ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

現代世界史38~国際的なガバナンスの向上

2014-09-10 10:24:58 | 現代世界史
●国際的にガバナンスの向上が求められている

 国際社会の諸問題に取り組むために、国連を中心にガバナンスの向上が必要である。ガバナンスとは、統治のあり方のことである。良い統治の要件には、責任の明確性、透明性、予測可能性、公開性、デモクラシー、法の支配などが挙げられる。発展途上国の政府が効率的かつ公正な開発を進めるためには、これらの要件を満たすような「良い統治」の確立が求められている。
 国連開発計画による2002年版の『人間開発報告書』は、「ガバナンスと人間開発」を主題とし、人間開発の観点からガバナンスの向上について報告した。それによると、人間開発を推進するためには、人々のための人々による民主的なガバナンスが確立される必要がある。
 民主的ガバナンスは次の3つの理由で人間開発の前進に役立つ。その3つは、次の通りである。

(1)政治的自由を享受し、自らの生活を形成する意思決定に参加することは、それ自体が人間開発の一部をなす基本的人権であること。
(2)デモクラシーの下での選挙と報道の自由が、飢饉や無秩序への後退などの経済的、政治的破局から人々を守るのに役立つこと。
(3)民主的ガバナンスは政治的自由と市民参加による社会的経済的機会の拡大により、開発の好循環を引き起こすこと。

 一方、発展途上国や移行経済国においてデモクラシーの推進に努めている国際機関に対しても、デモクラシー、透明性、説明責任の拡大が求められている。
 こうしたガバナンスの向上が必要なのは、まず「国際連合=連合国」そのものである。向上のために、国連の代表制の基礎を拡大する改革案が出されている。改革案は、次の3つに絞られている。

(1)政府や官僚だけでなく、市民社会組織の参加を認め、発言者の多元化を図って代表制を拡大すること。
(2)権力の不均衡を是正し、いっそう民主的な意思決定手続きを持つ組織とすること。
(3)安全保障理事会の常任理事国5ヶ国に与えられた拒否権は、非民主的であり、これを撤廃もしくは縮小すること。

 私は、これら3点の意義を認めるとともに、国連憲章の敵国条項の削除を加えることを提案する。「国際連合=連合国」の発端は、枢軸国に対する軍事同盟だった。そのため「国際連合憲章=連合国憲章」は、旧敵国である枢軸国に対し、旧敵国条項を定めている。旧敵国条項とは、第2次大戦中に連合国の敵国であった国々に対し、地域的機関などが、安全保障理事会の許可がなくとも強制行動を取り得ること等が記載されている条項である。その対象とされる日本、ドイツ、イタリア、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリア、フィンランドは、大戦後、国連に加盟し、その一員として誠実に努力してきている。それにもかかわらず、戦勝国はいざとなれば自由に日本等に攻め入ってもいいという条項が、半世紀以上もそのままになっている。まず敵国条項を削除することが、国連を出発点に戻って改革し、ガバナンスを向上させるポイントである。
 次に、世界の貧困を低減し、過度の不平等を是正するためには、国際金融機関の改革が必要である。国際通貨基金(IMF)、国際復興開発銀行(IBRD、世界銀行)、世界貿易機関(WTO)等の国際金融機関においては、デモクラシーの原則を推進するため、発展途上国が組織の意思決定に影響力を行使できるようにする必要がある。それには、現在IMFと世銀の投票権の半数近くを、アメリカ、日本、フランス、イギリス、サウジアラビア、ドイツ、ロシアの7ヶ国が持っている体制を変え、議席と投票権の配分方法を発展途上国の利害を適正に反映できるように改める必要がある。
 IMFと世銀は、今日ではもっぱら途上国と移行経済国を対象に貸付を行っている。移行経済国とは、中央集権的計画経済から自由主義的市場経済への移行をめざす旧社会主義諸国をいう。これらの機関において発展途上国等の代表を増やす方法として、3つ挙がっている。

(1)各加盟国に割り当てられている基礎票の割合を高めること。
(2)これらの機関内での途上国の発言権を拡大すること。
(3)これらの機関に自らの行動の説明責任を徹底して果たさせること。

 次に、WTOは、全加盟国が議席と投票権を持っているものの、実際の意思決定は舞台裏で行われており、発展途上国等から強い反発がある。この機関の透明性と参加の改善のための方法として、次の3点が提案されている。

(1)討議、交渉を公表し、意思決定を民主的で参加型のものにすること。
(2)発展途上国を無視して大国寄りの立場を取ることのないように不偏の立場を維持すること。
(3)各国の国内政策や実施に影響を与える可能性を考慮し、WTOも透明性を実現すること。

 IMF、世銀、WTOの改革については、既得権益を持つ国々を中心に強い抵抗がある。だが、発展途上国や移行経済国に対して、ガバナンスの向上を求めるのであれば、それを推進している国際機関そのものが、ガバナンスの向上を行うことが必要である。
 ガバナンスの向上については、国民国家やそれを基盤とした国際機関ではなく、国家の枠組みを超えたグローバル・ガバナンスの向上を求める動きもある。例えば国連開発計画が発行した1999年版の『人間開発報告書』は、国際組織が人間開発のための国際・国内・地方レベルの行動をいっそう支援するために、グローバル・ガバナンスについて、次の5つの変革が必要であるとした。

(1)生命・自由・正義・平等の尊重といった価値観や基準、態度を共有し、グローバルな倫理と責任を強化すること。
(2)グローバル・ガバナンスに全世界の人々を対象とした貧困緩和、公平さ、持続可能性といった人間開発の優先課題を組み入れ、人間開発と社会保護の原則をグローバルな経済統治の概念と実施に導入すること。
(3)とめどない共食い競争を防ぐために地域協定とグローバル協定を採択し、労働基準や環境規制を守らせること。
(4)多国籍企業のグローバルな倫理規範を策定し、そのモニタリングのため、企業、労働組合、NGOからなるグローバル審議会を設立すること。
(5)人間性重視のガバナンスに対するグローバルな関わりを強化し、世界市民意識を高めること。

 一見して分かるように、ここには国連等の国際機関に強い影響力を持つコスモポリタニズム(世界市民主義)の思想が色濃く表れている。現代のコスモポリタニズムは、個人主義、平等、そして普遍性という三つの要素からなり、その価値単位は個々の人間としている。コスモポリタニズムは、ネイション(国家・国民・共同体)の政治的・経済的・文化的な役割を認めず、世界市民意識を以てガバナンスの改革を進めようとする。そのため、ネイションの責任遂行能力を生かすことができず、国際社会で有効な改革を進めることができない。これに対し、コミュニタリアニズム(共同体主義)やリベラル・ナショナリズムの立場から、コスモポリタニズムのもとにあるアトム的な個人という近代西欧的な自己像を批判し、共同体やネイションの独自の価値を評価したうえで、国際社会の現実を踏まえた改革を行うことが主張されている。

 次回に続く。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿