ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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婚外子の均等相続化で、日本の家族を揺るがす民法改正3

2013-12-13 08:49:49 | 家族・家庭
●子供の権利条約との関係

 今回の最高裁の違憲判決は、わが国が締約している子どもの権利条約と関係がある。その点が重要なのだが、マスメディアの報道はそのことに触れていない。また保守の政治家・有識者も触れていないようである。わが国では国際法及び国際人権法についての関心が薄く、人権に関する国際条約が日本の社会にどのような影響をもたらすかについて、よく理解していない知識人が多い。そのため、国際人権法との関係でわが国が直面している問題が国民に広く認識されていない。
 子どもの権利条約は、国家報告制度を持つ。条約の実施監視機関である子供の権利委員会は、わが国の第1回報告を平成10年(1998)5月に審査し、同年6月に総括所見を採択した。この総括所見で、わが国は相続や出生届をはじめ婚外子に対する差別は条約違反なので是正されるべきとの勧告を受けた。また委員会は平成16年(2004)、日本の第2回報告審査の結果、総括所見を出し、婚外子に対する差別について、法律改正を勧告するとともに非嫡出子という用語を使用しないように要請した。また委員会は日本人父と外国人母の間に生まれた子どもが日本国籍を取得できないケースがあることに懸念を表明し、わが国は日本で出生した子どもが無国籍者にならないよう国籍法を改正するよう勧告を受けた。これに対し、わが国政府は、婚外子差別の一つと指摘された出生登録(戸籍の父母との続柄欄の記載方法、戸籍法第13条)については、同年11月の戸籍法施行規則の一部改正により、嫡出でない子についても嫡出である子と同様に「長男(長男)」等と記載するよう改めた。
 平成20年(2008)6月、わが国の最高裁は、準正(非嫡出子が嫡出子の身分を取得すること)による国籍取得について定めた国籍法第3条が、婚内子と婚外子を国籍付与の点で不合理に差別しており、遅くとも2005年当時において憲法第14条1項に違反すると認定した。
 こういう経緯がある。国際法において、条約の第一次的な解釈適用権限は、締約国が有する。ほかの国際人権条約と同じく子供の権利条約において、子どもの権利委員会を条約の有権的解釈機関と認めた条文は存在しない。形式的には委員会の解釈が締約国に対して何らかの拘束力を持つことはありえない。しかし、条約の締結国は、条約の要請に従い、また委員会の勧告を受けて、法律を制定・改正したり、行政実務を改善したりする必要がある。また、国内の裁判所は、条約の規定や委員会の勧告を考慮に入れて判決や決定を下すことになる。
 条約は政府が締約し、国会が承認して批准している。発効しているものは、遵守する義務がある。またわが国には憲法裁判所がなく、最高裁判所が終審裁判所として憲法判断を行う。最高裁が法律の規定を違憲と判断すれば、法律を改正せざるを得ない。
 わが国は、憲法、条約、法律には、「憲法>条約>法律」という優劣関係があるとしている。政府も最高裁も見解が一致している。条約の締約による弊害を除くには、優位にある憲法から改正する必要がある。裁判所は、現行憲法を基準にして、判決を下す。その憲法に欠陥があれば、欠陥を助長する判断を裁判所はしてしまう。特に国連の懸念表明や法改正の勧告が出されると、裁判所はそれをもとに判断をする。そこに大きな問題があると私は考える。

●憲法に家族条項を

 私は、今回の民法改正への善後策として、家族制度を守る方策を講じることが必要だと思う。国会は、そのための法律を制定し、嫡出子・婚外子の均等相続による弊害を防ぐべきである。ただし、法律による善後策には限界がある。ここで重要な課題は、憲法を改正し、憲法に家族条項を設けることである。
 現行憲法には、第二十四条に婚姻に関する規定がある。第1項に「婚姻は、両性の合意のみによって成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない」、第2項に「配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない」と記されている。
 最高裁は、先の判決で家族観の変化を挙げるが、わが国の現状は、家族に係る問題が増加、深刻化し、重大な社会問題を生み出している。むしろ、親子、夫婦、祖孫等の家族の絆を強め、家族を再建することが課題である。先の民法改正に対し、家族を保護するため、他に法律を作るなどして、個人の権利の尊重が家族の崩壊を助長するものとならないようにしていく必要がある。ただし、法律では限界がある。私は真に有効な手立てを講じるには、憲法に家族条項を設け、日本の家族を立て直すことが必須であると考える。
 そもそも現行憲法のように、憲法に婚姻に関する規定が設けられていることは、世界的に見て異例である。男女が性的に結びつくことには、法律はいらない。その限りでは、結婚は私的な事柄であり、政府が介入すべきことではない。
 結婚が法律上定められるとすれば、それは結婚が単なる男女の結びつきではなく、家族という一つの社会を形成する公共的な行為だからである。そのために婚姻の安定性を求める法律も定められるのである。恋愛・性交をするのは両性の自由だが、婚姻は夫婦の性的関係を維持する手段ではなく、家族を形成することが目的である。それゆえ、憲法に必要なのは、婚姻よりも家族に関する規定なのである。
 先進国の中ではイタリア憲法やドイツ基本法などには家族に関する規定がある。それらの国法の規定は、婚姻ではなく、家族を中心とした規定となっている。そして、家族の権利、子供の教育の義務と権利、国家による家族・母性・子供の保護などが規定された例が見られる。そこには、家族は特別な社会であるから、特に保護されなければならないという考えが示されている。
 家族は、生命・種族の維持・繁栄のための基本単位となる社会であるとともに、文化の継承と創造の基礎となる社会である。単なる生物的経済的共同体ではなく、文化の継承の主体、文化の創造の主体として、家族を考えなければならない。それゆえ、家族は生命と文化を継承する場所として、国家によって保護されなくてはならないのである。また、親は子供を教育する権利を有し、また子供を教育し文化を継承発展させていく義務を担う。
 しかし、現行憲法の規定には家族という概念はなく、婚姻が両性の努力で維持されるべきことしか規定されていない。私は、両性の権利の平等を強調しながら、家族の大切さを規定していない第二十四条には、大きな欠陥があると思う。その条文は、利己的個人主義の結婚観を、日本人に植え付け、愛と調和の家族倫理を失わせ、社会の基礎を破壊するものとなってきたのである。
 特に、今日、家庭道徳の低下と離婚率の上昇など、日本の家族は崩壊の危機にあるので、女性・子供・高齢者を守るためにも、憲法において家族の概念を明確化することが必要だと思う。日本人は、アメリカやスエーデンなどの極度の個人主義が招いた家庭崩壊の愚を後追いすべきではない。
 また、現行憲法の条文には、夫婦と並んで家族を構成するもう一本の柱である親子への言及がない。これは、生命と文化が、世代から世代へと継承されていくことを軽視しているものである。婚姻が、その夫婦、その世代限りのものと考えるならば、先祖から子孫への縦のつながりは断ち切られ、民族の歴史が断ち切られる。
 親が子どもを生み、その子に知恵や財産を継承するのは、私的な行為である。しかし、それは単に私的な行為ではなく、同時に、大人が次の世代を生み育て、生命と文化を継承するという社会性をもった行為でもある。それゆえ、家族は国民の生命と文化を継承する場所として、国家によって保護されなくてはならないのである。
 新しい憲法には、各世代には世代としての責任があり、健常な大人の男女は、子孫を生み育て、教育を施し、生命と文化の継承に努める義務があると明記すべきであろう。
 子供の教育に関しても、親は子供を教育する権利を有し、また子供を教育する義務を負う。それは、自分の子供を通じて、次世代に文化を継承発展させていくという公的な義務なのである。家族というものを通じて、国民は、生命と文化の継承という公的義務を負うのである。
 また、国民は、自分の親の養護に努力すべきことも、憲法に定めるべきだろう。自分の子どもには、親として教育を与える義務があるということは、他の大人に託すのではないということである。これと同様に、自分の親に対しても、子として養護に努力すべきだろう。それは、他の大人に託すのではないということである。子どもの教育においても、親の養護においても、まず自助努力を促し、それで足りないところを学校や、福祉施設が補う。これが、人格的な人間関係を根本においた社会の基本的なあり方である。
 以上のように憲法において家族の概念を明確化することが不可欠であると私は考える。条文案は、新憲法案の一部として下記のページに掲載している。
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion08h.htm
 嫡出子・婚外子の均等相続による民法改正の弊害を防ぎ、日本の家族を守り、日本の社会、国家を再建するために、憲法の改正が急務である。(了)

関連掲示
・拙稿「家族の危機を救え!」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion02a.htm
・拙稿「高齢化社会における家族のあり方」
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion02.htm