嫁洗い池/芦原すなお著(創元推理文庫)
シリーズ二作目。郊外に住む作家夫婦のもとに、友人である警察官の河田という男が、郷土香川のものを手土産にもって遊びに来る。作家の僕と古くからの友人なのだが、酒を飲むという口実に、実際は作家の妻と話がしたいが為に河田はやってきているのだ。それは恋愛感情からそうするのではなく、河田の職業倫理ゆえである。河田が担当する事件には、どうも納得のいかないものが残っている。その疑問点を作家の奥さんに話すと、奥さんは作家の僕を使って現場検証をさせて、事件を実際に解決してくれるのだった。
この奥さんなぜか普段着が着物のようで、お話する立ち振る舞いや、みやげものなどを手早く調理するなどから推察するに、おそらく著者の考える理想な女性なのでろう。さらに推理の天才ぶりもあって、ひょっとすると、単なる奥さん自慢の小説なのかもしれない。
全体的なトーンとして、対比的にダメ人間である作家の僕の日常がつづられていて、結果的にはその生活ぶりが、事件との伏線にもなんとなくなっている。ミステリ作品なのでそのような体裁をとっているものと思われるけれど、これが奥さんの凄さを際立たせていることにもつながっているわけで、よくもまあこれだけのことをやってのけるものよの~、などと感心する。まあ、正直に言って、こんなことできるわけはないと思うが、それこそが小説というものの可能性といえるだろう。事件というのは、この作品ではおまけみたいなものなのだ。
作家の僕と河田刑事の出身である香川の郷土料理がふんだんに出てくる。河田の手土産もあるが、地元から送ってもらうなどして時々郷土の食材が届くようだ。僕らの感覚だと、香川は讃岐であるから、郷土料理はうどんだろうと思っていると、さにあらず。何か得体の知れないものばかりなのだ。しかし、それらのものは一見派手さはないものの、なんとなく旨そうだということだけは感じ取れる。これらの旨そうな食べ物を食いながらあれこれ酒を飲んで語る登場人物たちに、僕は嫉妬に近い感情をいだきながら読んだ。はっきり言って食べたくなって困るのである。これは時期を選らんで読むべきもので、禁酒やダイエット中の人は読んではならない書物だったのであった。
もっとも、簡単には手に入らない感じがあるので、文章から想像して、ほとんどの地方の人はあきらめるよりないのであろうけど。しかし、やっぱり食べ物って文化なんだな、と再確認できる。日本だから天ぷらや寿司さえ食ってればいい、というものではない。もっと子供のころに食べていたものや、地元でとれるものを素直に選んで食べる生活を、楽しむべきなのかもしれない。そういう意味で、これは地方グルメ本でもあるのだった。