ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

田中卓氏・女系継承容認論の迷妄9

2006-02-22 12:30:23 | 皇室
 有識者会議の残りのメンバーについて述べる。

 佐々木毅氏は、東大の元総長・名誉教授で、政治学、西洋政治思想史が専攻。マキャベリに始まり、ジャン・ボダン、プラトン等の政治思想を研究。現代アメリカの政治思想やわが国の政治を論じる。なまなましい政治の研究家であって、政治を超越した皇室制度についての学識には疑問を覚える。
 岩男壽美子氏は、男女共同参画審議会の会長をしたフェミニストである。皇室問題に男女平等を主張した可能性が高いと思われる。吉川座長は、フェミニズムの本を出しているから、岩尾氏の意見と親和するだろう。
 緒方貞子氏は、国際協力機構理事長、婦人問題企画推進会議委員、国連人権委員会政府代表等を歴任した。わが国が世界に誇りうる人物と評価されているが、ファッショ的な悪法と反対の多い人権擁護法案の推進者である。
 佐藤幸治氏は、憲法学の権威だが、日本国憲法は「革命憲法」であるとし、「個人の尊厳」を重視する解釈を説く。また、「真に日本国憲法の原理に基づいた新しい国家社会をつくり、この国の形を変えないといけない」という意見を表している。園部氏の皇室法理論を、憲法学の立場から補強した可能性がある。
 奥田碩氏は、日本経済団体連合会会長である。実業界からもメンバーに入るのは良いことだが、奥田氏は、小泉首相に靖国神社への参拝を取りやめるよう進言している。中国とのビジネスにマイナスになるからである。日本人の誇りや国益よりも、経済的利益を優先する考え方を表している。
 最後の一人、久保正彰氏は、東大名誉教授で、古代ギリシア・ローマ文学の専門家である。古代ギリシア・ローマ文学は、わが国の皇室の問題を検討するのに、何の関係があるのだろうか。古代国文学の研究家ならわからぬでもないが。

 前回触れた吉川氏・笹山氏・園部氏・古川氏を含め、以上10名が有識者会議のメンバーである。
 田中氏は、この人選を「国民全体を代表する規準で、各分野の重鎮を選考した人事である」と言うのだが、そうは思えない。共産主義・社会主義・フェミニズムの思想を持つか、それに同調する人間が多くを占めていることは、驚きであろう。
 私は、現行の皇室典範に定める男系男子や男系継承の維持を主張する学者・専門家が含まれていないことに、異常を感じる。有識者会議の人選は、注意深く、女帝・女系容認の人間またはそれに反対しないようなタイプの人間を集めたとしか、私には思われない。

 ところが、田中氏は、次のように言う。「メンバーにレフトの思想家が交じっていると問題にするむきもあるが、仮にそうであるとしても、国民全体を代表する規準で、各分野の重鎮を選考した人事であるから、左右の立場を含めた「有識者会議」であっても当然であって、別に非難には値しない。むしろそれらの人々が自ら左右の立場をこえて、満場一致でまとめられている「報告書」にこそ、重要な意義があると言えよう」と。
 田中氏の迷妄は、ますます深い。「国民全体を代表」と言いうるのは、唯一国民規模で選挙を行った場合のみである。氏は近年、各種の審議会の人選が大きな弊害を生んでいることを知らないのではないか。メンバーが「自ら左右の立場をこえて、満場一致でまとめられている」と田中氏は賞賛するが、吉川氏、園部氏らは、左の立場をこえてではなく、左の立場を貫いて、「満場一致」を作り上げたと見るべきだろう。
 昨年秋、有識者会議の報告書が発表された後、皇室典範の拙速な改正に反対し、慎重な審議を求める声が高まった。インターネットの世界では、急速に問題点が知られた。反対意見・慎重意見は、すごい速度で国民の間に広がっている。国会議員で、拙速な改正に反対する署名をした議員が、183名(2月10日現在)にものぼっている。
 田中氏は、一部の官僚・政治家・学者が準備したシナリオに、安易に賛同しているとしか思えない。

 戦前は、軍部に迎合し、戦争遂行政策に積極的に協力した学者がいた。彼らは、国政の実態を知らぬまま国策に協力した。それがお国のためと思っていた。しかし、実際は、軍部は天皇のご意思を体してはいなかった。それどころか、天皇の御心に背き、天皇の権威を利用して専横を行っていた。
 当時と現在では、状況も内容も異なるが、上記のような戦前の学者と似たような精神構造を田中氏に感じるのは、私の思い過ごしであろうか。