ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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警戒すべき中華ナショナリズムの暴走~石平氏

2013-01-06 07:16:07 | 国際関係
 平成24年11月19日の拙稿「中国:胡温体制から習主導体制へ」に次のように書いた。
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/d/20121119
 「10年間に及ぶ胡錦体制が終了し、習近平体制が始まる。胡・温両氏は、完全引退と報じられる。その一方、依然として江沢民氏が影響力を保持している。わが国の内閣に相当する政治局常務委員の7名のうち、4名は江沢民派が占めている。ナンバー1の習近平氏に近いのは1名のみ、胡錦濤派はナンバー2の李克強氏ひとり。江派4、習派2、胡派1という構成である。こうした中で、習氏がどのように指導力を発揮していくか注目される」と。
 中国指導部には、江氏らの上海閥、習氏らの太子党、胡氏率いる共産主義青年団(共青団)の三つの派閥がある。習氏は中間派で江沢民氏と胡錦濤氏の両方から支持を得られる位置に立つ。それが最高指導者に選出された理由の一つだろう。
 シナ系日本人評論家の石平氏は、政治局常務委員7人のうち5人までは、「江沢民派か江沢民派に近い人間」だとする。産経新聞24年11月22日号に書いた記事で、石氏は中国新指導部を「冷めた餃子」だと揶揄する。そして「表向きは『習近平政権』となっているが、内実はむしろ、老害の江沢民一派が牛耳る『江沢民傀儡政権』であるといえよう」と述べ、「これでは、がんじがらめとなっている習近平氏や李克強氏などの新世代指導者が思い切った仕事をできるはずもない。習近平政権はその誕生した時点から、すでに『死に体』の様相を呈しているのである」と厳しい見方をしている。ただし、この発言は石氏が習氏に改革を期待して書いているものではない。江沢民氏の影響力の強さを強調するための表現である。
 江沢民氏は、86歳。その影響力は、氏の生死に関わりなく、この先、少なくとも数年は続くだろう。そういう環境で、習近平氏が今後、どういう政策を推し進めてくるかが大きな関心事である。私は24年11月19日に次のように書いた。
 「習近平氏が指導する中国に関し、今後の10年は、共産主義を脱却するための民主化が進むか、共産党支配を維持するためのファッショ化が進むか、それとも特権階級の腐敗がとめどなく深刻化して国家そのものが衰退・分裂するか、まだ予測しがたい。このうち最も危険なのは、ファッショ化による覇権主義的な対外行動である。今回の共産党大会で、故主席は海洋権益を守ることを強調した。中国は増強する海軍力を以て、わが国を含むアジア太平洋地域、さらには中東・アフリカにも覇権を広げようとしている。領土や資源を獲得するとともに、国民の不満や怨嗟を党ではなく海外に向けさせ、支配体制を継続させようとするものである。腐敗しつつ生き延びようとしてアジアから世界を巻き込もうとするこうした中国共産党特権階級の動きを封じることが、世界の平和と繁栄のための重大課題である」と。
 習氏は24年11月15日の党総書記就任の直後に行われた就任演説で、「中華民族」という言葉を繰り返し使った。漢民族や中国人民はあっても「中華民族」など存在しないのだが、多民族国家の中国であえて「中華民族」という言葉を掲げるのは、習氏が国家意識の高揚を図っているためだろう。
 先ほど引用した石氏は、同じ11月22日の記事に次のように書いた。
 「15日の党総書記就任の直後に行われた就任演説で習氏自身は、これといった政策ビジョンを示すことができなかったが、その代わりに、彼は頻繁に『民族』という言葉を持ち出して『民族の偉大なる復興』を熱心に唱えた。つまり習氏は、『江沢民傀儡政権』のトップよろしく、10年前の江沢民時代の政治路線を継承し、ナショナリズムを高らかに掲げてそれを政権維持の柱にしようと考えているのだ。
 今後、『冷めた餃子』の習政権の下で貧富の格差の拡大などの問題がよりいっそう深刻化し国内の混乱がさらに拡大してくると、対外的危機を作り出し国民の不満を外に向けさせるのが彼らに残された『最善』の選択肢となろう。
 その時に、尖閣と日本は彼らにとっての格好の標的となりかねない。したがって日本としては、今後5年内における習政権の動きを注意深く観察しながら『その暴走』を大いに警戒すべきであろう」と。
 江沢民時代以降の中国におけるナショナリズムは、イコール反日愛国主義を意味する。習氏が「中華民族」のナショナリズムを推進するとき、それは反日愛国主義の強化と一体のものとなるだろう。日本人は、これまで以上に、中国の動きをしっかり警戒する必要がある。
 以下は、石平氏の記事。

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●産経新聞 平成24年11月22日

http://sankei.jp.msn.com/world/news/121122/chn12112211080000-n1.htm
【石平のChina Watch】
習近平政権「冷めた餃子」 暗い未来に同情
2012.11.22 11:02

 今月15日に選出された中国共産党政治局常務委員の顔ぶれを見ていると、何だか習近平政権の暗い未来に同情したくなる思いである。7人の常務委員の大半は、大した実績も国民的人望もなく、未来へのビジョンも開拓の精神もいっさい持たない守旧型の党官僚ばかりだからだ。
 昔、米メディアが日本の総理大臣のことを「冷めたピザ」と揶揄(やゆ)したことがあるが、それにならって、多少の失礼(?)は承知の上で中国の政治局常務委員の面々を「冷めた餃子(ぎょうざ)」と評したい。この最高指導部の布陣では、中国国民に「希望」を与えるようなことはまず無理であろう。
 さらにたちの悪いことに7人の政治局常務委員の中の5人までは、江沢民(前国家主席)派か江沢民派に近い人間である。表向きは「習近平政権」となっているが、内実はむしろ、老害の江沢民一派が牛耳る「江沢民傀儡(かいらい)政権」であるといえよう。
 これでは、がんじがらめとなっている習近平氏や李克強氏などの新世代指導者が思い切った仕事をできるはずもない。習近平政権はその誕生した時点から、すでに「死に体」の様相を呈しているのである。
 江沢民一派が全力を挙げて権力闘争を勝ち抜き、新しい最高指導部の掌握に躍起になったのには、それなりの理由がある。
本欄で指摘してきた通りに今年の春頃から、共産党党内では胡錦濤国家主席が率いる共青団派の若手ホープの汪洋・広東省党書記が先頭に立ち「政治改革」を盛んに唱え、改革推進の機運が高まってきている。
 汪氏たちの目指す政治改革は政治権力が市場経済に介入して作り上げた腐敗の利権構造にメスを入れ、それを打破することによって国民の政権に対する不満を解消することである。
 だが、これまで二十数年間、全国で腐敗の利権構造を作り上げ、甘い汁を吸ってきたのはまさに江沢民一派とその関係者だから、彼らは汪氏たちがやろうとする政治改革を許せない。
 その結果、今夏の段階で一度は固まった、改革派の汪氏と改革派に近い中央組織部長だった李源潮氏の政治局常務委員会入り人事が江氏ら長老たちによって潰され、「政治改革」への流れは見事に封じ込められたのである。
 すべては江沢民一派の思惑通りの展開となっているが、残された大問題はむしろ、政治改革を断行することによって難局打開の突破口を作る機会を失った習政権がこれから、一体どうやって民衆の不満を解消して政権の維持を図っていくのか、である。
 15日の党総書記就任の直後に行われた「就任演説」で習氏自身は、これといった政策ビジョンを示すことができなかったが、その代わりに、彼は頻繁に「民族」という言葉を持ち出して「民族の偉大なる復興」を熱心に唱えた。
 つまり習氏は、「江沢民傀儡政権」のトップよろしく、10年前の江沢民時代の政治路線を継承し、ナショナリズムを高らかに掲げてそれを政権維持の柱にしようと考えているのだ。
 今後、「冷めた餃子」の習政権の下で貧富の格差の拡大などの問題がよりいっそう深刻化し国内の混乱がさらに拡大してくると、対外的危機を作り出し国民の不満を外に向けさせるのが彼らに残された「最善」の選択肢となろう。
 その時に、尖閣と日本は彼らにとっての格好の標的となりかねない。したがって日本としては、今後5年内における習政権の動きを注意深く観察しながら「その暴走」を大いに警戒すべきであろう。
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