お父さんと伊藤さん/タナダユキ監督
原作小説があるらしい。未読なのでどこまで再現されているかは不明である。しかしながらタナダユキ作品なので、それらしい雰囲気が漂っていた。
兄夫婦との関係が上手く行かなったらしい父が、娘のアパートに転がり込んでくる。娘の彩は、20歳年上の男と同棲していた。父親は厳格というのではないが、なにか妙な頑固さとこだわりのある男で、二人の生活にいろいろと波紋をおこすことになる。娘としては心底嫌になるが、元小学生の教師で、なおかつ妻には先立たれて、息子の嫁とも関係が上手く行かない可哀そうな老人ではある。さらに父であるのは間違いなくて、放っても置けない。
しかしながら結婚ということまで考えていないけれど、一緒になんとなく暮らすようになった伊藤さんは、この父との関係を、そこそこにとりなす存在になっていく。何しろ20も上だから、娘よりずっと父親に近い存在かもしれない。さらに娘には分からない男同士の意思の疎通があるようなのだ。父親もだんだんと伊藤さんを信頼していく様子で、当初は娘とはずいぶん年が違う上に、アルバイトなのであんまり経済的な余裕もない男に不満があったのだが、娘とは衝突ばかりだが、伊藤さんとはそういう事にならないことで、居場所ができたということなのかもしれない。
妙なぎこちなさが続くが、それは娘の心情に立ってみると、基本的にこのようなことになるのが困るからである。兄嫁の限りないつらさを思うと、やはりそちらでは無理かもしれないとは思うものの、こちらだって気ままな暮らしを犠牲にした上に、伊藤さんだってほんとうの心情は迷惑だろう。ずっとこんな生活をしていくと、気ままだから一緒に居る関係上、伊藤さんは出ていくかもしれないではないか。
さらに大きな事件も起こるが、ひょうひょうとしている伊藤さんにも意見はある。結局は親子関係であって、誰かに頼るだけの解決というのは見当たらないのである。困ったおやじもあったもんだが、単身で暮らせないし、そうさせることがいいとは考えられない。それが肉親関係というものかもしれないし、そういう文化がまだ残っているせいかもしれない。父親はあわれなところがあるものの、何しろ娘とは全然性格が合わない。娘が心配なのはわかるが、娘はそれにこたえる生き方ができないのである。
そういう物語だが、悲惨だが悲痛な感じではない。いわゆる緩やかなコメディにはなっていて、実際にそんなに笑えるわけでは無いが、これじゃあ駄目だな、という感じが面白いのかもしれない。こういう事ってどこでも普通にあることであって、共感を得やすいとも考えられる。現実に目の前にあると、結局は向き合うよりないということもあるので、参考になる人も多いのではないだろうか。