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因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

ひかりの日ノ出vol.1『田紳有楽』口説 『志太の幽霊』

2007-06-30 | 舞台
 今年4月、急な坂スタジオの4人めのレジデントアーティストに就任した仲田恭子の演出による2本立て公演。公式サイトはこちら 7月1日まで STスポット

 1本めの『田紳遊楽』口説(でんしんゆうらく くどき)は、静岡県藤枝市出身の藤枝静男の小説を土肥ぐにゃりが構成し、仲田が演出した。土肥自身が出演し、工藤wabi良平の琵琶演奏がつく。仲田も語り部と音曲?を兼ねた役割で出演。土肥の実に奇妙な語り口から始まり、内容もほとんどわからないまま終わってしまった。ちょっとこれは大変なところに来てしまったのでは・・・。

 2本めの『志太の幽霊』の原作は、山東京伝の『孔子縞干時藍染』。老中松平定信による倹約令、儒教道徳が浸透するあまり、世の中の価値観があべこべになる様子を描いた風刺劇だ。冒頭、顔だけ白塗りにした和服の男女(佐東諒一、わかばやしめぐみ)が登場する。女のあとを男が付け狙う。ふたりは少しぎくしゃくした踊りのような奇妙な動きで、白塗りの表情からは心の中が読めない。男が女を襲い、あわや・・・と思ったら、何と男は自分の着物を脱いで女にどんどん着せていき、「もらってくれ」と立ち去る。「追い剥ぎ」ならぬ「追い剥がれ」なのである。この調子で無料そばの屋台、貧乏之助という名の役者などが続き、遂には「この世に生きていることがもったいない」と幽霊になってしまうというお話である。

 1本めが終わったときはまさに「ドン引き」状態だったのだが、その固い気持ちが徐々にほぐれて前のめりになっていた。山東京伝は為政者に正面から闘いを挑むのではない、しかし茶化したりおちょくったりする中に、表現する人間の誇りと気概が巧妙狡猾に込められていることが伝わってくる。出演俳優の様子は旅回りの一座風で、はじめはちょっと怖かったのだが、次第に親しみすら感じられてきて、物語が終わったときの劇場は温かく柔らかい空間に変化していた。

 劇場を出て横浜駅に向かいながら、気づくとさっきの男女が歌っていた「あんたがたどこさ」を小さく歌いながら歩いている。おいおい、これはアブナいぞ。二人は「もったいないから」と歌詞や動作を省略しながら、実に楽しそうに歌っていた。あの様子がしばらくは忘れられそうもない。明日の千秋楽も2回公演あり。

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