因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

パラドックス定数 第28項『HIDE AND SEEK』

2012-04-15 | 舞台

*野木萌葱作・演出 公式サイトはこちら 三鷹市芸術文化センター星のホール 22日まで(1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14)
 昭和初期、東京の下町で江戸川乱歩(西原誠吾)、夢野久作(植村宏司)、横溝正史(今里真)と、自分たちの書いた小説世界の人物たちとの奇妙な交流のなかにものを書く人間の業があぶりだされる作品だ。ザムザ阿佐ヶ谷で4年前に初演された舞台はみていない。
 星のホールはいかようにも使える自在な空間で、『五人の執事』『元気で行こう絶望するな、では失敬。』において、高い天井、袖や奥行きの広さ、迫り(せり)も駆使して縦横無尽に劇空間を構築する野木萌葱の達者な手さばきが思い出される。しかし狭い空間での濃密な空気を好む自分としては、「こういう使い方があったのか」という驚きや「今度はどう使うのか」という期待はあっても、もっとも見たいのは空間作りの創意工夫の手腕ではなく、「どんな劇世界を示そうとしているのか」ということなのだ。

 これまでみたパラ定のなかでは、ハード面においてもっとも目を引く作りであった。基本的な作りは舞台と客席が普通に向き合う形だが、舞台の緞帳やドアをおもしろく使って舞台奥の空間に不思議な雰囲気を醸し出すことに成功しているだけでなく、迫り(せり)は技術士さんの声まで登場させてまさに使い放題(笑)、最後には両袖をみせて虚構をさらすかのように、さまざまに腕を奮っている。また状況をぎりぎりと追い詰めてゆくようなパラ定にはめずらしいのではないか、『犬神家の一族』のパロディなど、笑いをとるシーンが多かったのも特徴のひとつだ。

 3人の文士たちにそれぞれの小説の登場人物が絡む(例:江戸川乱歩の書斎に、明智小五郎と小林少年がやってくる)という構造がわかった時点で、自分としては劇世界の展開に身を乗り出したのだが、虚実の人物が錯綜する場面の連続といった印象で、2時間を超える舞台は集中がむずかしいものとなった。名前をもたず、「編集者」とだけ称される男(小野ゆたか)は非常におもしろい造形をみせていたが、存在がいまひとつはっきりつかめなかったことや、初日からまもないせいか、ぜんたいとしてあまり余裕がなかったように見受けられる。
 観客も食いつかんばかりに集中している方と、どうやっても振り払えない眠気と闘う方が共存しており、どちらかと言えば後者だった自分には居心地の悪い客席であった。

 次回公演は『東京裁判』の再々演だそう。これは自分がもっとも好きな演目であり、いまから楽しみなのだが、この劇団は劇作家はこうなのだという決めつけや思い込みに走らないよう、野木萌葱と男優たちのおりなす劇世界を、もっと柔軟に味わいたい。

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