因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

演劇ユニットてがみ座第9回公演『地を渡る舟-1945/アチック・ミューゼアムと記述者たち-』

2013-11-22 | 舞台

*長田育恵作 扇田拓也演出 公式サイトはこちら 東京芸術劇場シアターウェスト 24日で終了 (1,2,3,4,5

 申し分ない作品とは、こういう舞台のことを指すのではないだろうか。
 題材にした人が生まれた土地を訪ねて熱心に取材をし、その場所の空気に触れて人々の声に耳をかたむけ、台詞のひとつひとつ精魂込めて書かれた戯曲である。演出も劇作家の熱意を受けてその意図を的確に立体化し、かつ大胆な色づけをした。舞台美術、音響、照明はじめすべてのスタッフが心を合わせ、そこに立つ俳優、彼らが演じる人物を大切に迎え入れる、てがみ座のステージにはそんなたくさんの心が感じられる。
 「どうかこの舞台で、精一杯生きてくださいね」そんな声が聞こえてくるかのようだ。
 てがみ座所属の劇団員はもちろん、客演陣もまたその心意気をしかと受けとめ、渾身の演技をみせる。まごころ、誠意がびっしりとつまった舞台が見る人の心を打たないわけはなく、開幕するや、『空のハモニカ』初演、再演を上まわる称賛の声がネットにあふれた。

 それにとまどう自分に困惑する。それが正直な気持ちである。困ったなあ。
 ほんとうに素敵な舞台だった。このつぎは家族や友人も誘いたい。きっと喜んでもらえる。

 自分がしっくりこないのは、てがみ座に対する文句なし、手ばなしに近い異口同音の称賛、絶賛である。井上ひさし直伝の堅固に構築された戯曲、的確で大胆な演出、それに応える俳優陣の健闘、どれをとってもこの秋の演劇シーズン屈指の出来栄えだ。
 たとえば本多劇場や紀伊國屋ホールで公演をすることも夢ではない。劇場の大きさに耐えうる力をもった作品だ。またさまざまな戯曲賞や演劇賞にもまちがいなくノミネートされるであろうし、たとえば新国立劇場の劇作家シリーズや、新しくオープンする劇場での杮落とし公演などのオファーもあるのではないか。久々に本格派の劇作家の登場だ。喜ばしいことではないか。

 たくさんの人に受け入れられる作風、いい舞台をみた!という確かな手ごたえを与えてくれるのは、劇作家、劇団主宰者としてのたゆまぬ努力精進があることは言うまでもなく、さらに長田さんご本人の、上品な育ちの良さが大きいのではなかろうか。
 毒や針、刺のたぐいがまったく感じられない。その何が悪いのか。みたくもないのに作り手の恥部をさらけ出し、みせたくもないこちらの心の暗部まで乱暴に探られるようなえげつない舞台がいくらでもあふれるなか、てがみ座の清涼感、好感度には真実心が洗われる。
 ほんとうに申し分ない。親きょうだいも小学校のときの先生にも胸を張ってみせられる、多くの人が安心してみに来られる舞台なのである。まったく何の問題もないではないか。

 反射的に真逆の作風、たとえば名嘉友美のシンクロ少女(1,2,3,4,5,6,7)や月刊「根本宗子」(1,2)、山田佳奈の劇団ロ字ック(1,2,3)が気になりはじめる。彼女たちの作品は徹底して自分自身の心に向かう。あくまでも自分あっての他者であり、歴史上の人物を現代によみがえらせ、みる人の心に新たに生かす・・・などというスケール感はまったくない。
 ほかに描きたいことはないのか、もう少し目の向けどころを変えてみてはと思うことはたしかにあり、何より「親御さんが見たら何と思われるか」と余計な心配をしてひやひやする。
 でも最後にはやりたいことをやるのがいちばんだ、その意気で行け!と応援したくなるのである。このような気持ちはてがみ座の舞台にはもてない。もつ必要はない、もうじゅうぶんにあふれるような称賛を得ておられるのだから。

 ここまでくると問題はてがみ座の舞台そのものではなく、このひねくれた自分自身の心であることは明白で、長田さんはじめ、関係者の方々にはほんとうに申しわけない。こんなところにこんなことを書かれてしまって。

 夏の『空のハモニカ』再演観劇した際、てがみ座の舞台に対する違和感について課題を残す記事を書いた。今回もその答が出ているとはとうてい言えず、いよいよ煮え切らず情けないかぎりである。具体的にどういう点がどのように・・・ということを考え、記さねばならないのに。
 『地を渡る舟』。力作であり、多くの観客の心に響く舞台であった。それはまちがいない。公演期間が短かったのは残念だ。何とか土日を2度はさんだ日程で、ひとりでも多くの方が訪れてほしいと願うものである。

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