映画を観るのは好きだが、家で映画を観ていると、時々困ったことになる。いわゆるラブシーンというか、セクシーなシーンになると、家族の間で、なんだか気まずい思いをする。特に僕は母と同居しているので、親子の間で、この気まずさを味わうことになる。
母はセクシーな場面を見ると、というか、特にセクシーさを強調する女性が出てくると、だいたい決まって「寒くないのかな」という。確かにセクシーさを強調するような女性というのは、薄着かもしれない。言ってることは正しいかもしれないが、寒いかどうかが重要かというのは違う。いや違うと思う。僕はそれで答えに窮する。そんな風に問いかけられても、困るのである。実際にそのような薄着の女性が、北国の屋外でそんなことをしているのならば、「確かに寒そうだね」という返答も可能だろう。しかしながらそういう場面というのはたいてい屋内であるし、南国の灼熱の太陽のもとであったりする。とても「寒く無いのか?」という疑問に同意するわけにはいかない。
しかしながら母はあえてそういう場面で、寒くないのかという疑問を呈するわけがあるのは分かる。黙ってそういう場面を見ていること自体が、気まずいからだろう。僕だって気まずいが、しかし何か言うようなことは特にない。そういった沈黙自体が、さらに気まずさを助長させているのかもしれない。それでそういう空気を壊したいがために、なんだか的外れだけど、そんなこと言ってしまうのかもしれない。
しかしやはりこれは適当な表現ではないのであるが、実はそのセクシーさを理解できないということを、暗に言っているというのは分かる。要するに母はカマトトぶってるわけで、そのセクシーさ自体を無視したいのだと思う。そして出てきた言葉が「寒くないのかな」ということである。息子である僕はそれを分かっているので、正直かなり白ける。僕を生んだことのある女性が、そんなことを言っても意味があるのだろうか。もちろんセクシーな場面を前にして、僕自身が盛り上がってしまうわけにもいかない。そうであるから、それはそれでいいのかもしれないけれど……。ということを考えてみると、あながち母の戦略は、間違っているとは言い切れないのであった。