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Merry, "The Adieu and Recall: To Love"

「決別したのに呼び戻す:クピドに」
ロバート・メリー(デラ・クルスカ)

あっち行け、邪魔者クピド! 君の力なんかいらない。
花と棘でいっぱいのベッドもいらない。
君のうなる弓も尖った矢もいらない。
嘘つき美人がこわがりなふりして
「びっくりした」とか言っても、ちょっと悪い横目で見てきても、
優しく笑ってくれても、急に涙を流しても、
もうぼくはドキッとしない。ぜんぜん楽しくない。
だからさよなら、君、もうぼくは関係ない!
パタパタ飛んでここから消えて。
澄んだ泉で水浴びするなり、
薔薇の露を飲むなり、
ルイーザの胸で昼寝するなり、好きにして。
ありがとう。これまで楽しかった。
でもいい、今後いっさいぼくは君に縛られない。

とは言いつつ、たぶん、一日経ったら
日ざしが悲しく見えてきて、
西風が凍えるように吹いてきて、
川の音が雑音に聞こえてきて、
鳥が歌わなくなって、
森の音が楽しくなくなって、
そして、ナイティンゲール! 君の歌を
聴きながら悲しみに浸るのが好きだったのに、
それが耳に入らなくなって、
ため息も涙も出なくなって、
ふらふらと
朝露降りた草山をさまようのもやめて、
そよ風の酒も飲まなくなって、
目的もなく森の屋根の下を歩かなくなって、
一途に夢中に、
青白い頬の月の少女に愛を語るのもやめる、
木の葉の小部屋のすきまから
地面に銀の雨が降る夜に。
ああ! みんなが言う安らぎってこういうこと?
熱く楽しい欲望を捨てる?
心地いい気がかりを忘れる?
他の人の幸せと悲しみを気にしない?
無関心に心を凍らせる?
心が空っぽって悲しい……
だから戻ってきて、役立たずなクピド!
苦痛といっしょに喜びをもってきて!
帰ってきてぼくを拷問にかけて!
希望と不安と恐れを感じさせて!
あらゆる種類の痛みでぼくの心を引き裂いて!
それでいいから、もう一度ぼくを恋に落として!

*****
"The Adieu and Recall: To Love"
Robert Merry (Della Crusca)

Go, idle Boy! I quit thy pow'r;
Thy couch of many a thorn and flow'r;
Thy twanging bow, thine arrow keen,
Deceitful Beauty's timid mien;
The feign'd surprize, the roguish leer,
The tender smile, the thrilling tear,
Have now no pangs, no joys for me,
So fare thee well, for I am free!
Then flutter hence on wanton wing,
Or lave thee in yon lucid spring,
Or take thy bev'rage from the rose,
Or on Louisa's breast repose:
I wish thee well for pleasures past,
Yet bless the hour, I'm free at last.

But sure, methinks, the alter'd day
Scatters around a mournful ray;
And chilling ev'ry zephyr blows,
And ev'ry stream untuneful flows;
No rapture swells the linnet's voice,
No more the vocal groves rejoice;
And e'en thy song, sweet Bird of Eve!
With whom I lov'd so oft to grieve,
Now scarce regarded meets my ear,
Unanswer'd by a sigh or tear.
No more with devious step I choose
To brush the mountain's morning dews;
To drink the spirit of the breeze,
Or wander midst o'er-arching trees;
Or woo with undisturb'd delight,
The pale-cheek'd Virgin of the Night,
That piercing thro' the leafy bow'r,
Throws on the ground a silv'ry show'r.
Alas! is all this boasted ease,
To lose each warm desire to please,
No sweet solicitude to know
For others bliss, for others woe,
A frozen apathy to find,
A sad vacuity of mind?
O hasten back, then, idle Boy,
And with thine anguish bring thy joy!
Return with all thy torments here,
And let me hope, and doubt, and fear.
O rend my heart with ev'ry pain!
But let me, let me love again.

https://www.eighteenthcenturypoetry.org/works/o4739-w0060.shtml

*****
18世紀末に流行したデラ・クルスカ派の詩(Della Cruscan Poetry)
の最初のもの。このスタイルが18世紀の詩とロマン派のあいだの
決定的なリンクであるのに、文学史上ほとんど無視されている。
(確かにたいした作品ではないかもしれないが。)

これらと同じ「感受性」路線の作品。
Yearsley, "To Indifference"
Greville, "A Prayer for Indifference"H. More, "Sensibility"

以下など参照のこと--

田久保 浩
「デラクルスカ派の詩における感受性のイデオロギーと十八世紀メディア」
『言語文化研究』(徳島大学)25 (2017): 1-22
https://repo.lib.tokushima-u.ac.jp/110983

田久保 浩
「ロバート・メリーとメアリー・ロビンソン : フランス革命と感受性の詩」
『言語文化研究』(徳島大学)28 (2020): 1-19
https://repo.lib.tokushima-u.ac.jp/ja/115554

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感受性 sensibility
幸せな人 beatus ille
心の安らぎ ataraxia
賢い人 sapiens
無感情 apathy
美徳 virtue
自然
ホラティウス Horace
エピクロス Epicurus
ルクレティウス Lucretius
セネカ Seneca
ストア派 the Stoics
グロティウス Grotius
ホッブズ Hobbes
広教派 Latitude-men
(Augustine / Pelagius)
(Calvin / Arminius)
ケンブリッジ・プラトニスト Cambridge Platonists
シャフツベリー Third Earl of Shaftesbury
ヒューム Hume
アダム・スミス Adam Smith

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