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因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

ニットキャップシアター第22回公演『お彼岸の魚』

2007-04-04 | 舞台
*ごまのはえ作・演出 下北沢駅前劇場 公式サイトはこちら 東京公演は2日で終了
 劇団初見。今回は初の四都市ツアー公演。昨年12月に大阪で開幕し、東京のあと愛知、福岡と続く。

 母が失踪したとの知らせで十年ぶりに実家に帰った早良美智子(長沼久美子/劇団八時半)は、母の恋人だという初老の男性鰺坂さん(中嶋康喜)とその息子夫婦、幼なじみたちとともに母からの連絡を待つ。古い団地の一室で繰り広げられる物語は一見ベタな日常会話劇と思わせて、まったく予想のつかない展開を見せる。母の名前は「美和子」なのに、恋人は「美智子さんが」と言う。当の美智子はそれに気づいて変だと指摘するが、事情聴取の警察(「警官」という役名ではないのはなんでだろ?主宰のごまのはえが演じる)も、幼なじみたちもまるで意に介さない。この名前の言い間違いに始まって、美智子の父親やきょうだい、引きこもりの同級生、団地の家出少女など、美智子の記憶にない人々の話が次々に出てくる。美智子の眼球は歪み、混乱していく。終幕、「関係のない人」たちまでもが大勢登場し、舞台は混乱の極み、美智子がマイクをもって歌いだしたところでもうついていけず、笑うこともできず。しばし茫然。

 観劇体験そのものを堪能したとは言えず、不完全燃焼の気分になる。が、気を取り直して物販で戯曲を購入。しっかりした装丁の立派な戯曲本だ。1回めの読みは、舞台の記憶をたどることで終わった。本作の原点というコント二本も掲載されている。夜中にほとんど寝ぼけまなこで読み始めたらこれがおもしろく、目が覚めてしまった。名前や性格や背景をもたない登場人物たちが、ごく普通に日常会話をかわすうちに、いつのまにかだんだん空気が怖くなってくる。この役にこの俳優という「あて読み」をする暇もなく、戯曲の中に引き込まれてしまうのだ。別役実の戯曲を読むときの感覚を思い出した。この薄い本のページの余白にまで何かが見えてくるかのような感覚だ。

 この感覚をベースに、もう一度『お彼岸の魚』本編を読み直そう。劇場での観劇体験をより深く、味わい直すことができますように。

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