●わが国は東南アジアでどういう外交を行うべきか
東南アジアが再び米中の競い合う地域となっていることを書いてきた。次にその事情を踏まえて、わが国の取るべき外交について述べたい。
期せずしてこの連載中に、安倍晋三首相が政権復帰後初の外国訪問として、昨1月16日から4日間の予定で、ベトナム、タイ、インドネシアの東南アジア諸国連合3カ国を訪れている。安倍首相は歴訪を前に「経済のほか、エネルギー、安全保障でも協力を深める。極めて重要な訪問になる」と語った。また、菅義偉官房長官は「アジア太平洋地域の戦略環境が大きく変化している中で、ASEAN諸国と協力関係を強化していくことが重要だ」と意義を強調した。ぜひ成果を上げてもらいたいものである。
私は、わが国の対東南アジア外交は、単に米国の外交を補完するものであってはならないと思う。もちろん米国は同盟国であり、自由、民主主義等の価値を共有する重要なパートナーである。アジア太平洋での平和と繁栄のために、わが国が米国と協調することの必要性は言うまでもない。ただし、わが国はあくまで自らの国益の追求を根本に置いて、外交を行うべきである。
中国の覇権主義に脅威を感じているわが国にとっても、また東南アジア諸国にとっても、米国のアジア太平洋地域への積極的関与は、好都合である。わが国はこれを米国一人勝ちにはさせず、米国の関与を追い風として利用して、日本と東南アジアが連携して共存共栄を図っていくところに、外交目標を置くべきと思う。
わが国は、これまで東南アジアで米国のような戦略的な外交はできていない。現在米中競合の焦点の一つとなっているミャンマーについても同様である。だが、平成23年(2011)の民主化開始以前から、ミャンマーとのパイプを太くする動きは行われてきた。そうした努力のうえで、23年秋ミャンマー投資・経済センターが開設され、投資や経済交流が積極的に進められている。
最も情けないのは、わが国が独自の外交で混乱収束・国家再建に多大な貢献をしたカンボジアが、今では東南アジア随一の親中派になってしまったことである。そこでわが国がカンボジアとの親交を生かして、カンボジアを中国寄りから日本や米国及び東南アジア諸国の多数の側に引き寄せることに、わが国の東南アジア外交の一つの目標を置くべきと思う。
今回の安倍首相の東南アジア諸国歴訪には、これら肝心のミャンマーとカンボジアが入っていないが、引き続き政府・外務省・民間団体が協同で、積極的な外交を展開してほしいと思う。
次に、尖閣諸島との関係がある。今日、尖閣諸島の防衛は、わが国の興亡盛衰に係る課題となっている。尖閣問題については、拙稿「尖閣を守り、沖縄を、日本を守れ」等に書いた。
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion12o.htm
私は、尖閣諸島の防衛は、自国の領土と資源の防衛であるだけでなく、アジア太平洋の平和と安定に係る課題だと考える。西太平洋からインド洋における尖閣諸島の位置を確認すると、尖閣諸島は、米国と中国のパワーバランスで重要なポイントの一つであることが分かる。
中国は今日、南シナ海を中心とする海洋に覇権を確立しようとしている。中国は、台湾を自国の領土だと主張し、その併合を企図している。南沙諸島をめぐっては、フィリピン、ベトナム、マレーシアと係争中である。ミャンマーに港湾を作って、中東と自国を結ぶルートを築き、インドとも徐々に緊張を高めつつある。
インド洋からマラッカ海峡を通って、フィリピン沖、台湾沖を北上する海路は、シーレーンと呼ばれ、世界貿易の3分の1が経由する。わが国にとっては、石油輸送の生命線である。中国にシーレーンを抑えられれば、わが国はのどもとに手をかけられたも同然となる。それゆえ、わが国の安全と繁栄を維持するためには、尖閣の防衛だけでなく、シーレーンの防衛を外交・安全保障の重大課題としなければならない。生命線の防衛のためには、同盟国である米国との協調とともに、東南アジア諸国との連携が重要である。
中国は南シナ海のほぼ全域を「核心的利益」と呼んでいる。南シナ海の領有権の問題は、わが国には東シナ海の領有権に直結する問題である。わが国は、南シナ海における各国の航行の自由を確実なものとするために、最大限の外交努力をしなければならない。南シナ海で覇権を確立すれば、中国が東シナ海でも覇権確立の動きを強化することは明白である。南シナ海から東シナ海へ、さらにインド洋へと勢力を広げようと企む中国の野望に対抗するため、わが国は、米国・東南アジア諸国に加えて、南方のオーストラリア、西方のインドへも連携の輪を広げ、太く、強くする必要がある。
この点でオバマ大統領が再選され、アジア太平洋重視の方針を堅持する姿勢を示したことは、日本にとってもアジア太平洋地域にとっても歓迎すべき事柄だった。クリントン氏の後任の国務長官には、ジョン・ケリー氏が指名された。ケリー氏には、クリントン外交を継承してもらいたいものである。
わが国は、対中国外交では米国と連携し、アジア太平洋地域の安定を目指していかねばならないが、そのために米国の言いなりになってはいけない。あくまで国益の追求を根本に置いて外交を展開しなければならない。わが国が外交・安全保障の課題でアメリカに押しまくられ、アメリカに経済的・金融的に決定的に従属するになれば、独立した主権国家としての主体性や誇りを自ら捨て去るに等しい。ここで重要なのが、TPPへの参加問題である。
次に続く。
東南アジアが再び米中の競い合う地域となっていることを書いてきた。次にその事情を踏まえて、わが国の取るべき外交について述べたい。
期せずしてこの連載中に、安倍晋三首相が政権復帰後初の外国訪問として、昨1月16日から4日間の予定で、ベトナム、タイ、インドネシアの東南アジア諸国連合3カ国を訪れている。安倍首相は歴訪を前に「経済のほか、エネルギー、安全保障でも協力を深める。極めて重要な訪問になる」と語った。また、菅義偉官房長官は「アジア太平洋地域の戦略環境が大きく変化している中で、ASEAN諸国と協力関係を強化していくことが重要だ」と意義を強調した。ぜひ成果を上げてもらいたいものである。
私は、わが国の対東南アジア外交は、単に米国の外交を補完するものであってはならないと思う。もちろん米国は同盟国であり、自由、民主主義等の価値を共有する重要なパートナーである。アジア太平洋での平和と繁栄のために、わが国が米国と協調することの必要性は言うまでもない。ただし、わが国はあくまで自らの国益の追求を根本に置いて、外交を行うべきである。
中国の覇権主義に脅威を感じているわが国にとっても、また東南アジア諸国にとっても、米国のアジア太平洋地域への積極的関与は、好都合である。わが国はこれを米国一人勝ちにはさせず、米国の関与を追い風として利用して、日本と東南アジアが連携して共存共栄を図っていくところに、外交目標を置くべきと思う。
わが国は、これまで東南アジアで米国のような戦略的な外交はできていない。現在米中競合の焦点の一つとなっているミャンマーについても同様である。だが、平成23年(2011)の民主化開始以前から、ミャンマーとのパイプを太くする動きは行われてきた。そうした努力のうえで、23年秋ミャンマー投資・経済センターが開設され、投資や経済交流が積極的に進められている。
最も情けないのは、わが国が独自の外交で混乱収束・国家再建に多大な貢献をしたカンボジアが、今では東南アジア随一の親中派になってしまったことである。そこでわが国がカンボジアとの親交を生かして、カンボジアを中国寄りから日本や米国及び東南アジア諸国の多数の側に引き寄せることに、わが国の東南アジア外交の一つの目標を置くべきと思う。
今回の安倍首相の東南アジア諸国歴訪には、これら肝心のミャンマーとカンボジアが入っていないが、引き続き政府・外務省・民間団体が協同で、積極的な外交を展開してほしいと思う。
次に、尖閣諸島との関係がある。今日、尖閣諸島の防衛は、わが国の興亡盛衰に係る課題となっている。尖閣問題については、拙稿「尖閣を守り、沖縄を、日本を守れ」等に書いた。
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion12o.htm
私は、尖閣諸島の防衛は、自国の領土と資源の防衛であるだけでなく、アジア太平洋の平和と安定に係る課題だと考える。西太平洋からインド洋における尖閣諸島の位置を確認すると、尖閣諸島は、米国と中国のパワーバランスで重要なポイントの一つであることが分かる。
中国は今日、南シナ海を中心とする海洋に覇権を確立しようとしている。中国は、台湾を自国の領土だと主張し、その併合を企図している。南沙諸島をめぐっては、フィリピン、ベトナム、マレーシアと係争中である。ミャンマーに港湾を作って、中東と自国を結ぶルートを築き、インドとも徐々に緊張を高めつつある。
インド洋からマラッカ海峡を通って、フィリピン沖、台湾沖を北上する海路は、シーレーンと呼ばれ、世界貿易の3分の1が経由する。わが国にとっては、石油輸送の生命線である。中国にシーレーンを抑えられれば、わが国はのどもとに手をかけられたも同然となる。それゆえ、わが国の安全と繁栄を維持するためには、尖閣の防衛だけでなく、シーレーンの防衛を外交・安全保障の重大課題としなければならない。生命線の防衛のためには、同盟国である米国との協調とともに、東南アジア諸国との連携が重要である。
中国は南シナ海のほぼ全域を「核心的利益」と呼んでいる。南シナ海の領有権の問題は、わが国には東シナ海の領有権に直結する問題である。わが国は、南シナ海における各国の航行の自由を確実なものとするために、最大限の外交努力をしなければならない。南シナ海で覇権を確立すれば、中国が東シナ海でも覇権確立の動きを強化することは明白である。南シナ海から東シナ海へ、さらにインド洋へと勢力を広げようと企む中国の野望に対抗するため、わが国は、米国・東南アジア諸国に加えて、南方のオーストラリア、西方のインドへも連携の輪を広げ、太く、強くする必要がある。
この点でオバマ大統領が再選され、アジア太平洋重視の方針を堅持する姿勢を示したことは、日本にとってもアジア太平洋地域にとっても歓迎すべき事柄だった。クリントン氏の後任の国務長官には、ジョン・ケリー氏が指名された。ケリー氏には、クリントン外交を継承してもらいたいものである。
わが国は、対中国外交では米国と連携し、アジア太平洋地域の安定を目指していかねばならないが、そのために米国の言いなりになってはいけない。あくまで国益の追求を根本に置いて外交を展開しなければならない。わが国が外交・安全保障の課題でアメリカに押しまくられ、アメリカに経済的・金融的に決定的に従属するになれば、独立した主権国家としての主体性や誇りを自ら捨て去るに等しい。ここで重要なのが、TPPへの参加問題である。
次に続く。