ソラニン/浅野いにお著(小学館)
芽衣子と種田を軸とした、大学生から社会人に移行する時期の若者の心の葛藤を描いた漫画。種田とビリー(山田)と加藤は、学生時代から組んでいるバンドの仲間である。加藤は留年して6年生だが、ビリーは家業の薬局を継ごうとしている。恐らくこのバンドのフロントマンである種田は、就職でなくバイトをしながら、プロデビューを特に夢見ているが、先に就職した芽衣子のアパートに居候している。しかしながら芽衣子が職場の人間関係に嫌気がさして辞職すると(これは種田が後押しするのだが)、貯金を切り崩していく不安定な生活へ一気に流れていき、微妙な焦燥感があふれていく日常になっていく。あくまであっけらかんとした空気もありながら、着実に若いながらの焦りの中で、それぞれがもがきながら何とか将来の道を見つけようとしている。それは、自分たちが一番好きで打ち込んできたバンドをやるということに素直に収斂すればいいのかもしれないが、現実にはこれは組織的な興業である。それなりに結果が見えそうなところに行くが、結局は大人の都合に呑まれるかの選択を迫られることになってしまう。その場では皆の(特に恋人の種田の)心情を思って、彼女の芽衣子がこの誘いを断ることで、別の次元に進まざるを得なくなっていくのだが…。
いまどきというか、これはたぶんこの年代の若者が、誰しも少なからず遭遇する社会との折り合いをつける葛藤物語である。既に子供ではないが、しかし完全に大人になり切れていない、まだ脱皮途中の皮がはがれきっていない時期の、人間の焦燥感が見事に描かれている。実のところ忘れてしまった感覚がたくさんあるのだが、その青春の断片を、苦いものにちゃんと向き合いながら、それでいてギャグもちゃんと活き活きしていて、楽しく(?)読める。読んでいるときも読後感も、それなりに重いものがありながら、しかしどこか爽やかさがある。取り返しのつかない悲しさがありながら、それでもちゃんと希望も感じる。僕らの時代の赤い夕陽に向かって走っていくような単純さはひとかけらもない世界観であるが、複雑さを描きながらこじれたままではないのである。これを見事といわずして何と言えばいいのか。そうしてこれは、まぎれもなく青春なんである。悲しく切なく美しい。ストレートなら照れてしまって誰も見向きもしたくないものが、これはじわじわ物語を追うしかないのである。ドラマにもなったらしいが、さもありなん。多くの人が読めば共感する佳作ではないだろうか。