因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

クリニック・シアター2012 ザ・ピンター・ツアー2『Black&White』

2012-03-20 | 舞台

*ハロルド・ピンター作『レヴューのためのスケッチ』より、『インタヴュー』、『そこがいけない』、『ブラック・アンド・ホワイト』 山登敬之構成・演出 都内某所のクリニック 25日まで
 このシリーズは2010年の晩秋にはじまり(1,1')、今回が2回めとなった。旗揚げから続けて出演の松尾伸彌、志満しまこ、山登敬之に、今回は新しく川上智帆、大江雄一、犬蔵犬子が加わった。観客は5~6名の無料公演。クリニックの待合室→奥の院長室→となりの談話室と俳優とともに移動するツアー形式、ひとつの作品を違うバージョンで上演する構成は前回と同じである。
 初日直前の稽古で松尾伸彌が怪我のため休演し、山登、大江氏が代役をつとめることになった。出演俳優が観客の誘導、照明や音響スタッフも兼ねているため、ひとりが欠けるとすべての段取りが変わることになる。3月はじめに稽古場を見学させていただいて、松尾氏の出演を楽しみにしていた者としては非常に残念でもあり、当日の進行が心配でもあったのだが、みごとに対応されてピンター・ツアーは滞りなく進んだ。

 もっとも興味深かったのは、3本めの『ブラック・アンド・ホワイト』である。この作品は、ピンターが描いた同じ題名の散文の短編をもとになっている。ある老婆がほとんど毎晩のように終夜バスにのり、ブラック・アンド・ホワイトという明け方まで営業している軽食堂に入る。彼女はそこで友だちとよく一緒になる。深夜から朝にかけて、老婆がつぶやく店の風景の点描とでも言おうか。老婆はホームレスに近い境遇で、過去には売春をしていたらしいことも匂わせる。しかしべたついた情緒はなく淡々として、それだけに滑稽で、寒々とした寂寥感も。

 さて今回のクリニックシアター版『ブラック・アンド・ホワイト』は待合室で上演された。観客は奥の談話室から狭い通路を通してそれをみるのである。劇世界は遠く小さいのに、ふたりの老婆の他愛のない会話を偶然聞いているかのような臨場感とともに、観客のいるところと劇世界の時空間が近いような遠いような、不思議な感覚に襲われた。古民家やカフェなど、ほんらい劇場でないところで演劇をみるのはこれがはじめてではないが、多くの場合小さな空間で演技エリアと客席の境目が混在することや、文字通り互いの息づかいや体温までもが感じられる密接な状況を味わうのが常である。
 それを、小さな空間を敢えて観客から遠く引き離したのだ。ふたりの老婆をまるで遠景のように眺めるのである。こういう見せ方があるとは想像していなかった。
 結果として、前述のような不可思議な遠近感が生まれた。とくに老婆たちがこちらをみつめて静止し、のんびりとした音楽が流れてきたとき、あたかも客席の自分たちが彼女たちの風景になったかのような錯覚を覚えたのであった。

 「あなたの職場に演劇を!あなたの仲間と演劇を!あなたの老後に演劇を!」
 クリニックシアターの提言は、今回も当日リーフレットに記されている。
 プロ、アマチュアの垣根なく、商業的なものとは違うスタンスの試みである。演劇の可能性がいろいろなところにあることに気づかせ、戯曲の違う顔を知ることができるクリニックシアターの存在は貴重である。
 この試み(企みでもある)をどう広め、深めていくのか。次回はその点に注目したい。

コメント   この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 文学座3.4月アトリエの会『父... | トップ | wonderlandクロスレヴュー挑... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

舞台」カテゴリの最新記事