ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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人権270~人権の歴史的先進国イギリスの現状

2016-02-20 09:38:03 | 人権
●人権の歴史的先進国イギリスの現状

 続いて、イギリスとフランスの人権状況を見てみよう。これらは、国連創設以来、国連安保理の常任理事国である。まず人権の歴史的な先進国イギリスはどうであろうか。イギリスは、第2次世界大戦後に「非白人」移民が大量に流入するまでは「同質的白人国」であった、とトッドは言う。白人のみの国だったということである。イギリスでは、産業革命によって階級分化が起こった。大ブリテン島の大部分で支配的な家族型は絶対核家族である。絶対核家族は、差異主義である。そのため、白人種の間の階級分化が、アメリカにおける人種の差に匹敵するほど大きな階級の差を生み出した。イギリスの労働者階級は、アメリカの「黒人英語」を思わせる社会的方言を話す。トッドは「イギリスの労働者は、白人であるけれども、19世紀半ばより、イギリス中産階級の精神の中では、差異の観念そのものを具現している」と言う。つまり、労働者階級は人種が違うくらいに異なった集団だ、と中産階級が感じていたということである。イギリスはそれほど差異の観念が強い。
 第2次大戦後、イギリスに非ヨーロッパから多数の有色人種が流入した。主な移民は、ヒンズー教の一種であるシーク教徒のインド人、イスラーム教徒のパキスタン人、キリスト教徒のアンチル諸島人である。彼らは当初、イギリス社会に同化する気構えを持っていたが、差異主義的なイギリス人の拒否に会った。拒否に会った移民集団には、それぞれ異なる結果が現れた。受け入れ社会と移民の文化の組み合わせによって、結果が違ったのである。ポイントは家族型の違いにある。
 インド人のシーク教徒の家族型は、直系家族である。彼らにはイギリスの差異主義が幸いし、囲い込みという保護膜に守られた形で同化が進んでいる。パキスタン人は、共同体家族である。共同体家族は、固有の普遍主義を持つ。これとイギリスの差異主義がぶつかった。パキスタン人は隔離された。これに対しもともとイスラーム教スンニ派のパキスタン人は、イランのシーア派の活動組織と結び、イスラーム教原理主義に突き進んだ。アンチル諸島のジャマイカ人はキリスト教徒で、習俗もイギリス化していた。文化的には最も受け入れ社会に近い。しかし、アメリカの白人がそうであるように、イギリス人は肌の色にこだわり、彼らを「黒人」とみなした。そのため、ジャマイカ人は、アメリカの黒人と同様に心理的・道徳的な崩壊へと追い込まれている。ただイギリスの「黒人」がアメリカと黒人と違うのは、イギリス社会で「異なる人種」のような存在となっている労働者階級と、民族混交婚が進んでいることである。それによって、イギリスの「黒人」は、絶対的隔離を免れている。
 今日イギリスは、イスラーム系移民がヨーロッパでも最も多く、またEUの中でも最も速いスピードでイスラーム人口が増加している国である。2009年(平成21年)8月、英『デイリー・テレグラフ』紙は、EU内のイスラーム人口が2050年までに現在の4倍にまで拡大するという調査結果を伝えた。それによると、EU27カ国の人口全体に占めるイスラーム系住民は前年には約5%だったが、現在の移民増加と出産率低下が持続する場合、2050年ごろにはイスラーム人口がEU人口全体の5分の1に相当する20%まで増える。イギリス、スペイン、オランダの3ヵ国では、「イスラーム化」が顕著で、近いうちにイスラーム人口が過半数を超えてしまうという。イギリスは、近いうちにイスラーム人口が過半数を超えると予想されている国の一つである。
 今日の西洋文明には、イスラーム教徒をキリスト教に改宗し得る宗教的な感化力は存在しない。イギリスは、英国国教会という独自の国家的なキリスト教宗派を保ってはいるが、近代化・世俗化の進むイギリスに、熱烈な異教徒を信仰転換できる宗教的情熱は、見られない。近代化・合理化の作用は、他の文明から流入する移民の価値観を変え得る。だが、近代化・合理化は、人々が宗教に求める人生の意味、魂や来世の問題については、何ももたらすものがない。イギリスの差異主義と衝突したイスラーム系移民の一部は過激化し、ロンドン等の大都市で、無差別テロ事件を起こしている。また、イギリス社会では、シャーリア(イスラーム法)の導入を巡って摩擦が起き、一つの社会問題となっている。イスラーム系移民の人口は、年々増加している。その過程で、イギリスの社会には、かつて欧米諸国が体験したことのない質的な変化が起こるだろう。  そうした中で、国民の権利と移民の権利を区別し、国民には何を保障し、非国民には何を付与するかを明確にすることが必要になる。国民と移民を区別しない無差別的な人権思想は、自国の文化・慣習・宗教・国柄を否定し、自らのアイデンティティを否定するものとなるだろう。

 次回に続く。