因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

らまのだ旗揚げ公演『青いプロペラ』

2015-11-22 | 舞台

*南出謙吾作 森田あや演出 公式サイトはこちら 渋谷EDGE 23日で終了
 大阪で劇団りゃんめんにゅーろんの主宰をつとめた劇作家南出謙吾が2013年上京、演出家森田あやとともに劇団らまのだを旗揚げした。当日リーフレット掲載のプロフィールには、「近年、数々の戯曲賞の最終候補にノミネートされては惨敗を続ける南出戯曲に、ひと花咲かせようと森田あやが立ち上がり誕生」とある。この心優しい劇作家の温かな作品を、多くの観客に知ってほしいという切なる願いであろう。戯曲は多くの人が関わってはじめて世に出る。作品が魅力的であることはもちろんだが、それに共感し、あとおしする人の存在が不可欠だ。
 二つ折良質のカラー印刷の立派なチラシには、先輩劇作家たちからのエールがびっしりと掲載されている。6月に行われた「月いちリーディング」で、本作は非常に高い評価を得たようだ。さらに日本劇作家協会の第21回劇作家協会新人戯曲賞最終候補作品に選ばれており(協会サイトには旧題の『ずぶ濡れのハト』にて掲載)、12月13日にはほかの候補作とともにプレヴューリーディングののち、公開審査会が行われる。
 10月に公演にさきがけてリーディングライヴが催されたり、キャスト一行で作品の舞台である石川県へツアーを行ったりなど、旗揚げ公演に対する作り手の意気込みや、見守る方々の期待が伝わってくる。その結果、前売は完売、増席のため当日券も出ない大盛況となって、みごとに実を結んだ。自分の観劇日も、桟敷席客に「もう少しずつお詰めください」とスタッフが頭を下げておられる。東京進出の旗揚げ公演でこれだけの集客が実現するのはすばらしいことだ。

 南出の故郷石川県のとある町のスーパーの従業員控室を舞台に、全編石川弁の作品である。劇中の音楽は、スチールパンバンドの生演奏だ。

 当日リーフレットの南出謙吾の挨拶文には、石川県の「加賀温泉駅」から路線バスで20分にある故郷の温泉街について記されている。自然は豊かであっても「絶景とまで言えず」(→つまり観光名所にはなれない)、中途半端に開発され、活気があるとは言えない町の様子が簡潔だが非常に適切で、客観的な表現であっても決して無関心ではなく、冷たくはない筆致で記されている。このような表現はなかなかできるものではないだろう。故郷への思いは人それぞれであろうが、そう単純に「ふるさと大好き」と言えるものではない。自分も地方出身であるから、そのあたりの複雑で微妙な心持ちを、少しは理解できる。

 しかしながら、目の前の舞台は劇作家の思いをじゅうぶんに描いていたかというと、何とも言えないというのが正直な印象である。方言の芝居はむずかしい。大阪弁ほどメジャー?であればさほど違和感なく受けとめられるが、そうでない場合、地方が舞台になっていること、全編その土地のことばで上演されることの意味を、作り手の意図以上に観客は考えようとしてしまうのだ。大変テンションの高い演技をする人物に対して、「なぜ最初からここまで大声で話すのか」というところでつまづき、彼(または彼女)の心情についていけなかったり、逆に台詞が小声で聞きとりにくい場面もあった。劇作家が自分の故郷のことを舞台にしたいと強く願った気持ちを、あと一歩、確かに感じとることができなかったのは残念である。

 リーフレット掲載の挨拶文を何度も読みかえし、これほど簡潔で適切、それでいて詩情のこもった文章を書く劇作家の戯曲、とくにト書きはどのようなものなのかを知りたくなった。6月の月いちリーディング、10月のリーディングライヴに足を運ばなかったことが悔やまれてならない。もし戯曲を先に知っていたなら、おそらく今日の観劇の印象も変わっていたのではないか・・・と思いながら、こうも考えた。

 ト書きを読めば劇作家の意図も理解でき、舞台のことをもっと楽しめる可能性は確かにある。会話に加えて地の文で、作者の言わんとすることをつまびらかにできる小説とちがい、戯曲のト書きとは、本来観客の目に触れることのないものだ。したがって観客は、今目の前で行われていることが、その作品のすべてではなく、すべてを理解することは非常に困難であることを謙虚に自覚する必要がある。その上でなお、舞台をしっかりと受けとめて、見えない部分、聞こえてこないものを想像する柔軟性を持とうと思う。

 らまのだは、東京での第一歩を力強く踏み出した。そして客席の自分のらまのだへの歩みも第一歩だ。つぎの一歩のための日々がはじまったと心得たい。

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