コラテラル/マイケル・マン監督
タクシーの客が殺し屋で、一晩で5人殺す仕事に付き合わされることになるお話。オープニングの展開にしっかり後半伏線が効いていて、アクションだけでなく見事な娯楽作としてまとまっている。よく考えると、殺し屋のやり方は多少安易すぎるが、その大胆さがかえって妙なリアリティーを生んでいるのも確かだ。最終的にターミネータ―化するトム・クルーズは、さすがという感じであった。悪役でさらに非道な人間ながら妙に共感させられるところは、外さないスターなんだな、と感心してしまうことだろう。
さらにこの映画は、タクシーの運転手と殺し屋との対峙において、一晩で運転手の男の人生が、ガラリと変わってしまう成長物語にもなっている。おそらくこの映画が終わった後に、この男は自分の人生を自分の力で夢だけでなく切り開いていくことになるだろうことが暗示されている。こんな経験は誰もがする訳では無いが、いわゆる巻き込まれたことで、自分自身に本気で全力で向かっていく勇気のようなものを得ていくのである。殺されるかもしれないという極限の恐怖にありながら、最終的に自分が逃げないことを学んでいく。また、この男にはそういう能力が備わっていたのである。娯楽作でありながら、なんとなくそういう気分が観客にも伝授される仕組みになっているところが、何とも憎い演出なのではあるまいか。
映画としては伏線をしっかり踏まえたミステリ作品として完成しているが、観ている時にはかなりの偶然に左右された先の読めない展開に見える。そこのあたりも上手いものである。都会のスタイリッシュな映像とどんでん返しの仕掛けに驚きながら、いつの間にか見終えてしまうような作品である。頭をからっぽにしても、それなりに身構えてみても、どちらでも一定の満足感が残ることになるのではないか。実は僕はずいぶん前にこれは観ていたことを途中で思い出したが、それでも十分にスリルをもって楽しめた。こういう作品こそ映画として名作という感じのする王道作品なのではないだろうか。