ほそかわ・かずひこの BLOG

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イスラーム13~正統カリフの時代

2016-02-10 06:40:42 | イスラーム
●正統カリフの時代

 ムハンマドは後継者を指名せずに亡くなったといわれる。彼の死後、信徒たちは後継者を選挙で決めることにし、ムハンマドの妻ハディージャの父アブー・バクルが「カリフ」に選出された。この初代カリフから4代目までの時代を正統カリフ時代と呼ぶ。632年から661年までの約30年間である。この時代の首都はメディナだった。
 カリフは、アラビア語のハリーファの英語読みである。「後継者」「代理人」を意味する。イスラーム教では、「神の使徒の代理」を意味する。カリフは、ムハンマドが持っていた宗教的権限と政治的権限のうち、政治的権限だけを継承した。イスラーム教徒の最高指導者として権力を行使するが、立法権と教義決定権は有しない。イスラーム教では、法律や教義はアッラーが決めるものであって、人間が決めるべきではないという考えだからである。
 カリフ体制の国家に対し、離反する部族が現れた。盟約はムハンマド個人との契約によるものと考えていたからである。これに対し、アブー・バクルは、離反者や異教徒を征服するジハード(聖戦)を開始した。ジハードはイスラーム教の組織の防衛と拡大のために行われた。ジハードの戦死者は天国に直行するという教えを受けた戦士の士気は高く、イスラーム教徒の軍隊は圧倒的な強さを誇った。
 634年にアブー・バクルが病死すると、第2代カリフに勇者ウマルが選出された。勇猛果敢なウマルは積極的にジハードを行い、ササン朝ペルシャを滅亡に追いやり、ビザンツ帝国からシリア・パレスチナを奪い、エジプトも征服して、西アジア一帯を支配下に置いた。
 こうしたイスラーム圏の拡大は、ムハンマドの教えを信奉する者たちの死をもいとわぬほどの情熱によるところが大きい。ビザンチン帝国、ペルシャ帝国の装備充分の正規軍を、その兵力10分の1、15分の1にも満たない集団が撃破していったのは、ただならぬ精神的な高揚があったからだろう。
 各征服地にミスルという軍営都市が次々に作られ、アーミルという徴税官とアミールという総督(軍事責任者)が派遣された。イスラーム教徒は、税金を納めれば、異教徒に改宗を迫ることはしなかった。ウマルは、各地から徴収された税をアター(俸給)として、イスラーム共同体の有力者やイスラーム戦士たちに支給する中央集権的な国家体制を築いた。だが、ウマルは暗殺されてしまう。イスラーム共同体の長であるカリフが殺害されたのである。
 ウマルの死後、第3代カリフには、ムハンマドの義父の一人、ウスマーンが即位した。ウスマーンの時代に『クルアーン』の編纂が行われ、イスラーム教の教義の確立が進んだ。『クルアーン』はムハンマドの死後に記録された。初代カリフのアブー・バクルが、相次ぐ戦争で啓示を記憶している者が多数戦死したので、このままでは神の啓示が砂に埋もれてしまうと考えて、ムハンマドの秘書をしていたサイド・イブン・サービトに命じて記録・編集をさせた。しかし、この時にまとめられた『クルアーン』には不備な点が多く、また別の者たちが編集した異本もあったようで、紛争が生じた。そこで第3代カリフのウスマーンの時代に、今日の版の『クルアーン』が編集されたといわれる。だが、ウスマーンは同族を優遇したことで反感を買って、これまた暗殺された。
 ここで第4代カリフに即位したのが、ムハンマドの従弟で、ムハンマドの娘ファーティマを妻とするアリーである。ムハンマドの死後、彼の血統を受け継ぐアリーを後継者とすべきだという集団が存在した。その集団が熱望していたアリーが、ここでようやくカリフの地位に就いた。
 だが、征服地シリアの総督ムアーウィヤがアリーと敵対した。ウスマーンの暗殺にアリー関わっていたとしてムアーウィアが内乱を起した。アリー側とムアーウィア側がスイッフィーンで血で血を洗う戦いをした。この戦いの収集を巡ってアリーが融和的な態度を取ると、これに不満としてイスラーム教で最初の分派となるハワーリジュ派が結成された。アリーはハワーリジュ派の刺客によって暗殺された。
 アリーが暗殺された661年以後、選挙によるカリフの選出が行われなくなった。初代カリフから第4代のカリフまでは、神に正しく導かれたカリフの時代ということで、正統カリフ時代という。だが、この神聖とされる時代において、カリフが3名続いて暗殺されるという深刻な事件が連続していた。そして、正統カリフ時代以降は、カリフが世襲制になったり、イスラーム教社会が分裂して複数のカリフが並立したりしていく。そうしたイスラーム文明の質的低下は、すでに正統カリフ時代に始まっていたのである。

 次回に続く。