英語の詩を日本語で
English Poetry in Japanese
Wordsworth, "The Mad Mother"
ウィリアム・ワーズワース
「狂った母」
血走った目、帽子はない。
石炭色の黒髪を太陽が焦がす。
まつ毛はさびついたように汚い。
彼女は海のはるか向こうからやってきた。
腕に赤子を抱いていて、
他には誰も寄ってこない。
ある時はあたたまったわらの山の下で、
またある時は森の石にすわって、
森のなか、彼女は話し、歌う。
英語で、だった。
「かわいい赤ちゃん! みんな、わたしはおかしいっていうの。
でも、そんなことないわよね。わたし、うれしすぎるだけなの。
楽しいから歌ってるのよ、
たくさん、たくさん、悲しくて暗い歌をね。
でもね、赤ちゃん、こわくなんかないのよ。
わたしはこわくなんかないからね。
ゆりかごにいるのとおんなじよ、ほら、
わたしの赤ちゃん、大丈夫。
赤ちゃんがいてくれてほんとうれしいの。
ひどいことなんて絶対しないわ。
頭のなか、燃えるように熱かったこともあるわ。
ずっきんずっきん痛くってね。
こわいお化けみたいな顔が、ひとつ、ふたつ、みっつ、
胸のところにぶらさがって、わたしを食べてて。
でも、それからうれしいことが見えたの。
それでずいぶんよくなったの。
目ざめたら、小さな男の子がいたの。
ちゃんとからだのある、わたしの子よ。
ああ、うれしかったわ。
その子がいたの、その子だけよ。
さあ、赤ちゃん、おっぱい飲んで、ね、もう一回!
そうしてくれると、血が冷めるの。頭が冷めるの。
くちびるがあたってる。そうそう! そうしてると、
心の痛みがなくなるの。
そうよ、かわいい手で押してみて。
なんか胸が楽になるわ。
死にそうにきつい帯のところらへん、
指で押してるのがわかるわ。
木のなかにそよ風が吹いてる。
赤ちゃんとわたしを涼しくしてくれるね。
ね、ママのこと好き? 好き? 赤ちゃん?
赤ちゃんだけがママの幸せなの。
下の波だって平気よ、
海の岩の端っこの向こうに行ってもね。
高い崖だってわたしは大丈夫。
うなって飛びあがる流れもね。
赤ちゃんは腕に抱っこしててあげる。
この子は、わたしの大事な大事な魂を救済してくれるの。
おやすみなさい、わたしは幸せよ。
わたしがいなかったら、かわいい赤ちゃん死んじゃう。
こわがらないで、赤ちゃん。赤ちゃんのためだったら、
わたしライオンみたいに強くなる。
いつも手を引いててあげる。
雪の洞窟のなかでも、大きな川のなかでも。
インド風の小屋をつくってあげるわ。わかってる、
やわらかいベッドをつくるのに使う葉っぱとか。
ずっとそばにいてくれたら、
死ぬまでいっしょにいてくれたら、
かわいい赤ちゃん! あなたも歌が歌えるようになるわ。
春の鳥たちみたいに楽しくね。
パパはわたしの胸になんて興味ないから、
おっぱいはひとり占めね、赤ちゃん。あなたのベッドね。
全部あなたのものよ。色は
変わっちゃうかもね。前はもっときれいだったのに。
でも赤ちゃん、あなたは気にしないわよね。
だいぶふけちゃったわ、赤ちゃん、
でも、ママといっしょにいてくれる? 好きっていってくれる?
ほっぺが茶色になっちゃったらどうしようね?
でもいいわ。そうでなかったら、ほっぺが
真っ青だって、わかっちゃうし。
みんながバカにしてもこわがらないでね、赤ちゃん!
ママはパパとちゃんと結婚してるの。
大きな木の下で、
わたしたち、いっしょにくらすの。まじめにね。
パパだって、かわいい赤ちゃんを置いてきぼりにするくらいなら、
ママとだって絶対いっしょにいなかったはずよね。
パパはこわい人じゃないわ。
でも、かわいそうにね、ひどいことになっちゃったの。
だから、いつもお祈りしてあげましょう。
ずっと遠くに行っちゃったパパのためにね。
この子には、いちばんすてきなことを教えてあげる。
ふくろうのこどもの鳴きかたを教えてあげる。
わたしの赤ちゃん! お口がとまったわね。
お腹いっぱい?
ーーあれ、わたし赤ちゃん、どこ行っちゃったのかしら?
なんでそんなに悪い目をしてるの?
うわわ! え? そのこわい目は何?
わたし、そんな目してたかしら。
もしあなたがおかしくなっちゃったら、ね、赤ちゃん、
わたし、ずっと悲しいわ。
ねえ! 笑って、ね、赤ちゃん!
ママですよ!
これまでも、これからも、ずっとあなたが大好きよ。
わたしね、パパをあっちこっち遠くまで探してきたわ。
わたしね、木陰の毒の草のこととか、知ってる。
食べれるピーナッツとかもね。
だから、赤ちゃん、こわがらないでね。
森でパパを探しましょ。
さ、笑って、ニコニコして、森に行きましょ!
そこでずっとくらしましょ、赤ちゃん。」
* * *
William Wordsworth
"The Mad Mother"
Her eyes are wild, her head is bare,
The sun has burnt her coal-black hair,
Her eye-brows have a rusty stain,
And she came far from over the main.
She has a baby on her arm,
Or else she were alone;
And underneath the hay-stack warm,
And on the green-wood stone,
She talked and sung the woods among;
And it was in the English tongue.
"Sweet babe! they say that I am mad,
But nay, my heart is far too glad;
And I am happy when I sing
Full many a sad and doleful thing:
Then, lovely baby, do not fear!
I pray thee have no fear of me,
But, safe as in a cradle, here
My lovely baby! thou shalt be,
To thee I know too much I owe;
I cannot work thee any woe.
A fire was once within my brain;
And in my head a dull, dull pain;
And fiendish faces one, two, three,
Hung at my breasts, and pulled at me.
But then there came a sight of joy;
It came at once to do me good;
I waked, and saw my little boy,
My little boy of flesh and blood;
Oh joy for me that sight to see!
For he was here, and only he.
Suck, little babe, oh suck again!
It cools my blood; it cools my brain;
Thy lips I feel them, baby! they
Draw from my heart the pain away.
Oh! press me with thy little hand;
It loosens something at my chest;
About that tight and deadly band
I feel thy little fingers press'd.
The breeze I see is in the tree;
It comes to cool my babe and me.
Oh! love me, love me, little boy!
Thou art thy mother's only joy;
And do not dread the waves below,
When o'er the sea-rock's edge we go;
The high crag cannot work me harm,
Nor leaping torrents when they howl;
The babe I carry on my arm,
He saves for me my precious soul;
Then happy lie, for blest am I;
Without me my sweet babe would die.
Then do not fear, my boy! for thee
Bold as a lion I will be;
And I will always be thy guide,
Through hollow snows and rivers wide.
I'll build an Indian bower; I know
The leaves that make the softest bed:
And if from me thou wilt not go,
But still be true 'till I am dead,
My pretty thing! then thou shalt sing,
As merry as the birds in spring.
Thy father cares not for my breast,
'Tis thine, sweet baby, there to rest:
'Tis all thine own! and if its hue
Be changed, that was so fair to view,
'Tis fair enough for thee, my dove!
My beauty, little child, is flown;
But thou wilt live with me in love,
And what if my poor cheek be brown?
'Tis well for me; thou canst not see
How pale and wan it else would be.
Dread not their taunts, my little life!
I am thy father's wedded wife;
And underneath the spreading tree
We two will live in honesty.
If his sweet boy he could forsake,
With me he never would have stay'd:
From him no harm my babe can take,
But he, poor man! is wretched made,
And every day we two will pray
For him that's gone and far away.
I'll teach my boy the sweetest things;
I'll teach him how the owlet sings.
My little babe! thy lips are still,
And thou hast almost suck'd thy fill.
―Where art thou gone my own dear child?
What wicked looks are those I see?
Alas! alas! that look so wild,
It never, never came from me:
If thou art mad, my pretty lad,
Then I must be for ever sad.
Oh! smile on me, my little lamb!
For I thy own dear mother am.
My love for thee has well been tried:
I've sought thy father far and wide.
I know the poisons of the shade,
I know the earth-nuts fit for food;
Then, pretty dear, be not afraid;
We'll find thy father in the wood.
Now laugh and be gay, to the woods away!
And there, my babe; we'll live for aye.
* * *
いろいろわからないが、さしあたり。
この母はインド、または南北アメリカ(西インド)から
イギリスに来ていて、誰かとこどもをつくり、そして
棄てられた、という設定。
おそらく、ときどき子殺しや心中が頭をよぎっている、
という話。
Lyrical Balladsに少なからず収められている、
社会的弱者について、価値評価を控えたかたち、
メロドラマ的ではないかたちで語る作品のひとつ。
* * *
英語テクストは次のページより。
http://www.gutenberg.org/ebooks/9622
* * *
学生の方など、自分の研究/発表のために上記を
参照する際には、このサイトの作者、タイトル、URL,
閲覧日など必要な事項を必ず記し、剽窃行為のないように
してください。
ウェブ上での引用などでしたら、リンクなどのみで
かまいません。
商用、盗用、悪用などはないようお願いします。
「狂った母」
血走った目、帽子はない。
石炭色の黒髪を太陽が焦がす。
まつ毛はさびついたように汚い。
彼女は海のはるか向こうからやってきた。
腕に赤子を抱いていて、
他には誰も寄ってこない。
ある時はあたたまったわらの山の下で、
またある時は森の石にすわって、
森のなか、彼女は話し、歌う。
英語で、だった。
「かわいい赤ちゃん! みんな、わたしはおかしいっていうの。
でも、そんなことないわよね。わたし、うれしすぎるだけなの。
楽しいから歌ってるのよ、
たくさん、たくさん、悲しくて暗い歌をね。
でもね、赤ちゃん、こわくなんかないのよ。
わたしはこわくなんかないからね。
ゆりかごにいるのとおんなじよ、ほら、
わたしの赤ちゃん、大丈夫。
赤ちゃんがいてくれてほんとうれしいの。
ひどいことなんて絶対しないわ。
頭のなか、燃えるように熱かったこともあるわ。
ずっきんずっきん痛くってね。
こわいお化けみたいな顔が、ひとつ、ふたつ、みっつ、
胸のところにぶらさがって、わたしを食べてて。
でも、それからうれしいことが見えたの。
それでずいぶんよくなったの。
目ざめたら、小さな男の子がいたの。
ちゃんとからだのある、わたしの子よ。
ああ、うれしかったわ。
その子がいたの、その子だけよ。
さあ、赤ちゃん、おっぱい飲んで、ね、もう一回!
そうしてくれると、血が冷めるの。頭が冷めるの。
くちびるがあたってる。そうそう! そうしてると、
心の痛みがなくなるの。
そうよ、かわいい手で押してみて。
なんか胸が楽になるわ。
死にそうにきつい帯のところらへん、
指で押してるのがわかるわ。
木のなかにそよ風が吹いてる。
赤ちゃんとわたしを涼しくしてくれるね。
ね、ママのこと好き? 好き? 赤ちゃん?
赤ちゃんだけがママの幸せなの。
下の波だって平気よ、
海の岩の端っこの向こうに行ってもね。
高い崖だってわたしは大丈夫。
うなって飛びあがる流れもね。
赤ちゃんは腕に抱っこしててあげる。
この子は、わたしの大事な大事な魂を救済してくれるの。
おやすみなさい、わたしは幸せよ。
わたしがいなかったら、かわいい赤ちゃん死んじゃう。
こわがらないで、赤ちゃん。赤ちゃんのためだったら、
わたしライオンみたいに強くなる。
いつも手を引いててあげる。
雪の洞窟のなかでも、大きな川のなかでも。
インド風の小屋をつくってあげるわ。わかってる、
やわらかいベッドをつくるのに使う葉っぱとか。
ずっとそばにいてくれたら、
死ぬまでいっしょにいてくれたら、
かわいい赤ちゃん! あなたも歌が歌えるようになるわ。
春の鳥たちみたいに楽しくね。
パパはわたしの胸になんて興味ないから、
おっぱいはひとり占めね、赤ちゃん。あなたのベッドね。
全部あなたのものよ。色は
変わっちゃうかもね。前はもっときれいだったのに。
でも赤ちゃん、あなたは気にしないわよね。
だいぶふけちゃったわ、赤ちゃん、
でも、ママといっしょにいてくれる? 好きっていってくれる?
ほっぺが茶色になっちゃったらどうしようね?
でもいいわ。そうでなかったら、ほっぺが
真っ青だって、わかっちゃうし。
みんながバカにしてもこわがらないでね、赤ちゃん!
ママはパパとちゃんと結婚してるの。
大きな木の下で、
わたしたち、いっしょにくらすの。まじめにね。
パパだって、かわいい赤ちゃんを置いてきぼりにするくらいなら、
ママとだって絶対いっしょにいなかったはずよね。
パパはこわい人じゃないわ。
でも、かわいそうにね、ひどいことになっちゃったの。
だから、いつもお祈りしてあげましょう。
ずっと遠くに行っちゃったパパのためにね。
この子には、いちばんすてきなことを教えてあげる。
ふくろうのこどもの鳴きかたを教えてあげる。
わたしの赤ちゃん! お口がとまったわね。
お腹いっぱい?
ーーあれ、わたし赤ちゃん、どこ行っちゃったのかしら?
なんでそんなに悪い目をしてるの?
うわわ! え? そのこわい目は何?
わたし、そんな目してたかしら。
もしあなたがおかしくなっちゃったら、ね、赤ちゃん、
わたし、ずっと悲しいわ。
ねえ! 笑って、ね、赤ちゃん!
ママですよ!
これまでも、これからも、ずっとあなたが大好きよ。
わたしね、パパをあっちこっち遠くまで探してきたわ。
わたしね、木陰の毒の草のこととか、知ってる。
食べれるピーナッツとかもね。
だから、赤ちゃん、こわがらないでね。
森でパパを探しましょ。
さ、笑って、ニコニコして、森に行きましょ!
そこでずっとくらしましょ、赤ちゃん。」
* * *
William Wordsworth
"The Mad Mother"
Her eyes are wild, her head is bare,
The sun has burnt her coal-black hair,
Her eye-brows have a rusty stain,
And she came far from over the main.
She has a baby on her arm,
Or else she were alone;
And underneath the hay-stack warm,
And on the green-wood stone,
She talked and sung the woods among;
And it was in the English tongue.
"Sweet babe! they say that I am mad,
But nay, my heart is far too glad;
And I am happy when I sing
Full many a sad and doleful thing:
Then, lovely baby, do not fear!
I pray thee have no fear of me,
But, safe as in a cradle, here
My lovely baby! thou shalt be,
To thee I know too much I owe;
I cannot work thee any woe.
A fire was once within my brain;
And in my head a dull, dull pain;
And fiendish faces one, two, three,
Hung at my breasts, and pulled at me.
But then there came a sight of joy;
It came at once to do me good;
I waked, and saw my little boy,
My little boy of flesh and blood;
Oh joy for me that sight to see!
For he was here, and only he.
Suck, little babe, oh suck again!
It cools my blood; it cools my brain;
Thy lips I feel them, baby! they
Draw from my heart the pain away.
Oh! press me with thy little hand;
It loosens something at my chest;
About that tight and deadly band
I feel thy little fingers press'd.
The breeze I see is in the tree;
It comes to cool my babe and me.
Oh! love me, love me, little boy!
Thou art thy mother's only joy;
And do not dread the waves below,
When o'er the sea-rock's edge we go;
The high crag cannot work me harm,
Nor leaping torrents when they howl;
The babe I carry on my arm,
He saves for me my precious soul;
Then happy lie, for blest am I;
Without me my sweet babe would die.
Then do not fear, my boy! for thee
Bold as a lion I will be;
And I will always be thy guide,
Through hollow snows and rivers wide.
I'll build an Indian bower; I know
The leaves that make the softest bed:
And if from me thou wilt not go,
But still be true 'till I am dead,
My pretty thing! then thou shalt sing,
As merry as the birds in spring.
Thy father cares not for my breast,
'Tis thine, sweet baby, there to rest:
'Tis all thine own! and if its hue
Be changed, that was so fair to view,
'Tis fair enough for thee, my dove!
My beauty, little child, is flown;
But thou wilt live with me in love,
And what if my poor cheek be brown?
'Tis well for me; thou canst not see
How pale and wan it else would be.
Dread not their taunts, my little life!
I am thy father's wedded wife;
And underneath the spreading tree
We two will live in honesty.
If his sweet boy he could forsake,
With me he never would have stay'd:
From him no harm my babe can take,
But he, poor man! is wretched made,
And every day we two will pray
For him that's gone and far away.
I'll teach my boy the sweetest things;
I'll teach him how the owlet sings.
My little babe! thy lips are still,
And thou hast almost suck'd thy fill.
―Where art thou gone my own dear child?
What wicked looks are those I see?
Alas! alas! that look so wild,
It never, never came from me:
If thou art mad, my pretty lad,
Then I must be for ever sad.
Oh! smile on me, my little lamb!
For I thy own dear mother am.
My love for thee has well been tried:
I've sought thy father far and wide.
I know the poisons of the shade,
I know the earth-nuts fit for food;
Then, pretty dear, be not afraid;
We'll find thy father in the wood.
Now laugh and be gay, to the woods away!
And there, my babe; we'll live for aye.
* * *
いろいろわからないが、さしあたり。
この母はインド、または南北アメリカ(西インド)から
イギリスに来ていて、誰かとこどもをつくり、そして
棄てられた、という設定。
おそらく、ときどき子殺しや心中が頭をよぎっている、
という話。
Lyrical Balladsに少なからず収められている、
社会的弱者について、価値評価を控えたかたち、
メロドラマ的ではないかたちで語る作品のひとつ。
* * *
英語テクストは次のページより。
http://www.gutenberg.org/ebooks/9622
* * *
学生の方など、自分の研究/発表のために上記を
参照する際には、このサイトの作者、タイトル、URL,
閲覧日など必要な事項を必ず記し、剽窃行為のないように
してください。
ウェブ上での引用などでしたら、リンクなどのみで
かまいません。
商用、盗用、悪用などはないようお願いします。
コメント ( 0 ) | Trackback ( )
From Kyd, The Spanish Tragedie, 3.2
トマス・キッド
『スペインの悲劇』 3幕2場より
ヒエロニモ:
わたしの目、これはもはや目ではない!
ただの涙あふれる泉になってしまった!
わたしの命、これはもはや命ではない!
ただ死が生きているだけなのだ!
この世はもう壊れてしまった!
人目はばからぬただの悪のかたまりだ!
人殺し、罪にあふれて、もうグチャグチャだ!
ああ、聖なる神よ、こんな邪悪な行為が、
これほど非道で野蛮なことが、
あってはならないこんな殺戮が、
わが子の、いや、かつてわが子であった者の、殺戮が、
なされたまま闇に葬られ、そのまま復讐がなされない、
なんてことがあろうものなら、
神よ、あなたに正義を見ることなど、できるわけない!
当然です! あなたの正義を信じて、そして裏切られたりしたら!
夜、わたしの悲しみと同じくらい黒い夜、
わたしは身の毛もよだつ、恐ろしい幻を見る!
グザグサに刺されて血を流し、苦しみもがくわが子を見る!
そして、わたしは思い知る、わたしの子は死んだのだ、と!
すると、見るもおぞましい悪霊たちが
地獄から飛び出し、攻めてくる。
わたしの心に炎と、無慈悲な怒りを注ぎこむ!
夜が明ければ曇り空、わたしの満たされぬ心そのものだ。
曇った空を見あげていると、夜の悪夢がよみがえる。
そして、わたしは、わが子を殺した犯人を求めて飛び出す!
目よ、命よ、世界よ、神よ、地獄よ、夜よ、そして太陽よ!
見つけてくれ! 探してくれ! 見せてくれ! 送ってくれ!
誰か、何か、手がかりになるような・・・・・・
[手紙が落ちてくる]
* * *
Thomas Kyd
From The Spanish Tragedie, 3.2
HIERONIMO
Oh eies! no eies but fountains fraught with teares;
Oh life! no life, but liuely fourme of death;
Oh world! no world, but masse of publique wrongs,
Confusde and filde with murder and misdeeds;
Oh sacred heauens, if this vnhallowed deed,
If this inhumane and barberous attempt,
If this incomparable murder thus
Of mine, but now no more my sonne
Shall pass vnreueald and vnreuenged passe,
How should we tearme your dealings to be iust,
If you vniustly deale with those that in your iustice trust?
The night, sad secretary to my mones,
With direfull visions wake my vexed soule,
And with the wounds of my distresfull sonne
Solicite me for notice of his death;
The ougly feends do sally forth of hell,
And frame my hart with fierce inflamed thoughts;
The cloudie day my discontents records,
Early begins to regester my dreames
And driue me forth to seeke the murtherer.
Eies, life, world, heauens, hel, night and day,
See, search, show, send, some man, some meane, that may---
[A letter falleth.]
* * *
ところどころ、英語一行に対して日本語は二行。
* * *
英語テクストは次のページから。一部修正。
http://www.gutenberg.org/ebooks/6043
* * *
学生の方など、自分の研究/発表のために上記を
参照する際には、このサイトの作者、タイトル、URL,
閲覧日など必要な事項を必ず記し、剽窃行為のないように
してください。
ウェブ上での引用などでしたら、リンクなどのみで
かまいません。
商用、盗用、悪用などはないようお願いします。
『スペインの悲劇』 3幕2場より
ヒエロニモ:
わたしの目、これはもはや目ではない!
ただの涙あふれる泉になってしまった!
わたしの命、これはもはや命ではない!
ただ死が生きているだけなのだ!
この世はもう壊れてしまった!
人目はばからぬただの悪のかたまりだ!
人殺し、罪にあふれて、もうグチャグチャだ!
ああ、聖なる神よ、こんな邪悪な行為が、
これほど非道で野蛮なことが、
あってはならないこんな殺戮が、
わが子の、いや、かつてわが子であった者の、殺戮が、
なされたまま闇に葬られ、そのまま復讐がなされない、
なんてことがあろうものなら、
神よ、あなたに正義を見ることなど、できるわけない!
当然です! あなたの正義を信じて、そして裏切られたりしたら!
夜、わたしの悲しみと同じくらい黒い夜、
わたしは身の毛もよだつ、恐ろしい幻を見る!
グザグサに刺されて血を流し、苦しみもがくわが子を見る!
そして、わたしは思い知る、わたしの子は死んだのだ、と!
すると、見るもおぞましい悪霊たちが
地獄から飛び出し、攻めてくる。
わたしの心に炎と、無慈悲な怒りを注ぎこむ!
夜が明ければ曇り空、わたしの満たされぬ心そのものだ。
曇った空を見あげていると、夜の悪夢がよみがえる。
そして、わたしは、わが子を殺した犯人を求めて飛び出す!
目よ、命よ、世界よ、神よ、地獄よ、夜よ、そして太陽よ!
見つけてくれ! 探してくれ! 見せてくれ! 送ってくれ!
誰か、何か、手がかりになるような・・・・・・
[手紙が落ちてくる]
* * *
Thomas Kyd
From The Spanish Tragedie, 3.2
HIERONIMO
Oh eies! no eies but fountains fraught with teares;
Oh life! no life, but liuely fourme of death;
Oh world! no world, but masse of publique wrongs,
Confusde and filde with murder and misdeeds;
Oh sacred heauens, if this vnhallowed deed,
If this inhumane and barberous attempt,
If this incomparable murder thus
Of mine, but now no more my sonne
Shall pass vnreueald and vnreuenged passe,
How should we tearme your dealings to be iust,
If you vniustly deale with those that in your iustice trust?
The night, sad secretary to my mones,
With direfull visions wake my vexed soule,
And with the wounds of my distresfull sonne
Solicite me for notice of his death;
The ougly feends do sally forth of hell,
And frame my hart with fierce inflamed thoughts;
The cloudie day my discontents records,
Early begins to regester my dreames
And driue me forth to seeke the murtherer.
Eies, life, world, heauens, hel, night and day,
See, search, show, send, some man, some meane, that may---
[A letter falleth.]
* * *
ところどころ、英語一行に対して日本語は二行。
* * *
英語テクストは次のページから。一部修正。
http://www.gutenberg.org/ebooks/6043
* * *
学生の方など、自分の研究/発表のために上記を
参照する際には、このサイトの作者、タイトル、URL,
閲覧日など必要な事項を必ず記し、剽窃行為のないように
してください。
ウェブ上での引用などでしたら、リンクなどのみで
かまいません。
商用、盗用、悪用などはないようお願いします。
コメント ( 0 ) | Trackback ( )