因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

シアタートラム 韓国現代戯曲ドラマリーディングvol.6

2013-02-20 | 舞台

 日韓交流センターが2012年度事業として2月20日より24日まで、シアタートラムにおいて韓国現代戯曲ドラマリーディングvol.6を行う。座席におかれているパンフレットは内容ぎっしりの大変りっぱなもので、関係者の方々の熱意が伝わってくる。
 若手韓国人劇作家による戯曲3本を、これもまた注目の演出家がリーディングで紹介する。
①キム・ミンジョン作 宋美幸翻訳 鈴木アツト演出『海霧』 
②ペ・サムシク作 木村典子翻訳 明神慈演出『白い桜桃』
③ソン・ギウン作 浮島わたる翻訳 広田淳一演出『朝鮮掲示ホン・ユンシク』
 それぞれ2回ずつ上演され、1回めの上演のあとはアフタートークがある由。最終日の17時からシンポジウム「日韓演劇交流の現在」も行われる。

 初日の今日、劇団印象主宰の鈴木アツト演出による『海霧』(うみぎり)を観劇した。鈴木の演出した舞台の記事はこちら→(1,2,3,4 5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15)ここ数年、韓国の小劇場界と熱心に交流しながら意欲的な創作をおこなっている鈴木アツトだが、自作ではなく、しかもこれほど重苦しい作品の演出をするのはめずらしいことなのでは?

 たび重なるサヨリの不漁で追いつめられた前進丸は、意を決して朝鮮族の密航を請け負った。船長と乗組員たちは衝突を繰り返しながら台風や海上警察をやりすごし、航海をつづける。密航者と心を交わらせる者もいるなか、海に濃い霧(海霧)が発生した。 

 ステージにはややゆるい半円を描く形に椅子が置かれている。下手にト書きを語る俳優がつく。男たちが船に乗り込み、いきおいよく出航する冒頭場面の迫力はリーディングという形式をしばし忘れさせるほどだ。俳優は手に台本をもっているものの、そこに目を落として読まずに、ほとんどが顔をあげて台詞を話す。本式の上演なら相手役の顔をみて台詞のタイミングなどが決められるが、基本的にずっと客席を向いたままのリーディングではかえってむずかしい面もあるだろう。しかしそうとうしっかりと稽古をなさったのではなかろうか、不自然なところやぎくしゃくしたところはほとんどなく、緊張感がみなぎり、強いエネルギーが発せされる舞台であった。

 乗組員たちの対立構造や、密航者とのふれあい、やがて襲い来る困難などのエピソードや物語のながれじたいはそれほど特異なものではない。個々の人物の造形や位置づけも同様である。しかし客席は張りつめたように静まって、ひたすら舞台に見入っていた。観客をひきつけるのは物語の意外な展開や、個性の強い人物ではないのだ。
 自分は一昨年から大阪の劇団mayの公演を夢中でみている。在日朝鮮人である金哲義の、これを書きたい、伝えたいという強烈な意志がぶつかってくる舞台の力強さは、小手先の手法などぶっとばす。今回の『海霧』にはそれとはまた違う魅力があって、これが女性の劇作家であることも驚いたのだが、まるでマグマの塊だ。「ぜったいに逃がすものか」。客席に対するむき出しの闘志である。

 これが本式の上演であったなら、熱すぎて強すぎて濃すぎて引いてしまったかもしれない。航海のあいだじゅう諍いを繰り返す乗組員たちは殴ったり蹴ったり、激しいアクションもみせる。それらに食傷する可能性も考えられる。リーディングの形式がその衝撃をやわらげ、戯曲そのものをよりくっきりと客席に提示した。残念だったのはト書きの読みと大声の台詞がかぶって聞こえにくいところがいくつかあったことで、これは演出の意図によるものなのだろうか。またト書きを読む若い女優さんの声や語り口が少し拙く、汗くさい男たちが繰り広げる物語に対していささかそぐわない印象であった。

 アフタートークは本作の船長役・林秀樹さんが鈴木アツトと対談を行った。つい数分前まで激しい芝居をしていた方が息も上がっておらず、とてもすっきりとした様子で司会をつとめておられることに驚く。作品の印象、魅力は何かという質問にはじまり、数年前から韓国と演劇における交流を熱心につづけていることで、鈴木アツトに白羽の矢がたったことなどが話された。 ごく短いトークであったが、観劇後の印象そのままに、作品や演出家への関心をより強く抱いて帰路につくことができた。本公演で6回を数えるリーディング、またしても出遅れた自分はやっとはじめての観劇である。不勉強のつけを悔やみつつ、新しい課題が与えられたことを喜ぼう。

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