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因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

劇団掘出者第4回公演『チカクニイテトオク』

2008-03-08 | 舞台
*田川啓介作・演出 公式サイトはこちら サンモールスタジオ 公演は10日月曜まで

 いまではすっかり通い慣れた新宿御苑の町、渋谷や新宿の喧騒から離れた場所は行きも帰りも静かで心地よい。劇団掘出者の公演に行くのは今回が初めてである。
☆公演はあさって月曜まであります。これからご覧になる方はご注意くださいませ☆

 開場前、舞台には白い布が掛かっており、女性ともうひとりスーツの男性がいる。いずれも客席案内のスタッフかと思っていたが、開演直前になってこの男性が登場人物であり、お芝居が始まるか始まらないか微妙なところで演技をしているようなまだしていないような居心地の悪い様子であることに気づく。これからどんなことが始まるのか。

 誰かの葬儀のあとらしい。参列者がひとりふたりと出て来て「これからどうするか」などという会話をする。亡くなった人は実業家なのか、大層偉い人だったらしい。故人と人々がどういう関わりを持っていたかはわかるようでわからない。幼少期に別れたらしい息子、二回りも若い妻とその娘、娘の友人や元カレのような人、故人の部下らしき人たちが、故人に対するそれぞれの距離を探りあいながら会話が進む。そして暗転のあと、白い布が取り払われたところに現れたのは、瀟酒なマンションの一室である。故人が平日に使っていたらしい。そこには故人の秘書がいて、言葉の通じない女性を追い出そうとしている。やがて故人が在日韓国人であり、かつて韓国人妻と息子がいたこと、民族の誇り高く、ある活動をしていたことなどがわかってくる。予想もつかなかった重い題材に、だんだん背筋が伸びてくる。この話はただごとでない。

 登場人物の幾人かは、台詞を言うとき少々妙な動きをする。両手を合わせて揉み込むような仕草をしたり、からだを不安定に揺らしたり。や、これはもしかしてチェルフィッチュを意識したものか?しかし彼らの会話は決してだらだらした脱力系ではなく、言葉が通じないこと、互いの立場(故人との距離)が違うことに苛立ちつつ、それでも何とか自分の気持ちを伝えようとしていることがわかる。本名の韓国人名を名乗ろうとするもの、民族への誇りは人一倍強くても韓国語がほとんど話せないもの、日本人女性との結婚のために帰化したもの、逆に韓国人の血をひく女性との結婚を反対されたもの…と姿を見せない故人の周囲に、これだけの人生の葛藤が生まれていたのだ。互いを理解し、深まった溝を埋めることは難しい。最後の最後、故人の年若い妻が娘と二人の場面で漏らす言葉に胸が締めつけられる思い。

 「掘出者」という劇団名は、自らを「掘出し者ですよ」というアピールもあるだろうが、「掘り出してください」という強い願いのようにも感じられる。ごく普通の会話が(内容は相当特殊で重たいが)日常会話とあまり変らないテンションでかわされる。全員の演技のバランスがよく、戯曲の書き込みが深いこと、稽古がしっかり入っていることが感られる。まじめな頑張り屋の劇団に出会えた。まさに掘り出しものであった。「掘出者」にはもうひとつ、観客の心の中にあるもの、自分では気づかない感覚を「掘り出す」ことを求める気持ちもあるように思える。今夜自分の心から掘り出されたもの、それをもっときちんと考えたい。

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