ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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田中卓氏・女系継承容認論の迷妄6

2006-02-19 09:01:12 | 皇室
8.姓なき易姓革命を誘発する危険性

 田中氏の男系・女系の概念は、氏自身が混乱しているのではないかと書いた。具体的には、次のようである。
 「女帝(乙)の場合にはーー皇婿――この方が皇族(後述の旧皇族を含む)であっても――その間に生まれた御子は「女系の男子(A)」または「女系の女子」となる。‥‥‥「女系の男子(A)」であっても、後に即位せられて「天皇」となり、娶られた皇妃(皇族出身者以外を含む)との間に「男の御子(B)」が生まれて、そのお方(B)が皇位につかれると、この系統は母方にあたる女帝(乙)の血をうけておられるので、古来からの皇族の継承と見て、皇位は再び「男系」にかえると考えてもよい」

 ここにおける田中氏の理解は混乱していると思う。男系とは、一般に男子の系統、男の方の血筋をいう。女系とは、一般に女子の系統、女の方の血筋をいう。皇位継承者における男系とは、父方を通じて歴代天皇に連なる系統である。男系の男子・女子は、父→父→父とたどると必ず神武天皇にたどり着く。これに対し、女系とは、母方を通じて歴代天皇に連なる系統を意味する。皇室では過去に女系の天皇は例がない。

 過去の女帝は寡婦か独身であり、在位中に結婚した例はない。仮に新たな例として、女帝が皇婿を迎えた場合、その方が旧皇族の男系の男子であれば、その間に生まれた子は「男系の男子」である。傍系ではあっても、この子の父は、その父→そのまた父と、父から父へと男子の系統をさかのぼれば、歴代天皇につながる。だから、この子は「男系の男子」である。また、この子は、父が男系の男子、母も男系の女子という「男系の男子」なのである。
 ところが、仮に皇婿が一般の民間人である場合は、まったく系統が違う。その子は、母を通じて歴代天皇につながってはいても、父方は別の家系だからである。この子は「女系の男子」である。  
 田中氏は、この明確に違う二つの事例を区別していない。それゆえ、私は、田中氏は、男系・女系の理解が混乱しているのだと思うのである。

 また、氏は、主張の後半で、「女系の男子」が即位し、皇族以外から皇妃を娶られ、そこ生まれた男子が皇位につけば「母方にあたる女帝」の血をうけているから、皇統は「男系にかえる」という。この論は、その混乱の表れだと思う。
 たとえば、愛子様が独身で女性天皇となられ、民間人の佐藤氏とご結婚され、男子が誕生されたとする。この「女系の男子」が次の天皇となったならば、これは女系継承となる。しかし、田中氏は、その女系の男性天皇が、民間人女子とご結婚され、そこに生まれた男子が次の天皇になれば、それは「男系にかえる」ことなのだという。これは、おかしい。
 その男子は、父は天皇ではあるが、祖父は民間人であり、曽祖父・高祖父等とさかのぼっても、歴代天皇にはつながらない。これを「女系の天皇」というのである。そして、厳密に言えば、佐藤氏と愛子様の子である「女系の男子」が天皇となった時点で、従来の皇室とは異なる家系に、皇位が移ったと見なしうる。だから、皇室の伝統を尊重する日本人は、女系継承に反対するのである。
 田中氏が「男系にかえる」という時の「男系」とは、歴代天皇とは異なる新たな男系であり、実質的に佐藤家に王朝が交代したと考えられるのである。皇室にはもともと姓がない。佐藤氏は皇婿となった時点で、佐藤という姓を失う。しかし、姓はなくなっても、佐藤氏を父とする子が皇位を継いだならば、これは佐藤王朝に移行したのと、同じ意味を持つのである。

 田中氏は、女系継承に反対する者が、何をもって女系とし、何をもって女系継承としているかを把握していない。それは、この当代有数の歴史学者が、皇位継承の歴史そのものを正しく理解していないためではないか。それとも、わかったうえで、国民を欺くために、敢えて異説を流布しているのか。
 なぜわが国の皇室は、皇統の危機において、田中氏が容認するような女系継承をしてこなかったのか。直系の男子に適当な候補者がいなければ、直系の女子ではなく、傍系の男子に候補者を求め、8親等、10親等の遠縁であっても、由緒のしっかりしている男系の男子で、また適性のある方を天皇に迎えたのである。

 田中氏の理論を、藤原不比等や平清盛、足利尊氏らに教えたならば、そんな考えがあったのかと、彼らはやすやすと皇位を手に入れただろう。まず女帝を立て、自分の息子をその婿とし、生まれた孫を天皇にすれば、よいからである。その天皇にさらに一族の娘を嫁がせる。表面は姓のない皇室が続いている。しかし、実質は別の王朝に移行している。そして、皇室の権威をわがものとした権力者は、わが国の歴史上見られなかったほどの絶大なる権力を掌中にしたに違いない。
 田中氏の理論は、皇位簒奪を正当化する「姓なき易姓革命」の理論とさえなっているのである。

 田中氏は、女系継承の容認に心が傾くあまり、迷妄に陥っている。私はそう言わざるを得ない。