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Shelley, ("The keen stars were twinkling")

パーシー・B・シェリー (1792-1822)
「ジェインに」 (「刺すように星がきらめいて」)

刺すように星がきらめいて、
そのあいだをきれいな月が昇ってた、
ね、ジェイン。
ギターの静かな鈴のような音。
でも、君が歌って初めてきれいに聴こえた、
声が重なって。
月は優しい輝きを
冷たく弱い星の光の上に
投げかける。
それと同じ、君の優しい声が
魂のない弦にあげていた、
自分の魂を。

やがて星たちは目を覚ます。
月はまだ眠っていても。
今夜。
木の葉は落ちない。
君の歌がふりかけているから、
喜びのしずくを。
ギターの大きな音、でも
歌って、もう一度。愛しい声のなか聴かせて、
あの音。
遠くの、別の、世界の音。
歌と月の光と心が
ひとつになった音。

* * *
Percy Bysshe Shelley
"To Jane" ("The keen stars were twinkling")

The keen stars were twinkling
And the fair moon was rising among them,
Dear Jane.
The guitar was tinkling,
But the notes were not sweet till you sung them
Again.--
As the moon's soft splendour
O'er the faint cold starlight of Heaven
Is thrown--.
So your voice most tender
To the strings without soul had then given
Its own.

The stars will awaken,
Though the moon sleep a full hour later,
Tonight;
No leaf will be shaken
While the dews of your melody scatter
Delight.
Though the sound overpowers
Sing again, with your dear voice revealing
A tone
Of some world far from ours,
Where music & moonlight & feeling
Are one.

* * *
20190920 日本語訳修正
(下の記述は未確認。不正確かもしれない。)

* * *
以下、訳注。

1-12
星あかり = ギターの音 < 月あかり = 君の歌声
という関係。

7 soft splendour
いわゆる撞着語法(oxymoron)。矛盾する概念が
つながれている。
Soft: 静かな、抑えられた
Splendour: 強い輝き

13-14
構文は、およそ次のようなかたちで理解。
The stars will awaken [the moon] a full hour later,
[even] Though the moon [should] sleep

16-18
普通は:
風によって木の葉が散らされる(scatterされる)。

ここでは:
露(夜露)のような君の歌によって、楽しみと
よろこびがまき散らされる。

23-24
超現実的な表現:
この世では、歌と月の光と人の気持ちは、
みな別のもの。

* * *
以下、リズムの解釈例。

基調はストレス・ミーター。







改行位置を変えて示したが、この詩は、20世紀以降の
ポップ・ミュージック(ジャズ、ブルーズ、R&B, ロックンロール、
カントリーなど何でも)の歌詞によくあるように、
行頭の語が、時折その前行の最後のビートにのるように
書かれている。これにより(これだけによるものではないが)、
通常のバラッド的なストレス・ミーターとは違う、
洗練された、流れるような、リズムが感じられるように
なっている。

Shelley, Major Works (Oxford, 2003) の編者のいう、
この詩の "virtuoso rhythms and sound patterns" とは、
おそらくこのようなこと。

ワーズワースの、「わたしたちのなかで、スタイルという点では、
シェリーがもっともすぐれた職人だ」、という評価が思い出される。
(出典?)

上のスキャンジョンでやや不自然、あるいは
不器用に感じられる箇所があるのは、この詩が
未完成だからか。ジェインに対してシェリー曰く、
「この詩を大目に見て、秘密にしておいてほしい。
また別の機会にもっといいものを書くから。」

* * *
以下、詩としては行頭に置かれる語が、
歌われる際に前行に食いこむ例。

Chuck Berry, "Rock and Roll Music":
Rock and roll music
Any old way you choose it
It's got a backbeat you can't lose it. . . .
3行目のgotは2行目末のビートにのせて歌われる。
(4ビートではなく8ビートだが理屈は同じ。)

Hoagy Carmichael and Ned Washington,
"The Nearness of You":
It's not the pale moon
that excites me. . . .
この冒頭のnotはこの行がはじまる前のビートに
のせられてる。同様に、次行のthatはpale moonの
行の最後のビートに。

Queen, "I Was Born to Love You":
I was born
to love you
With every single beat
of my heart
Yes, I was born
to take care of you. . . .
各行8ビートとして表記。2行目のto, 3行目のWith,
4行目のmy, 5行目のYes, 6行目のtakeは、みな
前行の最後のビートにのせられている。

---
名誉革命の頃のバラッドにも次のようなものがある。

"A New Song of an Orange"

Good People, Come buy
The fruit that I Cry,
That now is in season, tho Winter is nigh,
'Twill do you all good,
And sweeten your Blood,
I'me sure it will please, when you're once understood,
'Tis an Orange.

詩として記せば、上記のようになる。(脚韻に注目。)
が、歌としては違う。これが楽譜。



丸で囲んだ脚韻を踏む語と、小節の句切れ目を
示す縦線のあいだに、次の行の最初のことばが
前のめりなかたちで食いこんできている。

(この詩の1-2行目、4-5行目は、次のように、
それぞれストレス・ミーター、四拍子の一行を
二行にわけたもので、しかも、このShelleyの
ギターの詩のように前行の最後のビートのところまで
食いこんではいない。ストレス・ミーターの一行と
歌としての小節が一致していない例。)



* * *
詩のリズムについては、以下がおすすめ。

ストレス・ミーターについて
Derek Attridge, Poetic Rhythm (Cambridge, 1995)

古典韻律系
Paul Fussell, Poetic Meter and Poetic Form, Rev. ed.
(New York, 1979)

その他
Northrop Frye, Anatomy of Criticism: Four Essays
(Princeton, 1957) 251ff.

Joseph Malof, "The Native Rhythm of English Meters,"
Texas Studies in Literature and Language 5 (1964):
580-94

* * *
英文テクストは、シェリーの手稿に若干の修正を加えたもの。
手稿は、Fair-Copy Manuscripts of Shelley's Poems in
European and American Libraries
, ed. Donald H. Reiman
and Michael O'Neill (New York, 1997) より。
(修正したのはスペリングのみ。it's --> its など。)

* * *
https://drive.google.com/file/d/18XGrUSpfGkmJm43hk7NasUfDXIPOZ88N/view?usp=sharing
GT: 曲・ギター
M: 曲・ピアノ
F, I: 声

* * *
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* * *
修正
20141005
20190920


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Wordsworth, ("I wandered lonely as a Cloud") (1804)

ウィリアム・ワーズワース
(「ひとり、あてもなく歩いていた」)(1804)

ひとり、あてもなく歩いていた。
谷や丘の上の雲のように。
そんな時、目に飛びこんできた、たくさんの、
本当にたくさんの、踊る水仙たち。
湖のほとり、木々の下、
一万の花たちが踊っていた。

波も隣で踊っていた。でも、花のほうが、
きらめく波より楽しげだった。
詩人だったらうれしくなるはず、
笑っているこんな仲間に囲まれて。
ぼくは見つめた--ずっと見つめていた--でもまったく気づかなかった、
花たちからのプレゼントに。

今、ベッドに横になる。
ぼーっとして、いろいろ考えながら。
すると心の目に見えてくる、輝くたくさんの花。
ひとりでいるのに、まるで天国のよう。
そして、心が楽しくてどうしようもなくなって、
水仙たちといっしょに踊りだす。

*****
William Wordsworth
("I wandered lonely as a Cloud") (1804)

I wandered lonely as a Cloud
That floats on high o'er Vales and Hills,
When all at once I saw a crowd
A host of dancing Daffodils;
Along the Lake, beneath the trees,
Ten thousand dancing in the breeze.

The waves beside them danced, but they
Outdid the sparkling waves in glee: --
A poet could not but be gay
In such a laughing company:
I gazed -- and gazed -- but little thought
What wealth the show to me had brought:

For oft when on my couch I lie
In vacant or in pensive mood,
They flash upon that inward eye
Which is the bliss of solitude,
And then my heart with pleasure fills,
And dances with the Daffodils.

*****
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Donne, ("Show me, dear Christ, thy spouse)

ジョン・ダン
(「救い主さま、透明に輝くあなたの花嫁を見せてください」)

愛しい救い主さま、透明に輝くあなたの花嫁を見せてください。
えええ!? それはあちらの岸にいて、豪華に着飾って
化粧もしているあの人なんですか? それともドイツやここで
身ぐるみ剥がれてぼろぼろになって泣いて悲しんでいるような方ですか?
千年眠っていて、ある年、急に目覚めるような方ですか?
その方は自分が真理なのに、誤ることがあるのですか?
その方は過去に、今、未来に、どこにいますか?
ひとつの丘、七つの丘、丘のないところ、のどこですか?
その方はわたしたちと一緒に暮らしていますか? それとも騎士の
試練のように、わたしたちは旅をして探して求愛すべきですか?
優しい夫の救い主さま、あなたの花嫁をこっそり見せてください。
恋するわたしたちの魂に、鳩のように優しいあなたの妻を口説かせてください。
その方があなたをいちばん愛している時、あなたにとって最高に愛しい時、
それはその方ができるだけ多くの男たちに抱かれている時のはずです。

*****
John Donne
("Show me, dear Christ, thy spouse so bright and clear")

Show me, dear Christ, thy spouse so bright and clear.
What! is it she which on the other shore
Goes richly painted? or which, robbed and tore,
Laments and mourns in Germany and here?
Sleeps she a thousand, then peeps up one year?
Is she self-truth, and errs? now new, now outwore?
Doth she, and did she, and shall she evermore
On one, on seven, or on no hill appear?
Dwells she with us, or like adventuring knights
First travel we to seek, and then make love?
Betray, kind husband, thy spouse to our sights,
And let mine amorous soul court thy mild dove,
Who is most true and pleasing to thee then
When she is embraced and open to most men.

http://www.luminarium.org/sevenlit/donne/holysonnet18.php

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神・救い主の妻 = 教会

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