「ヘレディタリー」は、もともと変な話なのである。ホラー映画には違いないが、実際は怖いことだけを狙っているのではないのではないか。カメラの映し方が上手いというか、そのカメラワーク自体が、寓話的になっている。見ていて、あれっと思ったら、入れ子状態でお話の中に入っている感覚になる。上手く伝わらないだろうけれど、お話の構造がすでにフェイクなのだ。そうして主人公と同じく、抗いがたい悪意に捕われていくことになる。終わってみると、そういうお話だったのか! と、改めて感服してしまう。まあ、よく考えられた秀作であろう。
「RAW」は、苦手な分野の気持ち悪さである。僕は血に弱いからだ。人間もある種の肉食人種だが、それにあらがう人もいる。それは、その本性に耐えられないからだろう。日本人には、いわゆる極端な菜食主義者は比較的少ないと思われるが、それは完全に肉食の文化でもないからだと思う。だからその反発心も少ないのだろう。だが、そうではなく、本当に肉食でなければならない人種ならどうなるか。まあ、とにかく気持ち悪いことになるのであろう。
「デトロイト」と「ムンバイ」は実話の再現である。そこに、ものすごく重みを感じる。人間が行う残酷さとは何なのか。人の命とは何だろう。閉鎖空間のいじめというのは、究極にはこのようなことになるのではないか。子供の問題として放置してはならないのは、これを観れば一目瞭然だろう。いじめの本質や、正義の遂行には、このような結果がある。それは大きな精神や肉体の犠牲を強いるからだ。見ていてただつらい時間をあじわう。それすら拷問で、まったくマゾ的である。ちっとも楽しいわけではないのだが、味わってもらうより無いだろう。そうして相互理解が広がる。いじめや戦争はいけないことである。うわべだけで言ってはならない。これらの映画を観てから言う言葉なのである。
そうして究極が「幼い依頼人」だ。これはホラー映画ですらない。しかしこれ以上の恐怖を、僕は知らない。いや、知らなかった。何故なら、この恐怖は簡単に防ぐことができるはずなのである。しかし同時に、この子らの力では、自らの力だけでは、絶対にどうしようもなく、逃れる術はない。絶望というのは、このことを言う。そして繰り返されてはならない恐怖なのだ。
へレディタリー継承/アリ・アスター監督
RAW 少女のめざめ/ジュリア・デュクルノー監督
デトロイト/キャサリン・ビグロー監督
ホテル・ムンバイ/アンソニー・マラス監督
幼い依頼人/チャン・ギュソン監督