●ミレニアム宣言
21世紀を翌年に控えた2000年(平成12年)の9月、ニューヨークで、国連ミレニアム総会が開催された。ミレニアムとは、1千年紀を意味する。このミレニアム・サミットには、189の国連加盟国が参加した。各国の代表者たちは、21世紀の国際社会の目標として「国連ミレニアム宣言」を採択した。この宣言は平和と安全、開発と貧困、環境、人権とグッドガバナンス(良い統治)、アフリカの特別なニーズなどと課題として掲げ、宣言と既存の国際開発目標を統合し、「ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals、略称MDGs)」という共通枠組みとしてまとめた。
「ミレニアム開発目標」は、次の8つの目標から構成されている。
<目標1> 極度の飢餓と貧困の撲滅
2015年(平成27年)までに1日1ドル未満で生活する人の人口比率を半減させ、栄養失調を半減させる。
<目標2> 普遍的初等教育の達成
2015年までにすべての子供が男女の区別なく初等教育を修了できるようにする。
<目標3> ジェンダー平等の推進と女性の地位向上
初等・中等教育における男女格差をできれば2005年まで、遅くとも2015年までに解消する。
<目標4> 乳幼児死亡率の削減
2015年までに5歳未満児の死亡率を3分の2減少させる。
<目標5> 妊産婦の健康の改善
2015年までに妊産婦の死亡率を4分の3減少させる。
<目標6> HIV/エイズ、マラリア、その他の疾病の蔓延防止
HIV/エイズの蔓延を2015年までに阻止し、その後減少させる。
<目標7> 環境の持続可能性の確保
2015年までに安全な飲料水と衛生設備を継続利用できない人々の割合を半減する。
<目標8> 開発のためのグローバル・パートナーシップの推進
最貧諸国への特恵的措置によって、援助と貿易を改革する。
これらの目標を達成するため、富裕国は貧困国に援助を行う。援助額は、各国の対GNI比で、2010年には0.5%、2015年には目標の0.7%を達成できるように拠出公約を行わなければならないとした。GNIは国内総所得である。
だが、国連開発計画が発行した2005年版の『人間開発報告書』は、このままでは2015年を目標年次とするMDGsの達成が危ぶまれるという危機感を示し、富裕国から途上国への国際協力の抜本的改革を主張した。『報告書』は、大意次のように記している。
最富裕層10%の所得の1.6%(3000億ドル)を再配分するだけで、1日1ドル未満で生活する10億の人々を、極度の貧困から上に押し上げることができる。
人間開発の観点から不平等が問題になるのは次の5つの場合である。
(1)社会正義と道徳:許容可能な剥奪状況には限度があり、著しい不平等は是正すべきである。
(2)貧困層の優先:ほとんどの人々は豊かで大きな特権を享受している人々よりも貧しく恵まれない人々の所得やサービスといった暮らし向きの改善を優先すべきことを認めている。(3)成長と効率:財産、ジェンダー、宗教的差別のために社会の成員の多くが資産と資源を十分に得ていない場合、社会全体は非常に非効率であり、そのような社会では、より大きな平等と効率は相互補完的である。
(4)政治的正当性:弱者集団である貧困層、女性、農民、先住民族のコミュニティが、政治的な発言力が弱く、不利な立場に置かれたままであると、それが政治の正当性を弱め、制度を腐敗させる。
(5)公共政策の目標:多くの社会では、貧困を削減し、不当な不平等を取り除くことが公共政策の重要な目標と見なされているが、極端な格差がこのような目標の追求を阻んでいる。
ミレニアム開発目標の達成期限は、2015年だったが、目標の達成はできないどころか、はるかに及ばなかった。振り返ると、2000年(平成12年)9月ニューヨークでミレニアム宣言が出された翌年の9月11日、ニューヨークの世界貿易センタービルが倒壊した米国同時多発テロ事件が起こった。米国政府は9・11をきっかけに、アフガニスタン戦争及びイラク戦争を開始した。これに対し、反米的な国際テロ活動が繰り広がられてきた。上記の2005年版『人間開発報告書』の3年後には、米国発のリーマン・ショックが起こった。それにより、世界各国の経済は大きな打撃を受けた。国連を中心とした国際的な貧困撲滅・人権擁護等の活動は、こうした現実世界の激動の中で行われており、国際情勢の影響は避けられない。
次回に続く。
21世紀を翌年に控えた2000年(平成12年)の9月、ニューヨークで、国連ミレニアム総会が開催された。ミレニアムとは、1千年紀を意味する。このミレニアム・サミットには、189の国連加盟国が参加した。各国の代表者たちは、21世紀の国際社会の目標として「国連ミレニアム宣言」を採択した。この宣言は平和と安全、開発と貧困、環境、人権とグッドガバナンス(良い統治)、アフリカの特別なニーズなどと課題として掲げ、宣言と既存の国際開発目標を統合し、「ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals、略称MDGs)」という共通枠組みとしてまとめた。
「ミレニアム開発目標」は、次の8つの目標から構成されている。
<目標1> 極度の飢餓と貧困の撲滅
2015年(平成27年)までに1日1ドル未満で生活する人の人口比率を半減させ、栄養失調を半減させる。
<目標2> 普遍的初等教育の達成
2015年までにすべての子供が男女の区別なく初等教育を修了できるようにする。
<目標3> ジェンダー平等の推進と女性の地位向上
初等・中等教育における男女格差をできれば2005年まで、遅くとも2015年までに解消する。
<目標4> 乳幼児死亡率の削減
2015年までに5歳未満児の死亡率を3分の2減少させる。
<目標5> 妊産婦の健康の改善
2015年までに妊産婦の死亡率を4分の3減少させる。
<目標6> HIV/エイズ、マラリア、その他の疾病の蔓延防止
HIV/エイズの蔓延を2015年までに阻止し、その後減少させる。
<目標7> 環境の持続可能性の確保
2015年までに安全な飲料水と衛生設備を継続利用できない人々の割合を半減する。
<目標8> 開発のためのグローバル・パートナーシップの推進
最貧諸国への特恵的措置によって、援助と貿易を改革する。
これらの目標を達成するため、富裕国は貧困国に援助を行う。援助額は、各国の対GNI比で、2010年には0.5%、2015年には目標の0.7%を達成できるように拠出公約を行わなければならないとした。GNIは国内総所得である。
だが、国連開発計画が発行した2005年版の『人間開発報告書』は、このままでは2015年を目標年次とするMDGsの達成が危ぶまれるという危機感を示し、富裕国から途上国への国際協力の抜本的改革を主張した。『報告書』は、大意次のように記している。
最富裕層10%の所得の1.6%(3000億ドル)を再配分するだけで、1日1ドル未満で生活する10億の人々を、極度の貧困から上に押し上げることができる。
人間開発の観点から不平等が問題になるのは次の5つの場合である。
(1)社会正義と道徳:許容可能な剥奪状況には限度があり、著しい不平等は是正すべきである。
(2)貧困層の優先:ほとんどの人々は豊かで大きな特権を享受している人々よりも貧しく恵まれない人々の所得やサービスといった暮らし向きの改善を優先すべきことを認めている。(3)成長と効率:財産、ジェンダー、宗教的差別のために社会の成員の多くが資産と資源を十分に得ていない場合、社会全体は非常に非効率であり、そのような社会では、より大きな平等と効率は相互補完的である。
(4)政治的正当性:弱者集団である貧困層、女性、農民、先住民族のコミュニティが、政治的な発言力が弱く、不利な立場に置かれたままであると、それが政治の正当性を弱め、制度を腐敗させる。
(5)公共政策の目標:多くの社会では、貧困を削減し、不当な不平等を取り除くことが公共政策の重要な目標と見なされているが、極端な格差がこのような目標の追求を阻んでいる。
ミレニアム開発目標の達成期限は、2015年だったが、目標の達成はできないどころか、はるかに及ばなかった。振り返ると、2000年(平成12年)9月ニューヨークでミレニアム宣言が出された翌年の9月11日、ニューヨークの世界貿易センタービルが倒壊した米国同時多発テロ事件が起こった。米国政府は9・11をきっかけに、アフガニスタン戦争及びイラク戦争を開始した。これに対し、反米的な国際テロ活動が繰り広がられてきた。上記の2005年版『人間開発報告書』の3年後には、米国発のリーマン・ショックが起こった。それにより、世界各国の経済は大きな打撃を受けた。国連を中心とした国際的な貧困撲滅・人権擁護等の活動は、こうした現実世界の激動の中で行われており、国際情勢の影響は避けられない。
次回に続く。