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Wordsworth, "Ode" ("Intimations of Immortality") 1807 ver. (訳注、解説)

ウィリアム・ワーズワース (1770-1850)
「オード」
(「幼少の思い出が永遠について教えてくれる」)

(訳注と解釈例)

タイトル immortality
不死。いずれ死ぬ(mortal)人間などこの世のものに対して、
神や天使たちは死なない(immortal)。

ただ、日本語で「不死」というと、不死不老という
現世的な憧れ、的なニュアンスをおびてしまうので、
より抽象的に、時間的に限定された(temporal)人間などの
住む現実の世界と、神や天使の世界として仮想される
永遠の(eternal)世界、という対立で表現したほうが
いいと思われる。

12-16
ここで夜から朝に時間が移行。

23-24
イマイチな二行。一般論のなかに日記がまぎれこんだかのよう。
この二行を正当化するために、ワーズワースは後の版で、
エピグラフを「心が飛びあがる」(いわゆる「虹」)からの
一節に差し替えた?(ここでいうutteranceはこの虹の詩、
という説がある。)

25 the fields of sleep
夜明けで、野原がまだ眠っているということ?

26 shall
話し手(わたし)の意志をあらわす未来。

29 the earth
世界、陸も海も含むものとして(OED 8)。

33 holiday
仕事の中断、休み、遊び(OED 2c)。

34-
ここから羊飼いの少年や動物たちへの呼びかけ。
スタンザの途中からなのは、おそらく意図的なこと。

全体を通じて、目の前の人やものに対する明らかな
呼びかけは「 」で示した。(後半、そんな呼びかけと
自分や読者に対する語りの区別が難しくなるが。)

42
呼びかけが終わり、ここからまた自分と読者に語る。

57 glory
輝くような美しさ(OED 6)。天国ということばでイメージするような。

60 setting
人や物がおかれる場所、環境(OED 6b)。
星などが「沈む」という意味は、生まれる前の魂については
特に考えなくていいと思う。(ここに輪廻的な思想があると
みるなら話は別。)

(前行にlife's Starとあるので、自然と「沈む」の意味が
頭に浮かぶが、ここでsettingが選ばれていることには、
forgettingとの脚韻という形式的な理由もある。)

64 clouds of glory
いわゆる撞着語法。矛盾する言葉を組みあわせて超自然的な
ものや状況を表現。

71-72
東、というのは太陽が出るところ。つまり、69行目にあるような
少年のころに見ていた光、あるいはその出所(65行目のGod,
who is our home; 66行目のHeaven)のこと。

73-74
構文は、and is attended by the vision splendid
on his way. 主語は71行目のThe Youth.
内容的には、64行目のtrailing clouds of gloryとほぼ同じ。

77 pleasures
よろこびをもたらすもの。ここでは草花など。

78
自然には、植物(や生物)を生み育てたい、という本能のようなものがある、
ということ。

78 she
大地。古代ギリシャのGaia (Gaea)以来、大地は母で女性。

78 kind
誰か、何かに特有のやり方(OED 8a, この行が引用されている)。

79 something of a Mother's mind
たとえば、人間をなぐさめよう、楽しませよう、というような親心の
ようなもの。

80-84
自然に悪意はないのだが、その美しさによって人は、
生まれる前に知っていた天の世界を忘れてしまう、
ということ。

85 blisses
よろこび、楽しみ(OED 2a, この行が引用されている。)

86 four year's
後の版ではsix years' と変えられている。

90-94
4歳の子どもが描いた絵のこと。彼はまわりの大人が
していることを彼なりに描く。それが「人のくらしについて
彼が見た夢の断片」。「わたし」には、それが結婚式の絵か、
祭の絵か、喪の絵か、葬式の絵か、わからない。

103
Humour[s]とは、17世紀ぐらいまで(?)人の気質を決定すると
考えられていた体液のこと。血液、粘液、黄胆汁、黒胆汁の四つ。
16世紀末から17世紀初めにかけてのベン・ジョンソンの気質喜劇は、
このような体液説をもとに書かれている。

108 Thou
85行目のthe Childのこと。

109 immensity
はかることができないこと、無限であること(OED 1)。

113 the eternal mind
OEDは神のこととしているが(17e--神は人間と違って永遠に不変だから)、
小文字のmindなので、それ以外のニュアンスを加えて広く理解しても
いいと思う。

113 mind
記憶(OED 4)。
精神としての存在、精神の働き(OED III)。

114 Prophet
預言者、神の意志や言葉を伝える人。

114 blest
Bless(聖なるもの、神に守られたものとする)の過去分詞。

117 Immortality
不死であること。上のeternalとほぼ同じ意味。
ふつうの人間はいずれ死ぬ存在だが、神はimmortalで
eternal.

子どもには、大人としての人間がもつ以上の、つまり神との
近さをうかがわせるような知恵があるということを、
このスタンザは、またこの詩は、いっている。

不死とは、文字通り、肉体的に、死なないということではない。
肉体は死ぬ。正統的なキリスト教的において、死なないのは魂だけ。

(魂も肉体とともに死ぬ、という考え方も、異端的なものとしてある。)

124 glorious
うっとりするほどすばらしい(OED 5a)。

131 Heavy as frost
撞着語法。本当は霜は重くない。が、それは、
冷たくて、比喩的に重い。

132-70
オードは高ぶった内容を高ぶった言葉で歌うということで、
構文的にゆるく、不明確に書かれている。
(おそらく、これまで以上に気持ちがもりあがってきている、
ということ。)

134 nature
人やものの本質(OED 1-2)。

137-155
構文は以下の通り。
---
I raise The song of thanks and praise not For:

(1)
that which is most worthy to be blest;

(2)
[that is,] Delight and liberty, [which are] the simple creed
Of Childhood, whether [one is] fluttering or at rest,
With new-born hope for ever in his breast:-

But for:

(1)
those obstinate questionings Of sense and outward things,

(2)
Fallings from us, vanishings;

(3)
Blank misgivings of a Creature Moving about in worlds
not realiz'd,

(4)
[in other words,] High instincts, before which our
mortal Nature Did tremble like a guilty Thing surpriz'd:

(5)
those first affections, [and/or] Those shadowy recollections,
Which, be they what they may,
Are yet the fountain light of all our day,
Are yet a master light of all our seeing.
---

144-50
「わたし」がこの詩でたたえているもの、後にワーズワースが
つけたタイトルでいっているような「幼少の思い出が教えてくれる
永遠」、つまり、人の感覚や意識や生そのものを超えたところにある
超越論的なものが、131行目まで(特に58-84行で)描いてきた
ような楽園的な、心あたたまるようなものであると同時に、
恐怖や不安をの念を抱かせるような、いわゆる「崇高」なものでも
あることを示している。

145-46
ワーズワースは、「自分の心の外にものが本当に存在するのか、
自信がなくなるときが以前にあって、そんなときに外部のものは
落ちていき、消えていくんだ」というようなことをいっていたらしい。
The Poetical Works of William Wordsworth, ed. William Knight,
vol. 4 (1883), p. 58.

156-58 Uphold us, cherish us . . . Silence
143行目のThe song of thanks and praiseの内容。
または、"those first affections", "Those shadowy
recollections", "[T]he fountain light of all our day",
"a master light of all our seeing" に対する呼びかけ。

158-163 truths that wake . . . or destroy!
構文の中で浮いている名詞句。(最後に!があるので、
呼びかけのようなものとして理解。) 内容的には、theが
ついていないので、以下のようなことを含む漠然とした「真理」。

"those first affections",
"Those shadowy recollections",
"[T]he fountain light of all our day",
"a master light of all our seeing"
"moments in the being Of the eternal Silence"

178-89
幼少の頃に特に意識することなく感じていた永遠や、
知っていた真理(108-19行)、幼少期に見ていた自然の輝き
(1-84行)を後ろ向きにたたえ、成長してしまった自分について
嘆くのではなく、これらの存在をまだかすかに(逆説的に、失われたもの
として)感じられる現在の自分やその将来を前向きにとらえよう、
という姿勢をあらわす。この詩の論理構造上の結論部。

190-
君たち=泉、牧場、丘、林に対して話しかけている。

193-4 delight / To live. . . .
= delight of living. . . . (OED "to", prep. B5)
不定詞が、先行する抽象名詞の具体的な内容をあらわしている。

195 fret
(川が)荒れて揺れながら、小さな波を立てつつ、流れる(OED v1, 11)。

* * *

17世紀のカウリー以来のピンダリックの終着点というべき作品。
ワーズワースの短い詩のなかでも(これでも短い--長いといえる
のは『序曲』など)、もっともいいもののひとつとされる。

ピンダリックとは、古代ギリシャのピンダロスのオードの
高揚した雰囲気(だけ)を再現した不規則な詩形。
ドライデンの「アレクサンドロスの宴」もこのかたちで
描かれている。(20120721の記事参照)

自然のとらえ方など、いろいろ矛盾やあいまいなところが
あるように思われるが、(厳密な論理ではなく)自然な思考の
範囲内でシリアスな内容を(熱く)語る、いい作品だと思う。

シリアスな内容とは、たとえば、自然と人の関係、
生きることにともなう困難や不安とよろこび、
最終的な生の肯定、など。特に144行以降や最終行など、
これらを、ありふれたことばや概念をを超えたレベルで
語っている、あるいは語ろうとしているところに、
この詩の説得力があるように思う。

(あと、永遠=不死を語りつつも、「神」の概念、
キリスト教的な思考の枠組みに最低限しか言及しないのもいい。)

* * *

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