ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

人権293~食糧・水・人口の問題も解決へ

2016-04-13 06:40:25 | 人権
●食糧・水・人口の問題を解決する

 21世紀の世界では、天然資源の争奪に、食糧と水の争奪が加わっている。まず世界の食糧は、現在の世界人口を養うに十分な量が生産されている。だが、食糧の分配が過度に不平等な状態になっている。小麦、トウモロコシ、牛肉等は国際的な商品であり、巨大な農業関連資本が市場を制している。そのため、先進国には飽食、発展途上国には飢餓という二極分化が起こっている。国連開発計画が発行した2003年版の『人間開発報告書』によると、発展途上国の7億9900万人、世界人口の約18%が飢えている。毎日世界中で3万人を超える子供が、脱水症、飢餓、疾病などの予防可能な原因で死亡している。世界的な食糧事情は、国際的な協力によって貧困と不平等の是正を進めなければ、改善されない問題となっている。
 食糧問題に加えて深刻になっているのが、水不足である。2000年(平成12年)の時点で世界中で少なくとも11億人が安全な水を利用できず、24億人は改善された衛生設備を利用できなかったと報告されている。その後もアフリカ、中東、アジアの各地で水不足と飢饉が日常化している。原因は、人口増加、都市化、工業化、地球温暖化等である。水の価値が上がり、水は「21世紀の石油」といわれる。今後20年で世界の水需要は現在の倍になると予測される。これから一層、水の需要と供給のバランスが崩れていくだろう。「ウォーター・バロンズ」(水男爵)と呼ばれる欧米の水企業が、世界各地の水源地の利権を確保するため、しのぎを削っている一方、中国は、国家として、水の確保を進めており、わが国の水と森林の資源が狙われている。
 仮にエネルギーを化石燃料から太陽光・風力・水素等に転換できたとしても、水の問題は、なお存在する。水不足と水汚染を解決できなければ、人類の文明はやがて行き詰る。また水をめぐっての紛争が各地で頻発し、大規模な地域戦争が起こる可能性もある。こうしたなか、日本の水関連技術への期待は大きい。海水の淡水化に必須の逆浸透膜の技術や、排水や汚水を再び生活用水として生まれ変わらせるリサイクル技術等は、日本の技術が世界で圧倒的なシェアを誇っている。日本は世界の農村と農民を助け、水と食糧問題を解決する力を持っている。優れた農業関連技術とインフラ整備、砂漠緑化や淡水化や浄水化などで最先端の技術を保有している。自然と調和して生きる日本人の知恵が、今ほど世界で求められている時はない。
 各国政府が積極的に太陽光発電、電気自動車、砂漠の水田化、水の造成と浄化等の新しい技術を活用することで、環境、エネルギー、食糧、水等の問題は、改善に向いうる。地球温暖化や砂漠化にも、対処する方法はある。人工知能やロボットの開発、宇宙空間での資源利用等が、これらの問題への取り組みにもさまざまな形で貢献するだろう。
 しかし、仮にこれらの問題による危機を解決に向けることが出来たとしても、なお重大な課題が残る。その一つが人口問題である。世界の人口は、20世紀初めは16億人だったが、年々増加を続け、1950年頃から特に増加が急テンポになり、「人口爆発」という言葉が使われるようになった。1987年(昭和62年)に人類の人口は50億人を突破し、2007年(平成19年)には66億人になった。2050年の世界人口は91億人になると国連は予想している。世界人口がピークを迎えるのは、21世紀末から22世紀になるだろうともいわれる。
 増え続ける人口は、大量のエネルギーを消費し、環境を悪化させ、食糧を高騰させ、水の争奪を起こし、紛争を激化させる。人口爆発は、新しい技術の活用による環境、エネルギー、食糧、水等の問題への取り組みを、すべて空しいものとしかねない。だから、人口増加を制止し、「持続可能な成長」のできる範囲内に、世界の人口を安定させる必要がある。
 どうやって安定させるのかは難題であるが、エマニュエル・トッドは、家族制度と人口統計の研究に基づいて、発展途上国での識字率の向上と出生率の低下によって、世界の人口は21世紀半ばに均衡に向かうと予測している。希望はある。識字率の向上と出生率の低下を促進するには、基本的な教育の普及が必要である。そのためには、貧困と不平等の是正が不可欠となっている。
 食糧・水・人口の問題を解決することもまた、地球に生きる多くの人々の「発達する人間的な権利」を守るために、重大な課題となっている。

●シンギュラリティから人類の「黄金時代」へ

 人類は、上記のような様々な重大な課題を抱えている。だが、こうした課題解決は、決して不可能なことではない。テクノロジーの進歩は、指数関数的な変化を示してきた。たとえば、コンピュータの演算速度は、過去50年以上にわたり、2年ごとに倍増してきた。これを「ムーアの法則」という。1985年のスーパーコンピュータCray2と2011年型のiPad2を比較すると、重さと大きさは4000分の1、価格は51,775分の1、CPUのプロセッサ速度は4倍、消費電力は15,000分の1になっている。30年前には、一つの部屋くらいの大きさだったスーパーコンピュータが、今では片手で持って気軽に使えるものになっている。しかも性能は遥かに向上している。
 「ムーアの法則」によると、2045年に一個のノートパソコンが全人類の脳の能力を超えると予測される。人工知能が人間の知能を完全に上回るということである。そのような時代を未来学者レイ・カーツワイルは「シンギュラリティ(特異点)」と呼んでいる。カーツワイルは、その時、人類の「黄金時代」が始まるという。
 世界的な理論物理学者ミチオ・カクは、今から30年後の「黄金時代」について、次のように語っている。

・ナノテクノロジー・再生医療等の発達で、寿命が延び、平均100歳まで生きる。
・遺伝子の研究で、老化を防ぐだけでなく、若返りさえ実現する。
・退屈な仕事や危険な仕事は、ロボットが行う。
・脳をコンピュータにつなぎ、考えるだけで電気製品や機械を動かせる、など。

 これ以外にも、新DIY革命、テクノフィランソロピストの活躍、ライジング・ビリオンの勃興等で、次のようなことも可能になると予想されている。

・新種の藻類の開発で石油を生成
・水の製造機でどこでも安全な水を製造
・垂直農場やバイオテクノロジーで豊富な食糧生産
・太陽エネルギーの利用で大気中の不要なCO2を除去

 テクノロジーの爆発的な進化が今後も続けば、いま述べたようなことが可能になると予測されている。
 さらに今後人類にとって新しい文明の建設が可能になるのは、空間エネルギーの利用、物質転換の実現等、これまでの科学技術の水準を大きく越えるものが登場・普及した時だろう。空想的といえば空想的だが、わずか500年前には、夜も昼のように明るく、空中や地下を自由に移動し、遠く離れた大陸の人と互いに姿を見ながら話ができ、過去に起こったことを映像で再生できるというような今日の文明を、誰も予想することはできなかった。ここ百年の間にも、夢のような、いや人々が夢にすら思いつかなかったようなことが、次々に実現してきている。そのことを思うと、これからの時代にも何が現れ、世界がどのように変わりうるか分からない。危機が大きければ大きいほど、それを乗り越える知恵やひらめきもまた強く輝くだろう。人類は既に想像を超える変化を経験してきている。これからはさらに想像を絶する大変化を体験していくことだろう。

 本章では、現代世界における人権の現状と課題について書いた。第2次世界大戦後の世界における国際人権諸条約による人権の発達をたどり、文明間の違いや思想的・文化的な違いを踏まえて、今日の世界の人権状況を概観した。
 第3部では、20世紀以降の人権をめぐる歴史と人権の発達を書いたうえで、人権の現状と課題について書いた。第4部では、これまでの第1~3部での考察を踏まえて、人権の理論と新しい人間観について述べたい。

 次回に続く。