明治18年刊(1885)の『小學讀本 四』、文部省編纂,兵庫県学務課翻刻を開いてみました。和綴じの教科書で、和紙の柔らかさが指先から伝わってきます。実際に使われていたもので、約140年後に誰かが読むとは、当時の人々は想像もしなかったでしょうね。
その第三課の文中の「艱難汝を玉にす」の言葉が目に止まりました。最近はこの言葉を耳にすることがなくなりました。本文を紹介します。
〇第三課
身の貴賤なるは却りて進達の助なり就中才芸を琢磨するには貧賤ならざれば志気堅確なり難し古より身を微賤より起して顕貴に陞(のぼ)り或は貧窶にして才芸を成し得たる人枚挙す可からざれば艱難汝を玉にすとも又人の徳慧術智あるもの恒に疢疾に存るともいへり貧賤は一時の労にして後来の栄を招く基なれば貧賤を以て身の勉励を廃すべからず
久し振りに漢和辞典を引きながら読みました。140年前には小学4年生がこの本を読んでいたのかと思うと、自分の国語力を情けなくも思います。そして、自分の置かれた環境が貧しいからといって努力することを止めてはいけない。むしろ、自分をつくってくれる助けとなる、といったことは、よく聞いて育ったように思いますが、明治時代の前半の頃には、社会の中に身分や貧富の差が大きかった時代だったので、こうした言葉が心にしみ込み、元気づけてくれたのでしょう。また、国自体がそうであった時代です。そこに明治の国の元気の源もあったのでしょう。