●オバマによる経済危機への取り組み
リーマン・ショック後の平成20年(2008)、深刻な経済危機の中で、米国大統領選挙が行われた。民主党のバラク・オバマが米国史上、黒人初の大統領となった。大恐慌以来の経済危機への対処のため、オバマは、多額の財政支出を伴う景気対策や金融への規制強化等を通じて、経済の立て直しに取り組んだ。総額8250億ドル、対GDP比5.7%の財政支出政策を発表し、経済の再興を図った。最大の眼目は、雇用の創出だが、9%以上だった失業率は若干改善されてはいる。だが、公約の実現には至らず、雇用を拡大して5年間で輸出を倍増するという目標には、ほど遠い。依然として景気は低迷し、格差は縮小せず、労働者や貧困層の不満は増大している。
米国の財政赤字は、2008年度までは5000億ドル未満だった。だが、2009年度に急激に赤字が増え、史上初の1兆ドルを超え、1兆4000億ドルに拡大した。オバマ政権下で、毎年1兆ドルを超える深刻な財政赤字が続いている。機能的財政論によれば、財政赤字の金額そのものが問題ではないが、米国は大胆な金融緩和と大規模な財政出動をやっても景気を回復できず、連邦政府の税収が増えてこないと、赤字が雪だるま式に膨らむばかりで、本当の財政危機になる。わが国は世界最大の債権国だが、米国は債務国である。わが国は国債の保有者の約95%が国内だが、米国債は国内保有率が40%程度である。中国・日本・英国を始め多数の外国政府や世界中の海外投資家が大量に保有している。こうしたなどによる条件の違いのため、米国における経済再生は、わが国の経済再生よりも、遥かに困難な課題なのである。
●米国はデフォルト寸前の危機に
米国は、財政赤字が膨らみ続けるなか、平成23年(2011)の7月から8月にかけて、デフォルト(国家債務不履行)に陥る危機に直面した。議会では意見が対立し、なかなか合意に至らなかった。世界が固唾を飲んで推移を見守った。
7月31日、米国政府と民主、共和両党指導部は、連邦政府の法定債務上限を引き上げるとともに、今後10年で約2兆5000億ドルの財政赤字を削減することで合意した。8月1日下院、次いで2日上院は同法案を決した。直ちにオバマ大統領が署名し、同法は成立した。デフォルトは引き上げ期限の当日、ぎりぎりのところで回避された。
法案成立によって、大統領は、債務上限を段階的に2兆1000億ドル(約160兆円)引き上げる権限を得て、今年25年(2013)までの財源を確保できることとなった。債務上限引き上げは財政赤字削減を前提とするもので、大統領は成立後10年間で9170億ドルの圧縮を目指すこととなった。オバマ大統領は「法案は最初の一歩で、一層の財政赤字削減へ与野党が努力する必要がある」との声明を発表した。だが、赤字削減策の具体的検討は、超党派委員会による与野党協議で行うという形で、先送りされたものである。そして、すぐ次なる危機が立ち上がった。それが「財政の崖」である。
●迫り来る「財政の崖」
今年(25年)の新年明けに、減税が打ち切られ、歳出の強制的削減が始まることになっていた。その回避が米国の課題となった。だが、デフォルト回避から1年を過ぎても、米国経済は目立った回復を見せていない。輸出は多少伸びてはいるものの、失業率は依然7%台に高止まりしている。
こうした状況で、24年(2012)11月6日大統領選挙が行われた。最大の争点は、経済再建や雇用と景気の回復の方法にあった。再選を狙うオバマは、一定の公的ルールに基づく「公正な社会」を主張し、節度を保つ規制によって格差のない、平等な社会を作ろうと呼び掛けた。「格差是正のための政府介入」を説き、「大幅な歳出削減は景気回復後に行う」とし、富裕層への増税、中間層の保護を掲げ、格差是正を積極的に図ることを選挙戦で訴えた。だが、オバマに対し、過去4年間で成し遂げられなかったことが、もう一期続ければできるという期待は、大きく膨らまず、共和党のミット・ロムニーとの戦いは、熾烈なものとなった。オバマはまれに見る接戦を制し、再選を果たした。2期目のオバマ政権が直面する最大の経済的課題が、新年明けの「財政の崖」をいかに避けるかだった。
23年(2011)8月のデフォルト回避後、米国では与野党が話し合い、赤字削減のために本年25年(2013)から国防費等、政府の歳出を法律で強制的に減らすことになった。一方、景気を支えるためブッシュ子政権から続けてきた減税措置が昨年24年(2012)末で期限を迎えることになっていた。そのため、歳出削減と事実上の増税のダブルパンチで、年明けと同時に景気が崖から突き落とされるように悪化すると懸念されてきた。この状況を「財政の崖」と表現したのは、FRB議長のベン・バーナンキである。
次回に続く。
関連掲示
・拙稿「オバマVSロムニー~2012年米国大統領選挙の行方」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion12m.htm
リーマン・ショック後の平成20年(2008)、深刻な経済危機の中で、米国大統領選挙が行われた。民主党のバラク・オバマが米国史上、黒人初の大統領となった。大恐慌以来の経済危機への対処のため、オバマは、多額の財政支出を伴う景気対策や金融への規制強化等を通じて、経済の立て直しに取り組んだ。総額8250億ドル、対GDP比5.7%の財政支出政策を発表し、経済の再興を図った。最大の眼目は、雇用の創出だが、9%以上だった失業率は若干改善されてはいる。だが、公約の実現には至らず、雇用を拡大して5年間で輸出を倍増するという目標には、ほど遠い。依然として景気は低迷し、格差は縮小せず、労働者や貧困層の不満は増大している。
米国の財政赤字は、2008年度までは5000億ドル未満だった。だが、2009年度に急激に赤字が増え、史上初の1兆ドルを超え、1兆4000億ドルに拡大した。オバマ政権下で、毎年1兆ドルを超える深刻な財政赤字が続いている。機能的財政論によれば、財政赤字の金額そのものが問題ではないが、米国は大胆な金融緩和と大規模な財政出動をやっても景気を回復できず、連邦政府の税収が増えてこないと、赤字が雪だるま式に膨らむばかりで、本当の財政危機になる。わが国は世界最大の債権国だが、米国は債務国である。わが国は国債の保有者の約95%が国内だが、米国債は国内保有率が40%程度である。中国・日本・英国を始め多数の外国政府や世界中の海外投資家が大量に保有している。こうしたなどによる条件の違いのため、米国における経済再生は、わが国の経済再生よりも、遥かに困難な課題なのである。
●米国はデフォルト寸前の危機に
米国は、財政赤字が膨らみ続けるなか、平成23年(2011)の7月から8月にかけて、デフォルト(国家債務不履行)に陥る危機に直面した。議会では意見が対立し、なかなか合意に至らなかった。世界が固唾を飲んで推移を見守った。
7月31日、米国政府と民主、共和両党指導部は、連邦政府の法定債務上限を引き上げるとともに、今後10年で約2兆5000億ドルの財政赤字を削減することで合意した。8月1日下院、次いで2日上院は同法案を決した。直ちにオバマ大統領が署名し、同法は成立した。デフォルトは引き上げ期限の当日、ぎりぎりのところで回避された。
法案成立によって、大統領は、債務上限を段階的に2兆1000億ドル(約160兆円)引き上げる権限を得て、今年25年(2013)までの財源を確保できることとなった。債務上限引き上げは財政赤字削減を前提とするもので、大統領は成立後10年間で9170億ドルの圧縮を目指すこととなった。オバマ大統領は「法案は最初の一歩で、一層の財政赤字削減へ与野党が努力する必要がある」との声明を発表した。だが、赤字削減策の具体的検討は、超党派委員会による与野党協議で行うという形で、先送りされたものである。そして、すぐ次なる危機が立ち上がった。それが「財政の崖」である。
●迫り来る「財政の崖」
今年(25年)の新年明けに、減税が打ち切られ、歳出の強制的削減が始まることになっていた。その回避が米国の課題となった。だが、デフォルト回避から1年を過ぎても、米国経済は目立った回復を見せていない。輸出は多少伸びてはいるものの、失業率は依然7%台に高止まりしている。
こうした状況で、24年(2012)11月6日大統領選挙が行われた。最大の争点は、経済再建や雇用と景気の回復の方法にあった。再選を狙うオバマは、一定の公的ルールに基づく「公正な社会」を主張し、節度を保つ規制によって格差のない、平等な社会を作ろうと呼び掛けた。「格差是正のための政府介入」を説き、「大幅な歳出削減は景気回復後に行う」とし、富裕層への増税、中間層の保護を掲げ、格差是正を積極的に図ることを選挙戦で訴えた。だが、オバマに対し、過去4年間で成し遂げられなかったことが、もう一期続ければできるという期待は、大きく膨らまず、共和党のミット・ロムニーとの戦いは、熾烈なものとなった。オバマはまれに見る接戦を制し、再選を果たした。2期目のオバマ政権が直面する最大の経済的課題が、新年明けの「財政の崖」をいかに避けるかだった。
23年(2011)8月のデフォルト回避後、米国では与野党が話し合い、赤字削減のために本年25年(2013)から国防費等、政府の歳出を法律で強制的に減らすことになった。一方、景気を支えるためブッシュ子政権から続けてきた減税措置が昨年24年(2012)末で期限を迎えることになっていた。そのため、歳出削減と事実上の増税のダブルパンチで、年明けと同時に景気が崖から突き落とされるように悪化すると懸念されてきた。この状況を「財政の崖」と表現したのは、FRB議長のベン・バーナンキである。
次回に続く。
関連掲示
・拙稿「オバマVSロムニー~2012年米国大統領選挙の行方」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion12m.htm