*別役実作 内藤裕子演出 公式サイトはこちら 吉祥寺シアター 22日終了
本作はもともと77年に放送された「ステレオドラマ」であった由。中村伸郎と長岡輝子の共演である。ネットで検索するとこちらのサイトで視聴できる!演劇集団円では83年、ステージ円(このときは新宿・成子坂)の公演が最初である。自分は90年だったろうか、梅の季節、渋谷ジャンジャンで中村伸郎と平木久子の共演の舞台を観た記憶がある(ジャンジャンプロデュース?)。とても懐かしい作品だ。今回は気鋭の内藤裕子の演出で、橋爪功と福井裕子が共演する。2020年に予定されていた公演がすべて延期または中止となったが、さまざまな試案を重ねて、劇団の「アーカイブ」、活動再開のための「トライアル」として本作のリーディング公演が実現した。吉祥寺シアターの客席は半数に減らされている。観客は1階で受付を済ませると外階段から上階へ行き、ここで検温をして劇場へ入ることになる。座席は一つ置きながら「満席」、追加公演も決まる盛況だ。舞台には社会的距離を取って2脚の椅子、台本を設置するためであろうか、譜面台と小さなテーブルが置かれている。場内は静寂が保たれているが、これから始まろうとする舞台への期待や数か月ぶりの観劇の喜びであろうか、観客半数とは思えないほどの「ぎっしり感」というのか、温かな空気があり、観劇前の高揚感とは、賑々しさだけではなく、客席の観客一人ひとりが内在する熱さの、抑えようのない表出が形成するものと知った。
本作はもともと77年に放送された「ステレオドラマ」であった由。中村伸郎と長岡輝子の共演である。ネットで検索するとこちらのサイトで視聴できる!演劇集団円では83年、ステージ円(このときは新宿・成子坂)の公演が最初である。自分は90年だったろうか、梅の季節、渋谷ジャンジャンで中村伸郎と平木久子の共演の舞台を観た記憶がある(ジャンジャンプロデュース?)。とても懐かしい作品だ。今回は気鋭の内藤裕子の演出で、橋爪功と福井裕子が共演する。2020年に予定されていた公演がすべて延期または中止となったが、さまざまな試案を重ねて、劇団の「アーカイブ」、活動再開のための「トライアル」として本作のリーディング公演が実現した。吉祥寺シアターの客席は半数に減らされている。観客は1階で受付を済ませると外階段から上階へ行き、ここで検温をして劇場へ入ることになる。座席は一つ置きながら「満席」、追加公演も決まる盛況だ。舞台には社会的距離を取って2脚の椅子、台本を設置するためであろうか、譜面台と小さなテーブルが置かれている。場内は静寂が保たれているが、これから始まろうとする舞台への期待や数か月ぶりの観劇の喜びであろうか、観客半数とは思えないほどの「ぎっしり感」というのか、温かな空気があり、観劇前の高揚感とは、賑々しさだけではなく、客席の観客一人ひとりが内在する熱さの、抑えようのない表出が形成するものと知った。
ある夕暮れの茶の間、老夫婦が食事をする。トイレットペーパーが切れていた、筍が柔らかくておいしい、ご飯の水加減に失敗した云々のやりとりを縦軸に、甥のこと、その友だちの父親が亡くなったこと、夫が課長になれなかった日の思い出を横軸に進行する。戯曲を読むと(三一書房刊 別役実戯曲集『天才バカボンのパパなのだ』所収)15分程度でさっと読めてしまうのだが、今回のリーディングは50分強、77年のステレオドラマには前後にやや聞き取りにくい謎の語りがあるものの、それでも40分を超える。
込み入った会話や時空間が交錯したりなどの複雑な展開はしないので、黙読ならばさらっと読める。俳優が自分の演じる人物の言葉として発し、自分の呼吸はもちろん、相手との間合いを考えながらの演技する場合、黙読のときにはなかった時間が生まれるのだろう。劇中、妻は茶の間と台所を何度か行き来する。今回妻役の福井裕子はステージから出ることはなく、椅子から腰を軽く上げ下げする動作でそれを表現した。それでも「食事をしながらの会話」には、思いのほか間合いが生じることがわかる。
夫婦に子どもはいない。夫も係長どまりだったようである。静かで倹しい暮しぶりだ。「私達、しあわせでした…」「私達は、本当はしあわせだったのかもしれないなあ」と自らに言い聞かせ、互いに確認し合う終幕は温かいが、同時に寂寥感もある。「しあわせだった」と過去形であるのはなぜか。もしかすると、この夫婦はすでに現実ではない、別の世界に居るようにも思える。
ごましおがいくつもあったり、ご飯を何杯食べたかわからなくなったり、夫婦の会話は微苦笑を誘う。互いになかなか辛辣ではあるが、決して相手を貶めたりしない。上質で上品な笑いである。そのうち、この夫婦はどこにいるのか、それを観ている自分はどこに連れていかれるのかという浮遊感、終演後おもてに出たときの現実とのちょっとした違和感など、渋谷ジャンジャンの印象を懐かしく思い出しながらも、それとは微妙に違う色合いの、不思議な感覚を得た。
中村伸郎の記憶はそのままに、上書きということではなく、橋爪功と福井裕子のステージが新たな『虫たちの日』として自分の演劇歴に加わったことに安堵し、嬉しく思う。演劇集団円のトライアル公演は、自分にとってもささやかな「トライアル」だったのである。
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