ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

田中卓氏・女系容認論の迷妄2

2006-02-14 11:28:27 | 皇室
3.女系容認をベースに要望を付す

 田中氏は、有識者会議の報告に賛同し、その報告を基にして政府案に要望を出している。要約で田中氏の意見を示す。

① 皇位は男子・男系が望ましいが、非常の事態に備えて「女性天皇や皇位の女系継承も想定しておくのは当然」、「是非「有識者会議」の報告書を基に実現されたい」。
② 占領政策による皇族の臣籍降下には、何らかの対策をする。
③ 天皇・皇族の嫡男系嫡出の子孫を皇族とするのは、天皇の四世孫、場合によっては五世孫までとする。②の旧皇族は臣籍降下した方を基準に適用する。
④ ③の方々を「皇親」とする。
⑤ 「皇親」の範囲内で養子制を認める。
⑥ 女帝の場合は、摂政を検討する。
⑦ 「長子優先」とする。但し、弟妹がおありの場合は、「天皇の勅定による皇族会議」にて最終決定する。
⑧ 譲位を検討する。

 田中氏は、基本的には女系継承容認論である。そして、有識者会議の構成や姿勢を擁護し、同会議を批判する者に反論する。しかし、同会議の報告に全面的に同意はしていない。氏の主張は、女性天皇・女系継承を容認しつつ、旧皇族の復帰、養子制度の採用、長子優先だが男子継承に検討の余地を持たせるなど、男系継承の維持に配慮し、その点において同会議より踏み込んだ検討を行った提案なのである。
 要望のうち②③④⑤は、男系継承を堅持すべしという意見と共通した点があり、一部は具体的でもある。男系継承を補助するための女帝であれば可とする人たちは、⑥にも同意するし、多くの人は⑧にも同意するだろう。
 
 問題は、氏の女系継承容認論にある。要望の①がそれであり、⑦もそうである。女性天皇・女系継承容認、長子優先という基本的な要素が、有識者会議と一致している。根本のところに最大の問題がある。それゆえ、一見総合的に見える田中氏の提案は、男系継承については伝統の理解に混乱をもたらし、原則をよく踏まえない折衷的な発想を刺激するものと思う。

 田中氏の女系継承容認論の有識者会議のそれとの違いは、氏の論は、歴史研究や神話の理解に基づいていることである。ただし、歴史観や国家観を排除した有識者会議のメンバーが、歴史や神話をもとにした田中氏の援護を歓迎するかどうかは、疑わしい。左翼的な思想を持ったメンバーは、氏の主張が、男系継承堅持を唱える側に分裂を起こすのを期待しているかもしれない。

4.天照大神が女神だから女系も良い?

 田中氏は、女系継承容認の根拠を、「皇室の祖神、天照大神は女神」であるということに置いている。氏は神武天皇実在論で有名であるが、皇位継承の問題については神武天皇以来の万世一系という「歴史の事実」よりも、天照大神による「天壌無窮の神勅」が「より重要な原点」であるとする。そして、この神勅を「国体の原理」とし、「日本国体の原理も、皇室の祖神も、天照大神という“女神”にもとづいている」と強調する。
 そして、「歴史的には、皇祖神の天照大神が「吾が子孫の王たるべき地」と神勅されている通り、“天照大神を母系とする子孫”であれば、男でも女でも、皇位につながるお方が「即位」して、三種神器(ママ)をうけ継がれ、さらに大嘗祭を経て「皇位」につかれれば「天皇」なのである」とする。また「子供は父母から生まれるのであって、男系とか女系の差別より、父母で一家をなすというのが、日本古来の考えだから、それを母系(又は女系)といっても男系といっても、差し支えなく、問題とはならないのだ」と言う。
 田中氏は、血統のなかに男系・女系という区別をしないため、血統がつながっていればよいという論を主張しているのである。そして、その根拠を、皇祖神であり、神勅を授けた天照大神が女神であるということに置いている。

 確かにわが国では、天照大神を皇祖神と仰ぎ、天照大神の天孫ニニギノミコトへの神勅を天皇の統治権の根拠とし、天照大神が天孫ニニギノミコトに授けた「三種の神器」を皇位の象徴としてきた。それゆえ、女性神に対する信仰が、日本の国柄及び皇室制度の根幹にある。
 しかし、皇統は、神武天皇以来、男系継承で一貫してきたのであり、女系継承の例は一度もない。神武天皇も歴代天皇も、女神である天照大神を祀り、その霊威を受け継いできながら、天皇については男系で継承してきたのである。
 私たちは、皇統の歴史をもとに皇位継承のあり方を考えているのであって、初代天皇以前の歴史または神話・伝承は、皇位継承のあり方には直接関係がない。
 もし皇祖神が女性神であるから、男系でも女系でもよいとするならば、皇統は最初から男系・女系に関係なく継承されてきただろう。または男系を原則としつつも、何度かあった皇位継承の危機において、女系継承が行われていただろう。天照大神が女神であっても、皇位は男系で継承してきたという歴史的な事実は厳然として揺るがないのである。
 それゆえ、田中氏の天照大神に基づく女系継承容認論は不適切だ、と私は考える。女系継承の容認が先にあり、その理由付けに天照大神を持ち出しているに過ぎないと思う。

 次回は、天照大神について、さらに日本の神話の中で考えてみたいと思う。