展開が気に食わないながらも印象に残る作品ということになる。見終わった瞬間、これは子供の頃に見たよ!と同時に思い出した。
ラストの印象はそれでいいけど、犯人の勤めている病院で部屋を間違えて女性の悲鳴を浴びたり、犯人の自宅でホームパーティの折に、興味深い事件は今取り組んでいるものだというなにやら捜査哲学めいた一面などもある。他にも脇役の演技もそれなりに面白い。犯人がイライラいじめられて追い詰められるいやらしさは、気分の悪くなるくらいコロンボらしいものだ。まったくいやらしい人間の代表とは、まさにコロンボその人だろう。