ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

北朝鮮で張成沢が失脚・処刑

2013-12-14 16:20:33 | 国際関係
 北朝鮮のナンバ-2、張成沢(チャン・ソンテク)が失脚し、処刑された。わずかの間の逮捕、銃殺。処刑には機関銃に加えて、火炎放射器も使われたと報じられている。マスメディアの多くは驚きと当惑を表しているが、張成沢が失脚する可能性は以前からあったものであり、本年に入ってから、その可能性は高まっていた。
 本年4月、北朝鮮の金正恩政権は、朝鮮戦争の休戦協定を白紙化した。それによって、南北朝鮮は国際法上は戦時状況に戻った。北朝鮮は、対米核先制攻撃を唱え、日本の米軍基地と東京・大阪等の主要都市へのミサイル攻撃も辞さぬなどと、国際社会に向けた論調はエスカレートしている。このことは、張成沢を中心とする経済改革派が後退し、軍が権力を掌握しつつあることをうかがわせた。
 平成23年(2011)12月、金正日が死去し、金正恩が後継指導者となった。私は、同年12月24日の日記に、その時点での内外の有識者数名の北朝鮮に関する観測を書いた。5名が張成沢をキーパーソンとして挙げ、その多くが金正恩体制における権力闘争の勃発を予想していた。
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/5cd62161618ffccc3f276bd14d055feb
 それら有識者の観測を抜粋にて再掲する。

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●ワシーリー・ミヘーエフ氏(ロシアの世界経済国際関係研究所副所長) 産経新聞 平成23年12月22日インタビュー記事
http://sankei.jp.msn.com/world/news/111222/kor11122208100006-n1.htm
 「1994年に金日成国家主席が死去したとき、金正日氏は完全に国を管理し、情勢をコントロールしていたが、今回は(権力委譲の)過程が始まったばかりだった。集団指導体制は北ではあり得ないが、金一族や党、軍などがバランスを取ることはあり得る。金正恩氏は、実質的に何もコントロールしておらず、すべての集団にとって都合がよいので、今は存在できている。みな、自らの立場を守るというただひとつの目的で彼を支持しており、将来の政治情勢がどう動くかは極めて不透明だ。
 私見をいえば、(今後の情勢をみる上での)キーパーソンは張成沢氏だ。昨年9月の党代表者会で60歳代の人々が政治局員候補になった。最年少は54歳だ。彼らは張氏の庇護(ひご)に基盤を置いており、張氏は国家を管理するための党行政機構の中に支援者を持っているようにみえる」

●岡崎久彦氏(元駐タイ大使) 産経新聞 平成23年12月22日「正論」
http://sankei.jp.msn.com/world/news/111222/kor11122202480001-n1.htm
 「第2世代で最も発言力があるのは、金正日の実妹の金敬姫氏であり、形式主義排除なら、女性でも良いことになる。そして、その夫の張成沢氏は軍のタカ派路線に対し経済改革派と呼ばれている」「金正日氏の死で、権力闘争の可能性があるとすれば、金敬姫-張成沢路線と軍との相克であろう」「実妹に対する金正日氏の配慮がなくなった後、もし、軍との間に相克が起これば、金敬姫氏の地位は危うくなろう。そして、それが、政策面におけるタカ派路線とハト派路線の相克を意味するのならば、北朝鮮の内外政策にも影響して来ることになる」

●小此木政夫氏(九州大特任教授) 毎日新聞 平成23年12月20日
http://mainichi.jp/select/world/archive/news/2011/12/20/20111220ddm010030040000c.html
 「亡くなった金正日総書記にしても、ずっとナンバー2だった。父親と共同統治をやってきた。それでも父親の死後、体制確立には4年かかっている。その意味で正恩氏はもっと大変だ。党内で集団指導的な色彩はどうしても出てくる。たとえば、金総書記の実妹である金慶喜(キムギョンヒ)氏やその夫の張成沢(チャンソンテク)氏に助けられながら、自分の体制を何年かかけてつくっていく。その過程がスムーズにいくかどうかだ。今ただちに権力闘争が起こるということではないが。」
 「正恩氏もいつまでも後見人の下にいることを潔しとしない。金正日氏と同様に、自分の独裁体制なり、自分が最高指導者であるという確たる体制をつくりたい、と思った時、トラブルが起こる可能性はある」

●金賢姫氏(元北朝鮮工作員) 産経新聞 平成23年12月22日
http://sankei.jp.msn.com/world/news/111222/kor11122220040018-n1.htm
 「当面は団結、安定が強調されるが落ち着けば新しい動きが出るだろう。ただ後見役の張成沢(国防委員会副委員長)の影響力が強まれば軍部との摩擦もありうる」

●重村智計氏(早稲田大学教授) 夕刊フジ 平成23年12月19日
 ※紙面から引用
 「北朝鮮は表面的には大きな混乱もなく、金正恩氏への後継が淡々と進むだろう。対外的に大きな変化が起こることも考えにくい。しかし、正恩のカリスマ性は誰一人として認めていないのが実情で、国家の実権は軍部が掌握する。これにより、政府中枢では世代交代の抵抗勢力だった李英鎬・朝鮮人民軍総参謀長や総書記の義弟である張成沢・国防委員会副委員長を中心とした親・正日派と、親・正恩派のポスト争いが過熱することになる」
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 金正恩体制のスタート時点で、北朝鮮がどう動くかについては、5つのシナリオが考えられた。「武力行使」「核ボタン」「体制維持」「経済改革」「内部崩壊」の5つである。どのシナリオで進むかに関するキーパーソンは、張成沢だった。
 張成沢は、北朝鮮指導部で海外を知る数少ない人物であり、経済改革派として知られ、中国では小平に例えられる親中派でもあった。また、金正日の長男で中国の庇護を受ける金正男とのパイプを持っていた。その張成沢が失脚し、処刑された。権力の座について2年経ち、自信をつけた金正恩が叔父の存在を疎ましく思い、また金正恩を担ぐ軍の主流派が張の経済改革路線に反発したものだろう。張の処刑によって、「経済改革」のシナリオはなくなった。軍主流派に対抗する勢力が打撃を受けたことで「体制維持」のシナリオも、ほぼなくなった。残るは、「武力行使」「核ボタン」または「内部崩壊」である。
 この状況に対し、アメリカ、中国はどう出るか。オバマ政権は北朝鮮への融和的な姿勢の変更を迫られるだろう。だが、朝鮮半島に力を傾注する余裕は、今のアメリカにはない。中国は、国際感覚と現実的判断力を持つ張成沢がいなくなり、視野狭窄の軍に権力が集中する北朝鮮の冒険主義的な行動を抑えられるか。わが国にとって、今月初め国家安全保障会議(NSC)が発足し、同時に特定秘密保護法が成立したことは幸いだった。国民は激動する北朝鮮情勢を見据え、日本の置かれている厳しい国際環境を自覚して、安全保障の強化を急ぐ必要がある。

■追記
2013.12.16

 一部韓国のメディアが、張成沢は金正男を指導者に替えるクーデターを画策し、そのための資金を中国からもらっていたことが発覚し、粛清されたという見方をしている。金正日の時にも、暗殺未遂事件はあった。中国指導部は、金正恩政権になって、核開発・核保有等でますます言うことをきかなくなっている北朝鮮に手を焼き、金正男をトップに据え、北朝鮮を支配下に置くことを考えてきただろう。北朝鮮は、経済的には中国に大きく依存している。中国としては、その関係を一層深め、中国の意のままになるトップに替えたいところだろう。
 もともと金正恩は金正日の長男ではなく、金日成は自分の孫と認めてさえいなかった。母親の高英姫(コ・ヨンヒ)は在日朝鮮人2世である。血と権威の正統性を欠くもろい存在である。
 金正恩を中国の庇護下にある金正男に替えるには、金正男と強い結びつきのある張成沢が鍵だった。だが、今回、張成沢が処刑され、彼を支持する勢力は徹底的に粛清される。中国関与のクーデターは、当面実現不可能となった。張成沢を処刑したことで、北朝鮮と中国の関係は悪化する。中朝関係の変化に注目したい。
 以下は報道のクリップ。

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●産経新聞 平成25年12月14日

http://sankei.jp.msn.com/world/news/131214/chn13121423370007-n1.htm
【張成沢氏処刑】
中国、対北政策見直しへ 核問題「厳しい対応」予測も
2013.12.14 23:35

 【北京=矢板明夫】北朝鮮で長年、対中外交の中心的役割を果たしてきた張成沢(チャンソンテク)前国防副委員長が解任・処刑されたことを受け、中国がこれまでの対北朝鮮政策を全面的に見直す可能性が出てきた。習近平国家主席が一両日中にも政治局常務委員会を開き、北朝鮮問題への対応を協議するとみられる。共産党筋は、「北朝鮮が親中派をこのような形で失脚させたことで中国のメンツは丸つぶれとなった感がある。核問題でより厳しい対応をとるかもしれない」と話している。
 共産党筋によれば、北朝鮮が張氏解任を発表した9日、中国は来年の経済政策方針を決める中央経済工作会議開催を翌日に控えていたことから、すぐに対応ができなかった。 
 張氏失脚にともない、北朝鮮の政権中枢にいた、中国の息がかかった人物はほぼ粛清された。中国の外交関係者は「中国の長年の北朝鮮政策が白紙に戻ったことを意味する」と話す。
 中国は北朝鮮の最大の支援国として長年北朝鮮の金政権を支えてきた。しかし、北朝鮮政権内の親中派粛清は今回が初めてではない。1930年代から40年代にかけて、中国共産党の本拠地である陝西省延安で、毛沢東らと一緒に中国の革命に参加した「延安派」とよばれる一派は北朝鮮に帰国後、金日成(キムイルソン)首相(当時)との権力闘争に敗れ、56年に粛清された。このとき、毛沢東政権は、ソ連との外交バランスを考慮して金日成政権に対する報復措置を取らず支援を続けた。
 今回、北朝鮮が発表した張氏の罪状のなかには、中朝貿易を否定し、中国への敵意を感じさせる部分もあった。しかし、「今の国際情勢の中で、北朝鮮を見捨てられない」(共産党筋)との判断から、「金正恩政権を支える大きな方向に変わりはないだろう」と見る人が多い。
 一方で、対北経済政策の最大の柱だった「貿易を通じて改革開放を促す」という目標は張氏らの失脚で実現の可能性がほぼなくなり、政策を一から練り直す必要に迫られている。逆に北の核問題については、親中派に配慮する必要がなくなったことで、緩やかな制裁から厳しい制裁に傾く可能性も浮上している。

http://sankei.jp.msn.com/world/news/131214/kor13121421150014-n1.htm
【張成沢氏処刑】
対中パイプ役「不在」 経済の生命線 北、早期登用課題
2013.12.14 21:12

 【ソウル=名村隆寛】クーデターを画策したとの罪で張成沢(チャンソンテク)前国防副委員長を処刑し、張氏支持勢力の粛清も断言した北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)政権は、中国とのパイプとなる人物の大半を事実上失った状態だ。しかし、中国が北朝鮮経済の生命線を握る存在であることに変わりはなく、張氏らに代わり得る人材の早期登用が重要な課題となっている。
 張氏の解任後、中国に駐在する北朝鮮の企業幹部が、続々と帰国しているとの情報もある。
 韓国では、張氏処刑によって中朝関係が冷え込み、北朝鮮経済がさらに悪化することへの懸念が深まっている。韓国紙、中央日報は、北京の外交関係者の間で「中朝高官の交流中断、石油や食糧支援の減少、経済協力中断などの(中国側の)措置がとられるという見方がでている」とし、張氏の処刑で「中朝の経済協力も当面、中断する可能性が高い」と展望している。
 北朝鮮は国内に、韓国との南北協力事業の開城(ケソン)工業団地のほか、中国との国境地帯の羅先(ラソン)、黄金坪(ファングムピョン)・威化島(イファド)に経済貿易地帯(経済特区)をもつ。外資誘致に向け今年、全土に新たな経済特区を設けた。いずれも中国が頼りで、新設した経済特区が完成しても「投資が期待できるのは韓国を除けばやはり中国ぐらい」(韓国企業関係者)という。

●産経新聞 平成25年12月16日

http://sankei.jp.msn.com/world/news/131216/kor13121610000003-n1.htm
【環球異見】
2013.12.16 10:00

 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)第1書記の叔父で後見人とされた前国防副委員長、張成沢(チャン・ソンテク)氏がクーデターを画策した「国家転覆陰謀行為」の罪で処刑された。17日に金第1書記の父、金正日(ジョンイル)総書記の死去から2年となるのを前に、実質的なナンバー2だった張氏の粛清を急いだのはなぜか。今後、金第1書記を中心とする独裁体制は完成に向かうのか。“閉鎖国家”の行方を見通すのは困難なだけに、警戒を促す論評が目立った。

□中央日報(韓国)

金正恩体制の脆弱性示す

 張成沢氏の処刑について、韓国紙、中央日報は14日付の社説で、「金正恩一人支配体制を固めるための意図」との見方を示す一方で、「逆説的に金正恩体制の脆弱(ぜいじゃく)性を証明している。(金日成(イルソン)主席、正日総書記、正恩第1書記の)血統に対する挑戦は絶対に許されないと確実に示さねばならないほど、金第1書記の『唯一領導体制』がまだ不安定な状態だと見なすことができる」と分析した。
 同社説は、北朝鮮が公表した張氏の死刑を言い渡した判決文で「張成沢が内閣総理(首相)になった後、軍隊を動員し政変を起こし、最高権力を奪取しようとする陰謀を計画。本人もこれを認めた」とした部分に注目。「金正恩体制に不満を抱く勢力が党と軍、内閣の広範囲に存在していることを証明するものだ」とした。
 さらに、張氏による「国の経済実態と人民生活が破局的になっていくにもかかわらず、現政権はどんな対策も出せないという不満を軍と人民が抱くよう試みた」との自白と、「経済が完全に停滞し、国家が崩壊直前になれば、私(張氏)がいた部署とすべての経済機関を内閣に集中させ首相になろうとした」と語った点を挙げ、「金正恩体制の実質的なナンバー2だった張成沢でさえも、体制存続の可能性に疑問を抱いたということだ」と解釈した。
 「金正恩の極端な恐怖政治は当分、権力強化に役割を果たすかもしれない」とする半面、同社説は「深刻な副作用」が不可避であると展望する。粛清の危機にある張氏の勢力だけで2万~3万人に上ると推測し、「生命が脅かされ追い詰められた状況になれば極端な選択も取りうるのが人間だ。このような人々が刃先が向けられても抵抗しないとは考えにくい」とした。つまり、「体制強化のための金第1書記の選択がもたらす、体制不安を増幅させる逆効果の可能性」があるというのだ。
 張氏の逮捕・処刑について同社説は「30歳の指導者が率いる金正恩体制では、常軌を逸脱したいかなることも可能という意味だ」と結んだ。(ソウル 名村隆寛)

●産経新聞 平成25年12月15日

http://sankei.jp.msn.com/world/news/131215/kor13121521570006-n1.htm
強まる存在感 北朝鮮の崔竜海氏 “代を継ぐ忠誠”を強調
2013.12.15 21:55

 【ソウル=名村隆寛】張成沢(チャン・ソンテク)前国防副委員長が処刑された北朝鮮で、金正恩(キム・ジョンウン)第1書記の最側近として崔竜海(チェ・リョンヘ)軍総政治局長が存在感を強めている。金第1書記を取り巻く人物の中で、張氏のライバル的存在だった崔氏が張氏粛清に大きな役割を果たしたことがうかがえ、最高首脳部で盤石の地位を獲得したもようだ。(略)
 崔氏は張氏処刑後、初公開された金第1書記の軍関連施設の視察にも同行、随行者の中で最初に紹介された。崔氏が張氏の解任・処刑で重責を担った可能性が濃厚で、今後、金正恩政権のカギを握るのは確実だ。(略)
 張氏の妻で金第1書記の叔母、金敬姫(キム・ギョンヒ)政治局員が名簿で5番目に挙げられ、韓国メディアが中国亡命説を報じた盧斗哲(ロ・ドチョル)副首相の名もある。党政治局常務委員や政治局員、その候補や書記ら、ほとんどが政治的に健在であることが判明した。(略)
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「婚外子の均等相続化で、日本の家族を揺るがす民法改正」をアップ

2013-12-14 08:38:04 | 家族・家庭
 12月11~13日にブログとMIXIに連載した「婚外子の均等相続化で、日本の家族を揺るがす民法改正」を編集して、マイサイトに掲載しました。まとめてお読みになりたい方は、下記にてお読みください。

 「家族・教育」のページの目次から項目08へ。
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion02.htm