ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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インド62~マドヴァ、ヴィシュヌ宗とシヴァ宗

2020-03-21 09:13:57 | 心と宗教
●マドヴァ

 ラーマーヌジャより200年ほど後、マドヴァが出た。彼は、はじめヴェーダーンタ学派、特にシャンカラの哲学を学んだが、後にこれを批判する立場に転じ、シャンカラ派と対立する哲学体系を確立した。ヴィシュヌ宗の中にマドヴァ派を創始した。生年は1238年、没年は1317年とされる。
 マドヴァは、シャンカラ派の不二一元論すなわち世界幻影論的なブラフマン一元論を批判した。そして、神と人とを厳密に区別し、多元論的な世界実在論を主張した。また、ブラフマンをヴィシュヌと同一視して、ヴィシュヌ信仰をヴェーダーンタ哲学で基礎づけた。
 マドヴァは、ヴィシュヌすなわちブラフマンと個我と世界は実在するが、それぞれがはっきり異なるとして、別異論を説いた。彼によると、ヴィシュヌはあくまで独立した実在であり、多数の個我や世界は、この主宰神に依存している。こらの点では、基本的にラーマーヌジャと同じ立場である。
 マドヴァは、解脱はヴィシュヌの恩寵によって得られるものとした。その点は、テンガライ派と似ている。ただし、神の恩寵を得るには知識が必要であり、その知識を得るには、ブラフマンの考察が必要であると説いた。この点では、バクティのみに偏することなく、知識の道を評価する立場といえる。
 マドヴァは、現在もマドヴァ派の総本山のあるウディピを中心に活躍し、シャンカラ派と激しく抗争したと伝えられる。

●ヴィシュヌ宗とシヴァ宗の比較
 
 ここでヴェーダーンタ哲学の項目でも触れたヴィシュヌ宗とシヴァ宗を比較し、補足を行う。
 ヴィシュヌ宗の成立は、紀元前5世紀~前4世紀とみられる。一方、シヴァ宗は、それよりずっと遅く、紀元後5世紀頃に明確な形をなしたと考えられている。この間、1千年近い開きがある。
 7~8世紀頃、ヴィシュヌやシヴァに敬虔な信愛(バクティ)を捧げる信仰が南インドで盛んになり、16世紀頃までに、各地域の言語によるバクティ文学の成立を伴いながら、インド全域に波及していったことは、既に触れた。同じくこれまで書いたように、正統派の主流をなすヴェーダーンタ哲学では、『ウパニシャッド』の学説を踏まえつつ、ヴィシュヌやシヴァに対するバクティを理論的に基礎づける必要があった。
 記述の都合上、シヴァ宗から書くと、シヴァ宗は総じてシャンカラの哲学の影響が強い。世界は非実在的であるとする世界幻影論的不二一元論を支持する。幻影(マーヤー)は、知識(ジュニヤーナ)によってのみ明らかにされ、幻影の世界からの解脱は、ヨーガの修行と信仰によって可能になるとする。ただし、大きな違いは、シャンカラはブラフマンの一元論だが、シヴァ宗はブラフマンとシヴァを同一とし、シヴァを最高神・主宰神とすることである。
 ヴィシュヌ宗では、ラーマーヌジャ、マドヴァらがシャンカラを批判する理論を展開した。ヴィシュヌ宗では、シヴァ宗とは異なり、世界はヴィシュヌが遍在する限り、実在的であると考える。最高神・主宰神は自ら地上に降下し、人間に恵みを与え、神との合一としての解脱に導くと信じる。それゆえ、ヴィシュヌ宗では、バクティ(信愛)はシヴァ宗におけるよりも重要度が大きい。
 シヴァ宗では、聖典アルナーチャラ・マーハートミヤにて、シヴァの右側からブラフマーが、左側からヴィシュヌが生まれたとし、シヴァがヴィシュヌとブラフマーの創造者であり、最高神であるとしている。一方、ヴィシュヌ宗では、聖典『パドマ・プラーナ』にて、ヴィシュヌが宇宙創造を決意し、創造のため自身の右側からブラフマーを、維持のために左側から自らを、破壊のため自身の中央部からシヴァを創造したとしている。
 シヴァ宗は、シヴァとドラヴィダ人の女神が結婚するという教義を以って、ドラヴィダ人の間に勢力を拡大した。女神とは、農耕民族であるドラヴィダ人が崇拝する豊穣の女神、大地母神である。シヴァ神妃となった女神には、パールヴァティー、ドゥルガー、カーリー等がある。ヴィシュヌ宗もこうした教義の影響を受け、ヴィシュヌの妃ラクシュミーや、ヴィシュヌの化身であるクリシュナの愛人ラーダーが、ヴィシュヌやクリシュナとともに信仰されるようになった。
 男性原理に対して女性原理を補い、男女両性の一対を以て完全なものと考える陰陽一体の思想をここに見ることができる。

 次回に続く。

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