今日は、明治26年発行の尋常小学生徒用修身教科書「日本修身書巻三」から、第十四課「縝密」を紹介します。
野田文蔵(※のだぶんぞう)は、算術の達人なり。或るとき大岡忠相(※おおおかただすけ)、まねきよせて、百を二つにわれといひけるに、かろがろしくこたへず。そろばんをかりうけて、ていねいに計算を為し、五十なりとこたへければ、忠相大いに感心し、「かくてこそ、大切の役目をまかすに足れるなれ、」とて、勘定役といへる、重き職をさづけたり。
念には、念を入れよ。
漢和辞典で調べると、「縝密」は、「しんみつ」と読み、「注意深い」という意味です。大岡忠相は江戸町奉行で、「大岡裁き」でよく知られていますが、勘定役を選ぶのに、算術の達人の野田文蔵が簡単な計算にも算盤を使って慎重に答えたことを評価して間違いのない男だと判断したというエピソードです。最後に大きな字で「念には念を入れよ」と書いてあります。計算が速いだけでは、大事な役目を任せられない、ということです。