ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

MDシステムと集団的自衛権

2007-12-21 22:28:14 | 国際関係
 先ごろ海上自衛隊のイージス艦「こんごう」が、米ハワイ沖で海上発射型迎撃ミサイルSM3の初の実射訓練を行い、大気圏外での模擬ミサイルの迎撃に成功したと報じられた。これは集団的自衛権に係る問題である。
 安倍前首相が辞任し、福田政権になってから、集団的自衛権に関する検討が止まっている。しかし、我が国は、ミサイル防衛システム(MDシステム)の導入を進めており、その運用について検討を進めなければ、膨大な資金を当てて整備しているMDシステムシステムは、いざというときに有効に機能しないだろう。導入した以上は、実効あるものにしないと、壮大な無駄になる。

 安倍前首相は、平成19年5月有識者懇談会を設立し、集団的自衛権に関する検討を諮問した。安倍氏は、「日本を取巻く安全保障環境は格段に厳しさを増している。私は、より実効的な安全保障体制を構築する責任を負っている」と強調した。
 当時安倍氏の念頭にあったのは、中国の急激な軍拡や北朝鮮のミサイル発射・核実験による新たな脅威の増大だっただろう。安倍氏は、懇談会に四つの4類型を挙げて、有識者に検討を求めた。以下の4類型である。

(1)公海、公の海の上でアメリカ軍の艦船が攻撃を受けた場合、近くにいる自衛隊が何もできなくてよいのか。
(2)アメリカを狙った弾道ミサイルを打ち落とすことができなくてよいのか。
(3)PKOなどで、他国の部隊を武器を使いながら救援することができなくてよいのか。
(4)他国への後方支援を行う場合、今まで通りの条件が必要なのかです。

 これらのうち、集団的自衛権の行使と密接に関連するのは、(1)と(2)である。ここで直接関係するのが、(2)の場合である。弾道ミサイル防衛については、従来の政府解釈では、自衛隊が日本を狙ったミサイルを打ち落とすことは個別的自衛権の行使であるから、可能である。アメリカ本土を狙ったミサイルを迎撃することは、集団的自衛権の行使にあたるので、憲法上できないとされている。
 MDシステムは、平成15年12月、小泉政権のもとで導入が決定された。その際には、「専守防衛」に徹し、「第三国の防衛のために用いられることはない」という方針だった。これに対し、アメリカは、MDシステムがアメリカの防衛に直接寄与するように要望している。安倍氏は、これに応えて、憲法解釈の見直しができないか、有識者懇談会に検討を求めていたわけである。
 ただし、現在配備されているイージス艦搭載のSM3では、高高度を飛翔する長距離ミサイルを迎撃することは技術的に不可能である。安倍氏の問題意識は、将来的に、技術水準の向上を見越して、法的な検討を進めるという意図だったと考えられる。

 この問題には、法的な側面と軍事的な側面がある。
 私は、法的には、憲法解釈の見直しで収まる問題ではないと考える。我が国は、自国の防衛のためには、現行憲法を改正し、国防を整備することを急務としている。アメリカの戦争に協力するためではない。万が一他国の侵攻に備えて、国防を怠らないのは、独立主権国家として当然のことである。現行憲法を放置して、解釈で切り抜けようという発想では、国家の主権と独立、国民の生命と財産は守りえない。憲法にどう書いてあるかではなく、国を守るにはどうすべきかから考えなくてはいけない。国民に自力のみで国を守るという決意があるのなら、集団的自衛権は自制してもいいかも知れない。しかし、現代の世界では、自力のみで国を守ることは、技術的にも費用的にも不可能である。そこにおのずと集団的自衛権の行使が不可欠となる。
 次に軍事的には、MDシステムに、過剰な期待をすべきではないと思う。高速で飛来するミサイルをミサイルで打ち落とすのは、鉄砲の弾に鉄砲の弾を撃ち当てるようなものである。今回の迎撃実験は成功したといっても、実験は実験であって、現実とは違う。いつ不意に襲い来るか知れぬミサイルを、確実に迎撃できるようになるには、相当の技術進歩が必要だろう。ダミーを含む多数のミサイルを同時に発射されたら、打ち落とせずに着弾するものが必ず出る。それが核ミサイルであれば、一箇所数十万人の犠牲者が出るだろう。現在導入中のMDシステムが完成するのは平成22年(2010)だが、中国はその翌年にそれを上回る技術を完成させるという。

 今日の戦争では、遠隔地からのミサイル攻撃は、基本的な戦術である。しかも、宇宙空間を利用した軍事技術の優劣が勝敗を決する段階に入っている。我が国へのミサイル攻撃から防衛するには、アメリカとの同盟は現状において、不可欠である。良かれ悪しかれ、アメリカの軍事力に依存せざるを得ない。
 こうした状況において、我が国が、アメリカ本土に向かうミサイルを我が国がレーダーで探知しても、憲法上、集団的自衛権は行使できないので、MDシステムで迎撃することはできないという姿勢で、アメリカの政府及び国民の理解を得られるかどうか。
 自分に何かあったら守ってくれと相手に求めるだけで、相手が攻撃されたときには、助けることはできないというのは、自己中心である。それでは、いつか愛想をつかされる恐れがある。
 さらにそれ以前の問題として、我が国が北朝鮮なり中国なりのミサイルで実際に攻撃された場合、どういう事態が生じうるのか、国民は考えなければならない。政府もまた国民に真剣に問題を投げかけるべきである。
 先日、政府は、民主党議員の質問に答えて、UFOの「存在を確認していない」とする答弁書を閣議決定した。官房長官や防衛大臣がUFOやゴジラ、モスラを語るのもいいが、もっと現実的な安全保障の問題を取り上げ、国民に意識を喚起すべきだろう。
 以下は、報道のクリップ。

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●産経新聞 平成19年12月18日

MD発射成功 弾道ミサイルの脅威へ対抗
2007.12.18 23:31

 海上自衛隊のイージス護衛艦「こんごう」が米国以外で初めてミサイル防衛(MD)システムの基幹をなす海上配備型迎撃ミサイル(SM3)の迎撃実験を成功させたことで、中国や北朝鮮の弾道ミサイルの脅威に日米が共同で立ち向かう基礎が完成した。今後、米国向けミサイル迎撃に関する集団的自衛権の問題をどう解決するか、日米の情報共有や作戦をいかに効率的に実行するかといった課題に関し、日米間での緊密な協議が必要となる。(加納宏幸)
 米ハワイ・カウアイ島沖での迎撃実験に出席した防衛省の江渡聡徳副大臣は記者会見で「今回の成功は同盟関係の変革を現すものであり、日米同盟にとって記念すべき歴史の1ページとなった」と胸を張った。
 「こんごう」は来年1月初旬に日本に帰国し、実戦配備される。防衛省は当初、来年3月までの配備を予定していたが、昨年7月の北朝鮮による弾道ミサイル発射や同年10月の核実験を受け、米側に整備の加速を要請、約3カ月の前倒しが可能になった。
 北朝鮮、中国がそれぞれ1000基以上の弾道ミサイルを持つとされる中、日本にMDの一翼を担わせようという米政府の意欲の表れだ。米ミサイル防衛局のオベリング局長は「成功は日米のMDにとって大きな一歩となった。MDで日本が指導的な立場の国として開発計画を推進していることに感謝する」と期待感を示す。
日本政府はすでに、SM3が撃ち漏らした弾頭を地上から迎撃する地対空誘導弾パトリオット(PAC3)を首都圏の2カ所に配備し、20年度末には2隻目のSM3搭載イージス艦を配備して日本全土をカバーする態勢を整える。
 米軍もSM3搭載イージス巡洋艦「シャイロー」を横須賀基地(神奈川県)、PAC3を嘉手納基地(沖縄県)、移動式早期警戒レーダー(Xバンドレーダー)を航空自衛隊車力分屯基地(青森県)にそれぞれ配備し、日本でのMDシステム整備を進めている。
 米国がMD整備で日本を重視しているのは、中朝両国による弾道ミサイルでの攻撃により、自衛隊や在日米軍が無力化する恐れがあるからだ。米本土やハワイに届く中国の移動式弾道ミサイル東風31号や北朝鮮のテポドン2の脅威に対する抑止効果も期待している。
 米側はこうしたミサイルの迎撃が可能になる技術的進歩を見据え、日本に配備されたMDシステムが米国防衛に直接寄与するように日本政府に対し、集団的自衛権を行使できないとする憲法解釈の見直しを求めている。
 安倍晋三前首相は「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」で米国向けミサイルの迎撃や、米イージス艦が攻撃を受けた場合に日本が反撃できるかといった課題の検討を始めた。しかし、集団的自衛権の行使に否定的な福田康夫首相の下で懇談会は一度も開かれておらず、今すぐに憲法解釈が見直される可能性はほとんどない。
 また、イージス艦中枢情報流出事件で露呈した日本側の機密保全態勢のずさんさはミサイル発射の兆候に関する情報共有の障害となる。今回の迎撃実験成功により日米両国のMDシステムは「運用の時代」に入ったといえ、日米両国が円滑にシステムを運用する態勢の整備が急務となる。

●読売新聞 平成19年12月21日

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20071220ig91.htm
ミサイル防衛 効果的運用へ日米連携が重要だ
(12月21日付・読売社説)

 来年1月の運用開始へ、訓練と技術的な検証を重ね、実効性のある防衛網を構築したい。
 海上自衛隊のイージス艦「こんごう」が米ハワイ沖で海上発射型迎撃ミサイルSM3の初の実射訓練を行い、大気圏外での模擬ミサイルの迎撃に成功した。
 北朝鮮は日本列島を射程に収めるノドン・ミサイルを200基以上配備しているが、日本は何の防御策もなかった。
 SM3搭載の「こんごう」が海自佐世保基地に帰港すれば、航空自衛隊入間基地などに配備が始まっている地対空誘導弾パトリオット・ミサイル3(PAC3)と合わせて、二段構えのミサイル防衛(MD)体制がようやく整備される。
 2010年度までに、イージス艦4隻へのSM3搭載と、大都市周辺の16高射隊などへのPAC3配備が完了する。
 MDは無論、万能ではない。軍事上の抑止には、報復攻撃による懲罰的抑止と、敵の攻撃を無力化・軽減する拒否的抑止がある。MDの拒否的抑止は、米軍による懲罰的抑止を組み合わせてこそ、効果が高まる。その意味で、米軍の抑止力の重要性は変わらない。
 MDの効果的な運用には、同盟関係に基づく日米間の緊密な連携が死活的意味を持つ。弾道ミサイルの発射の兆候や発射を確認するには、米軍の偵察衛星や早期警戒衛星の情報が頼りだからだ。
 昨年7月の北朝鮮のミサイル連射時には、日米間や海自・空自間の通信や情報伝達が不十分だったと指摘された。米軍は日本にSM3搭載イージス艦数隻と嘉手納基地にPAC3を配備している。共同訓練を通じて日米の役割分担や情報共有の体制を確立しなければならない。
 日米両政府は、14年度を目標に能力向上型のSM3を共同開発している。能力向上型SM3は、ノドンより長射程のテポドンや、「おとり」を備えた弾道ミサイルなどにも対応できるとされる。
 現在のMD計画は、8000億~1兆円を要する見通しだ。能力向上型SM3を追加配備する場合、費用が膨らみ、他の防衛予算にしわ寄せが出る。MDの費用対効果を慎重に検討し、バランスの取れた防衛装備体系を作る必要がある。
 「集団的自衛権は行使できない」とする政府の憲法解釈に従えば、米本土に向かうミサイルをレーダーで探知しても、迎撃は許されない。現在のSM3では技術的に迎撃できないが、能力向上型なら、迎撃できる可能性がある。それでも本当にミサイルを黙って見過ごすのか。
 日米同盟の重要性を踏まえれば、政府は当然、憲法解釈を変更し、迎撃を可能にする手続きを急ぐべきである。
(2007年12月21日1時41分 読売新聞)
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