ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

「財政の崖」は回避、だが米国に次の危機が5

2013-01-31 08:51:57 | 経済
 最終回。

●米国は慢性的経済危機を脱し得るか

 米国では、二大政党の間では、大まかに言って民主党は税収を確保し、社会保障などを充実させる「大きな政府」を志向する。共和党は税も含め規制など政府の国民生活への介入を最小限にする「小さな政府」を志向する。思想的には、共和党は古典的リベラリズム、民主党は思想的には修正リベラリズムがもとになっている。共和党は、1980年代から新自由主義が主流となり、新自由主義的なグローバリズムを推し進めてきた。グローバリズムはもともと民主党の特徴だったが、共和党がお株を奪った形である。民主党は、修正リベラリズムとはいっても、共和党と同じく米国独自の独立・自助の精神が根底にある。わが国や西欧諸国に比べると、米国は個人主義的な傾向が強い。
 平成23年(2011)7月、デフォルト回避のための債務上限引き上げ法案をめぐって、米下院の採決では、民主党の左派が民主党指導部に反発した。指導部が共和党への歩み寄りを見せたのに対して、強く反対したものだ。採決では、民主党議員は賛否同数だった。共和党でも、ベイナード下院議長がデフォルト回避のために、法案成立に妥協を図ったが、草の根保守運動の「ティーパーティー(茶会)」系の議員が反対した。このことが示すものは、民主党・共和党という政党レベルの対立とともに、それぞれの党内でも様々な思想・価値観の対立があることである。米国社会では、多様な思想・価値観がぶつかり合っており、一つにまとまることは非常に難しい。
 昨年24年(2012)11月、大統領選挙と同時に、連邦議会の選挙が行われた。この時、富裕層向けの減税延長については、民主党は延長をすべきでないと主張したのに対し、共和党は延長すべきだと反論した。歳出削減については、民主党は社会保障費を減らすのに慎重な態度であるのに対し、共和党は国防費の削減に抵抗する。連邦議会の選挙結果は、上院は民主党、下院は共和党が過半数を制するねじれ状態が続くことになった。税制や財政に対する与野党の考え方の溝は深い。オバマ大統領にとっては、2期目も議会の合意を得るためのハードルは依然として高い。
 こうした状況だから、本年(2013)3月初めまでに、最終的な財政赤字削減策をまとめるのは、相当困難だろう。米国の国家財政を維持するには、債務上限の引き上げは絶対条件である。富裕層への増税か、所得控除幅の縮小か、中間層・貧困層の社会保障の削減か、国防費の削減かーーデフォルトを回避するための妥協を積み重ね、対応策をまとめるには、険しい道をたどることになるだろう。米国が国家債務不履行という最悪の事態に陥ったのでは、世界全体が混迷を極めることになる。世界最大の経済大国としての責任を以て、財政危機を打開してもらわねばならない。


●アメリカ人の生き方に変化を促すべし

 米国は、もはや財政破綻しかねない状態になっている。これまで米国は莫大な財政赤字・貿易赤字を抱えながらも、基軸通貨ドルの発行量を増加し、国際市場からドルを還流させるなどして、物質的な繁栄を追求してきた。だが、その結果、生み出された財政危機が、従来の経済政策で大きく好転できると思えない。米国は製造業を軽視し、金融主導の経済になっている。カネがカネを生むカジノ型資本主義は、国民経済を破壊し、社会の格差を拡大してきた。米国のGDPに占める家計消費額は71%だが、その消費は世界各国からの借金で欲望を刺激して生み出しているものである。米国民は、貧困層に至るまで贅沢な生活に慣れ、ローン利用の過剰消費癖から抜けられない人が多くなっている。
 数年前から、一部のエコノミストは、米国は経済危機が深刻化すると、デノミか北米共通通貨・仮称アメロへの切り替えをやって、事実上の借金踏み倒しをするかもしれないと観測している。帝国中枢部の支配層とそれに連なる所有者集団は、自分たちの富を守るために、最後の手段としてこういう強引な方法を取るかも知れない。だが、米国には新たな再興の可能性が出てきている。シェールガス革命である。資源利用のイノべェーションにより、シェールガスの生産が本格化しており、既に世界のエネルギー市場で資源の価格や販路に影響を与えている。国際エネルギー機関(IEA)の報告書によると、米国は天然ガス生産で2015年にロシアを上回り世界最大になり、産油量も2020年代半ばまでにサウジアラビアを抜き世界最大となる見通しである。2035年までに米国は必要なエネルギーのほとんどを自給できるようになるという。
 シェールガス革命は米国を救うことで、世界を救う天の恵みかもしれない。ただし、課題は米国が世界最大のエネルギー供給国になるまでの間、財政危機を克服できるかどうかである。私は、米国がこの際どい隘路を転落せずに進み得るかは、アメリカ人が価値観、生き方、精神を改められるかどうかにかかっていると思う。民主党にせよ、共和党にせよ、社会民主主義者にせよ、ティーパーティーにせよ、この点に気づき、国民の意識・文化・生活の変革を進めないと、米国はいずれ放恣と対立の中で自滅しかねない。
 アメリカ経済に依存・従属している日本にとって、これは他人事ではない。帝国の本国が潰れたならば、属国もまた潰れる。本国は属国を食い物にして危機を生き延びようとする。当面そのための方策となっているのが、TPPである。国家債務不履行の危機を生き延びるために米国は、わが国に対して、一層強くTPPへの参加を求めるだろう。軽々しくこれに乗ってはいけない。安易に乗ったら、日本は奈落への道をたどることになる。
 私は、わが国が本来、ここでなすべきことは、米国民に対して、物質中心・経済中心の考え方を改め、生活を改めるよう促すことだと思う。経済問題を語る文章で、最後に生き方の変革を説くことを、奇妙なことと思う人は多いだろう。だが、物質的な繁栄は、精神的な向上と、ともに進むものでなければ、人間は自らの欲望によって自滅する。物心調和の社会をめざすのでなければ、真の幸福と永遠の発展は得られない。米国が従来の価値観を脱し、物心調和の文明を目指す国に変わらなければ、世界全体もまた人類が生み出した物質文明とともに崩壊の道を下るだろう。
 ただし、この問題は半分以上、今日の日本人自身の問題ともなっている。他国を善導できる日本になるためには、日本人は日本精神を取り戻し、物心調和・共存共栄の道を進む必要がある。日本自体、精神的に復興しなければ、米国の影響によらずとも、自ら衰亡の坂を転げ落ちる瀬戸際にある。自覚と決起、邁進の時である。(了)